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ヴァーバルの剱  作者: 真川塁
第二話 北風と太陽
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二度目の決着

 作戦会議からの四日は瞬く間に過ぎていった。


 気がつけば当日になっていた、と云ってもあながち大げさではないほどに濃密な一時だった。大きく学んだり操縦が格段に成長したりということはなかったが(どう足掻いた所で四日は四日だ)、それでも相手が学年二位だからと気後れするようなこともなくなった。


 勝てるという自信もあれば、勝つという想いもある。


 そういった強い心意気を保ち、レイナード達は戦場へとやってきた。


 野外演習場。

 室内とはまるっきり大きさが違うこの設備は学内に三か所ある。来年にはもう一つ完成するらしいが現在ではまだ三つで、うち一か所が校庭のほど近く。残る二か所が学校裏の山中になるのだが、レイナード達が本日戦う舞台となるのは後者だ。


 校庭の近くは目立つのでレイナードが断った。あそこは下校中の生徒や校庭で部活に勤しむ生徒などから丸見えだ。まぁ、この時期メンバー勧誘のために観衆集まる中で模擬戦を行いたいチームなどには人気があるため押さえられなかったというだけの話かもしれないが。


 レイナード達が到着するよりも早くクラウディア達は既にグラウンドにいた。


「遅いわっ!」

「……全然、時間はあるじゃないか」


 腕時計をちらりとみる。

 時間はまだ三時前。彼らよりもひとつ前の時間帯にグラウンドを借りていたチームが撤収の作業をしているのを見てもまだまだ予定の時刻よりも早いことがわかる。


 しかし、クラウディアはそんな正論通じないわと、


「私はすぐ始めたいの! タイムイズマネー! 時は金なり……いや、時は金よりも強しってね!」

「ペンと剣ほどの含蓄はない諺だな」


 しかし、彼女の意気込みは伝わってきた。そして、彼女もレイナード達同様に負けの二文字を眼中に入れてない。

 その自信の表れ、キーマンへと目を向けると向こうもこちらを見ていたので視線がカチあった。

 挨拶をしようと口を開くまえに向こうが手を差し出してきた。


「ゼアドール・シュタイナーだ」

「レイナード・キュルソン。よろしく」


 相変わらず表情にこそ乏しいが極めて友好的な仕草にこちらも朗らかに返す。

 堅い。

 レイナードが最初に抱いた感想がそれだ。

 その拳は非常に堅く、その実直そうな性格をも表している。ガタイはすこぶる良いとはいえないがそれでもオズを使わない戦闘も強そうだ。

 体型は白兵戦には不向きだが、その細いながらに筋肉はしっかりついているトコロや背の高さ、そして顔立ちも良いので学園の女子が黄色い悲鳴をあげるのも分かる気がする。


「きゃーっ!!」


 ……まぁ、我が整備科の女子はゼアドール本人ではなく、背後に立つオズを見て黄色い悲鳴をあげているが、これは例外だ。


「なに緩い雰囲気出してんのよ! 」

「そうだぜ、そいつらは敵なんだぞ!」


 何故か慣れ合うなという部分では意見が一致しているクラウディアとジョルナンが方々から野次を飛ばす。

 それを受けるレイナードの表情は苦笑いで、ゼアドールもそこまで表情は動かないがわずかに眉がよった。

 クラウディアに付き従うような人物だから、一体どんな人格破綻者が出てくるのかと思えば、意外にも(表情の動きこそないが)普通の青年といった体だ。

 自分達同様、賭けでもしたのだろうか?


「さぁ、さっそくルールの説明に入りましょうか」


 うずうずした様子のクラウディアが思考に横槍を入れる。

 それを煩わしく思うこともせず、レイナードは彼女の方へと向き直る。まぁ、そちらが本題なのだから当たり前といえば当たり前だが。


「ルールはフラッグ。私とゼアドールのチームが赤い旗、そっちが青い旗。それぞれ自分チームの旗が倒されたら負けよ」


 いいわね、と目配せしてきたので代表して首肯をする。


「こちらの機体はブルーダー一機とサニーウィンド一機の二機」

「こちらはブルーダーが四機だ」

「あら、メアリは使わないのね」

「あぁ、前回のことがあってからお母さんが厳しくてな」


 あれ以来、自称“メアリの母”ことアイナのメアリへの溺愛っぷりが凄い。まぁ、今回はメアリである必要はないし、全て同一の規格にした方が敵の混乱を誘いやすい。そういった視覚的な効果も込みで、こういう運びとなった。


「まぁ、いいわ。ホイッスルは三時半にセットしたから、それまでに下準備があるなら終わらせなさい」


 命令口調の上から目線。ジョルナン辺りはその物言いに何かしらのアクションを起こしそうだがレイナードにはその仕草が既に彼女を形勢する一つの要素だと思っているので別段腹立たしくもない。只、少しばかりの感心と少なくない辟易から皮肉めいた台詞を吐く。


「……相変わらず自信満々だな」

「そりゃそうよ。負けるはずがないもの」


 ででんと胸を張るクラウディア。決して存在感のあるモノではないが身体にフィットするパイロットスーツに身を包んでいるとそのフォルムをしっかりと確認することができる。

 ちなみにナターシャはだいぶ大きい。存在感を主張している。身体を小さくしているのでその分さらに大きく感じる。

 立派になったなぁ、というおよそ学生とは思えない枯れた感想しか出てこないレイナード。

 そのわずかな思春期らしさも次の瞬間には消え失せていた。


「それじゃあ準備に取り掛かるか」


 レイナードはそう宣言して、チームメイトへと振り返った。







 室内演習場と同様、こちらにもモニタールームは完備してある。


 しかし違う部分もある。


 2チームによる対戦がその殆どを占めるバジーレではあるが、稀に1対1対1などの3チーム入り乱れてのサバイバルなどと変則的な試合が行われることがある。

 そういった際にも各チームがひとつずつ使えるようにこちらには4つのモニタールームがある。

 尤も今回は両チーム合わせても観客がアイナ一人だけなので使うのは一室だ。


「――これで映像は外に漏れないな。録画機材の準備も大丈夫そうだし……よし、みんな」


 放映用のカメラを停止し、その他の機材状況も確認する。今日はメアリではないので自分たちのデータをとることはあまりしないが、学年二位の操縦データをとれる良い機会なのでそちらの方向でセッティングしておいた。

 一通り終えて、チームメイトを集める。


「作戦通りにやれば勝率は十二分にある」


 一人一人の目を見て語りかける。


「もしも、向こうが予想外の行動をとってきても焦るなよ。距離をとるか、嫌な気配を感じたら逃げてもいい」

「逃げていいのかよ?」

「どう取り繕ったところで、やっぱりこちらの一番の強みは数だからな。それに数が多い方が使える作戦も増える」


 最大の強みなのだから、上手く活かしていくことを心掛けるべきだろう。

 全員がそれを心に留めるのを見まわしていると、やはり一人だけ浮かない顔のナターシャで視線が止まる。

 ポンと肩を叩くとこちらの想像以上に大きくビクッと跳ねた。


「あんまり緊張するな」

「うん……ごめんな、さい」


 あくまでダウナーな彼女に、レイナードは嘆息する。


「そんなもう負けたみたいな声を出すな。そしてもっと気楽に構えていろ」

「う……矛盾、してる」

「負ける気はないが、負けたって別に本当の戦場みたいに死ぬワケじゃないんだ。そういう意味では気楽にいけ」

「……うん」


 云って、ナターシャは小さく笑む。


 その答えに満足し、戦いの準備へと思考を戻したレイナードは終ぞその笑顔に哀しみが混じっていたことに気付かなかった。







 三時二十八分。

 グランドの南東。

 そこに青い旗がはためくのを中心に四機のブルーダーが体勢を整えている。


 作戦会議を終えた一同はモニタールームへと向かったアイナ以外は既に機体に搭乗しており、開始時刻も近いので外野扱いになるアイナとは通信もすでに断絶している。今は静かに戦いを待つばかり――


「よっしぁああああ! やっちゃるぜぇええええ!!!」


 とはいかなかった。


「……なんでジョルナンはあんなにテンションあがってるんだ?」

「レイの激励が予想以上に効いたのか、もしくは試合前に飲んでた『聞いたこともないような栄養剤』のおかげかもね」

「こわい」


 ナターシャが完全にひいていた。

 試合前に自らを鼓舞するのはわかる。

 元々ジョルナンは試合前はテンションのあげる性質タイプだが、今日はいつにも増して激しかった。


「トップセカンドをぶちのめしてやるぜぇ!」

「その意気は良しだが、逆に心配だな……」


 これが自分の飛ばした檄による効果だとするならば、もう鼓舞するのはやめよう。

 これが名前どころか原材料も不明瞭な栄養ドリンクによる効果ならば、もう飲ませないようにしよう。

 これじゃあ作戦に支障が出かねない。


 決心したところで右手につけた腕時計の短針が動き、デジタル表記も「15:59」へと変わる。

 デジタルとアナログの両方での表記があり、なおかつ衛星電波式のダイバーズウォッチ。入学祝いに懇意にしていた時計職人から貰ったこの腕時計はレイナードのお気に入りだ。

 宝物に落とした視線をあげ、チームメイトに呼び掛ける。


「あと一分だぞ、ジョルナン。あまり先行しすぎるなよ」

「わかってるっちゅーの!」

「……マル、ジョルナンのお目付け頼んだぞ」

「はは……なんとかするよ」


 マルフリーは渇いた笑いで応えた。


「ナターシャ、じゃじゃ馬お嬢さんの相手は任せたぞ」


 二人に声をかけたついでにナターシャにも通信する。


「うん……レーくん」


 少しの静寂の後、名を呼ぶ声。


「ん? どうした? まさかまだ緊張してるとかなら――」

「――ごめん、ね」

「?」


 呟き、通信が途絶える。




 ピィィィィイイイイイイイ!!!




 同時に試合開始を告げるホイッスルの音がグラウンドに響き渡る。

 ジョルナンの機体がけたたましい音を響かせ、爆走する。

 それを追うようにマルフリーの機体も発進する。




 ピィィィィイイイイイイイ!!!




 そこで、再びホイッスルが鳴る。


「――っな!?」


 フライング、などではない。

 元より速度を競う競技でもないし場外などもないので、ちょっとした先行は違反にならない。

 それに今回は公式な試合でもないので審判もいない。

 ホイッスルというの俗称でこの音も誰かが吹いている訳ではなくスピーカーから流した人工のモノだ。スピーカー等の機材が異常をきたした訳でないのなら、ホイッスルが吹かれることは二回しかない。


 一回目は開始の合図。

 そして、二回目は――


 後ろを振り返る。




 そこには青い旗を地面より引き抜いた状態で固まっているブルーダーがいた。




「ナターシャ……」


 茫然と呟くレイナード。



 彼にとっては二度目となる騎乗科とのバジーレは味方の裏切りによって、開始わずか1秒というレコード記録で黒星をつけたのだった。

 



派手な闘いを期待していた方、ごめんなさい。


我らが軍師はまだ戦いません。

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