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ヴァーバルの剱  作者: 真川塁
第二話 北風と太陽
10/27

作戦会議

『今年の一位はひきこもり』


 名前と成績は公表されているものの、一度も学園に登校していない、姿を見た者がいない為、そういった噂が広まっている。


 そのためゼアドール・シュタイナーは実質的には今年の一位の生徒といっても過言ではないだろう。

 上から二番目であること、そして実質的にはトップであることから「トップ・セカンド」と呼ばれている。


 トップ・セカンドと云う他にない二つ名とそれに裏付けされた確かな実力、そのうえ容姿淡麗ときている。寡黙な部分もクールで素敵と学園内での女子人気は非常に高い、とさっきマルフリーに教えてもらった。


 確かに「トップ・セカンド」という呼び名にはレイナードにも聞き覚えがあったが、しかし名前や扱う機体までは覚えていなかった。

 顔と名前を覚えられないことに危機感を抱いたのは久しぶりだった。




「さて、じゃあ作戦会議といこうか」


 クラウディアが教室に来てから三日後。


「試合までの日数も、練習できる時間も限られてるからな。とりあえず概要だけでもさっさと説明してしまおう」


 そういって整備科のいつものメンバーにナターシャを足した計四人をプラクティスルームに集めたレイナードは、対策会議を行っていた。


 試合の日取りはあの時から一週間後――つまり今日から数えて四日後――に設定された。

 幾分間が空いているような気もするが四対二ともなると室内演習場での演習は不可能なので野外演習場グラウンドを使用するしかないのだが、野外演習場は室内演習場同様に予約制で、しかもこちらの方がフィールド数は少ないのに希望者は多い。新人戦のチームが決まりつつあるこの時期ならば申請から一週間でも早い方だろう。相手のデータに目を通し、有効な作戦を練る為の時間と考えれば少ないくらいだ。


 思考錯誤を繰り返しているレイナードを傍目にウキウキした様子なのは唯一アイナだけだった。


「楽しみね~」

「お前は出ねぇからだろうが」


 学年二位と学年二十一位のペアを相手にするのはレイナード、ジョルナン、マルフリー、ナターシャの四名だ。

 オズに乗りたくないがためにオズに乗って戦うというのもなんだが本末転倒な話だが、アイナをチームに組み込むのはレイナードをもってしてもギャンブルになってしまう。


「今回の相手は前回のような格下かもしれない相手なんかじゃない。学科21位と学科2位という明らかな格上だ」


 特にゼアドールは学年に限っていえば学年屈指のハイランカーだ。普通に闘えばまず間違いなく負ける。そこに異論が挟む余地はない。


「だが手がないわけじゃない。こっちにも学科14位の才女がいる訳だしな」

「うぅ……ごめんね」

「なんでそこで謝るんだよ」

「期待してるからね~、ナターシャちゃん!」

「うぅ……」


 新しい友人から温かい言葉をかけられた優等生は恥ずかしそうな、申し訳なさそうな顔で目を伏せる。

 元々あまり人見知りをしないジョルナンやアイナは既に慣れ親しんでいるが、ナターシャはまだ心を開ききれてない感がある。チーム戦は連携がモノを云うのでチーム内での意思の疎通・伝達が大事になってくる。なので、ナターシャにももう少し慣れてもらえると嬉しいのだが……。

 まぁ、これでも彼女にしてはまだ喋れている方なのでこれ以上を期待するのは酷だろうか。日数的にも難しいだろうし、あまり気にしないことにする。

 それに今回はそういった面も鑑みてあまり連携を重視するような作戦でないものにした。


「基本の作戦はこうだ。まずナターシャがアルデンヌを抑える。そしてジョルナン、マルフリーがシュタイナーを抑える。そして、オレがフラッグを奪取する」


 テーブルに広げたグラウンドの地図と各機体に見立てた雑貨を置き、簡易的な作戦マップを作って視覚に訴える優しい説明を心がける。その方が理解も早いだろうという配慮だ。


「随分とシンプルだな」


 流石にこの作戦にはジョルナンも眉をひそめる。

 実力拮抗のナターシャとクラウディアを戦わせ、学年二位を整備科の二人がつかず離れず牽制する。その間にフリーのレイナードが相手チームの旗を奪い取る。王道といえば聞こえはいいが、特筆すべき点のない凡庸な手だ。

 しかし、そうしたのには理由がある。


「向こうは何を勘違いしたのかオレを軍師として欲しいと言ってくるようなヤツだ。それならば当然あちらさんは、オレが『誰もが思いもしないような作戦』を仕掛けてくると考えてるはずだ。そこでオレがそういう『奇策』を仕掛けたとしても、それはもう『奇策』にはならない」


 レイナードの言葉に一同は頷いてみせる。

 相手打者のタイミングをずらすスローボールも、来ることがわかっていれば只の遅い球だ。これ以上の絶好球はない。


「だったら奇をてらわずに王道プランの方が向こうからしたら『奇策』だろ?」

「それはわかったけど、その作戦でアルデンヌさん達を倒せるのかな?」

「まぁ、それだけじゃ無理だろうな」


 クラウディアがあの条件でOKを出した背景には学年二位の実力があるのは明白だ。そして、それはあの条件下で普通に闘えばまず負けないという自信から来ているはずだ。


「ゼアドール・シュタイナーの方はホルダーだからデータに乏しいんだが、それでも段違いの強さだってことは前評判と少ないデータからでもわかる」


 オズのメインカメラには録画機能もついていて、搭乗後に自分自身の動きを分析したり対戦相手の動きの確認なども出来る。学園保有の機体からは申請すれば他人の搭乗データであれ見ることが出来る(試合の練習等で外部に公開したくない時はその試合期間終了までは非公開にすることも出来る)のだが、個人が所有する機体ともなると他人がその情報を手に入れるのは難しい。


 本人に同意をとるか盗むかの二択になるが、前者は事情が事情なので無理、後者は窃盗になるので社会的に無理がある。

 そのため、彼の機体の分析は練習試合などで彼と闘った機体に残るデータからおおよその動きやパターンを予測するしかないが、どの試合もモノの数十秒から長くても三分ほどで決着がついてしまっているので、不完全なモノしか出来上がらなかった。しかし、その『不完全なデータしかとれない』ということが既に強さを証明している。


「せめて、油断してくれていればいいがそれも期待は出来ないしな」


 どんなに自信があっても、どんなに有利な勝負でも100%の確率で勝てるモノはない。

 それを知っているであろうクラウディアやゼアドールはこの試合で余裕を見せるような闘いをすることもないだろう。それでは油断を誘えない。


 今回の勝負。

 向こうの核となるのはやはり学年二位の卓越した操縦技術だろうが、それでも向こうが慢心していれば付け入る隙はあった。それがあれば、勝率は七割近くまで上がっていただろう。

 しかし、今回は六割五分もいかない。


「けれど、その如才のなさを逆手にとることはできる」


 そう自信に満ちた言葉と表情で皆の士気を高めつつ、説明を続ける。


「さっき言った通り、最初は相手の意表を突き王道で行く。

 問題はその後だ。向こうはこちらが王道パターンで行動したとしてもしばらくは様子を見るハズだ。『まだ何か仕掛けてくるつもり』じゃないかってな」

「牽制が入るわけか」

「そう、そこで少しの間動きが鈍くなるはずだ」


 この行動がブラフで、その裏には何か落とし穴のようなものが待っているんじゃないか?

 クラウディアはそう考えるはずだ。そうすれば、自然とこちらの動きを窺うようなカタチになり、一定の膠着時間が生まれる。


 クラウディアはレイナードがどんな作戦をたててくるかには興味があるはずだし、ジョルナン達の動きを確認したいとも云っていた。だとすれば一太刀目で斬って捨てるようなことはないだろう。

 ゼアドールの方は性格も思考も読めないが、一応チームリーダーはクラウディアだ。彼が彼女の指示に従うのなら、数秒の隙がある。


「で、でも、そんなの直ぐにアルデンヌさんにバレちゃうよ?」


 不安気に語る幼馴染の言葉に、しかし「それはそうだ」と頷くレイナード。


「ある意味バカっぽいところはあったが頭の回転は悪くなさそうだったしな。けど、それでいいんだ。向こうが『あぁ、これ以上の作戦はないんだ』と思ってくれることが、大事なんだ」

「?」

「んー……いまいちわかりづらいんだけど?」

「どういうことかな?」


 口ぐちに疑問の声をあげるメンバー達。

 それに応える立案者。


「アルデンヌはこちらが特殊な策を講じてくると思っていた。けれど、そんな予兆はない。そうなれば向こうはこちらの王道に真っ向からの勝負を挑んでくるはずだ。そこで初めて作戦が通用するようになるってことさ」


 奇策を待っている相手に奇策は通じない。

 だから、相手に奇策はないものだと信じ込ませる。

 そうすれば、奇策は通用する。


「向こうがこちらの作戦に気がついたと同時に、次の作戦を展開する」


 レイナードが先ほど広げたマップ上に置いてあったオズに見立てて雑貨を次々と移動させる。


「まず、旗を目指していたオレがジョルナン達に合流する。そして、今度はマルフリーがナターシャの応援にいく」


 そういってマップ上に置いてあるペットボトルのキャップを囲む消しゴムとスティックノリにポケットティッシュが合流し、今度は消しゴムが抜ける。

 ……この説明方法は間違いだったかも、と一瞬不安に駆られたレイナードだったが他の面子は気にしていないようなのでそのまま続行した。


「ナターシャとアルデンヌの闘いはこう着しているはずだ。そこにマルフリーは後方からの援護射撃」

「それなら、任せて」


 胸を張るマルフリー。オズの運転はあまり得意でない彼だが、射撃の腕は整備科でもピカイチだ。


「そうして、三対一で学年二位を足止めしている間に旗をとるってわけか」

「いや」


 そうではない、とレイナードは否定した。


「そうしてアルデンヌを倒した後、改めて四人・・でトップ・セカンドを・・・・・・・・・攻略・・する・・


 その言葉に一同は考えが追いつかない。

 しばらくの間が空いて、マルフリーがぽつりと言葉をもらした。


「それじゃあ……」

「あぁ、最後・・・だ」


 旗をとれば終わりのこのゲーム。

 一機ごとの実力に乏しい整備科チームは積極的に旗を狙ってくると考えているはずだ。だったら、旗は最後でいい。

 純粋なバトルでは勝てないと向こうが思っているのなら、純粋なバトルで勝てばいい。


 敵チームのオズを全部倒す必然性はないが、敵チームのオズを全部倒せば必然的に旗もとれるのだ。


「恐らくアルデンヌは三対一の状況についてはある程度考えてるはずだ。

 順位的に考えても自分とナターシャを対峙させ、残りの三人をどう使うか……きっとそんな風に考えてたはずだ。その上で承諾したってことはつまり『万が一、三対一で戦うことになってもシュタイナーは負けない』という自信があるってことだろ?」

「確かに……」


 そうなると三対一では足りないかもしれない。


「だから、四体で攻める」


 力強く言いきったレイナード。


「あ、でも……」


 聡いマルフリーが何かに気づいて、声をあげる。


「そこまで考えてるなら四対一になった場合の対処もしてるんじゃないかな?」


 しかし、それは想定内だというようにレイナードは不敵に笑う。


「多分大丈夫だ。このゲームはフラッグだからな」

「そうか! フラッグなら一人は必ず旗を狙いにはずだよね」

普通・・はな」


 だから、レイナードは旗を狙わない。

 それが一番の『奇策』だ。


「確かに、それは考えないわねー」

「うん……フラッグのはずが完全にサバイバルになっているもの」

「やっぱ、レーくん、すごい……」


 羨望の眼差しがいくつもむけられるが、やっぱりそういうのは慣れないレイナード。


「勿論、四対一でも確実に勝てるって相手でもなさそうだし、場合によっては先に旗を狙って動くこともありえるから、あくまでも『現段階での予定』だけどな。それ以外にも不安要素はいくつもあるし」


 相手の出方。攻撃に転じるタイミング。その時にレイナードの援護が間に合うかどうか。そして、未知数な敵の実力。


「タイミング、位置取り、狙撃ポイント、敵の動き……全部をこの4日で詰め込むわけだから、遊んでる暇なんてないぞ」

「そりゃ、大変そうだ」


 口ではそういいつつもどこか楽し気なジョルナン。

 皆、期待しているのだ。レイナードならば学年二位を倒すことができると。


「…………」

「どうした、ナターシャ?」

「う……なんでもない」

「?」


 やる気に満ちた一行の中で唯一表情に陰りがあったことナターシャ。それに気がついたレイナードが問いかけるも彼女は言葉を濁すばかりだった。


 わずかな引っかかりを感じたレイナードだったが、その違和感は打倒トップ・セカンドに燃える面々から投げ掛けられる質問の束に霧散していった。





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