幕間 幼馴染みを案内する方法
肥えたか……?
冒険者ヘリウス・ジエルキスは鏡の前で腹を撫でた。
キシギディル大陸のモタマチムイ遺跡国最大のシレルフィールの城塞都市にはその広さゆえに町みたいなところが中にある。
ヘリウスはそこにある下宿屋の一室で久しぶりの正装に身を包み悩んでいた。
『ヘリウス、今度そちらに殿下と訪問する、空き時間に遺跡の案内をしてくれ。』
妙な迫力で優美優雅を座右の銘とする幼馴染の宮仕えの兼業傭兵に脅迫されたのである。
幼馴染は服装の乱れは心の乱れという男であり、また殿下と呼ばれる上司が高貴なので作業着というわけにいかずヘリウスは昔の正装を出して試着してみたというわけである。
「そ、袖に腕がはいらねーし、腹も胸も腰もパツパツだ。」
グーレラーシャの正装は防御力の高い特殊な織りの布地でできた基本立衿長袖の長衣に細身のズボン、額当てと得意武器となっている。
いろいろアレンジはあるがヘリウスの正装は剣士らしい中央に動かやすいようにスリットがはいった茶色の膝丈の長衣だ。
「剣か……しばらく使ってないな。」
ヘリウスがかつての武器を無意識に手にとって違和感を覚えた。
「軽いな…太ったんじゃねぇのか?」
ヘリウスは洗面ユニットについた鏡確認したガッチリとした赤毛の男が不思議そうな顔で映っていた。
「筋肉がついたのか。」
腕を曲げてみてビリという不安を誘う音を聞いて慌てて下げる。
ヘリウスは独身なので寂しいひとりごとである。
「…もう、スピートタイプじゃないよな。」
ヘリウスはしみじみ己の身体をみた。
かつて、中等剣士としてファモウラ軍国大戦の時のは先手必勝のスピートタイプ戦闘だったので今と筋肉のつきかたが違ったのだ。
まさに細マッチョとガチマッチョのごとくの違いである。
「武器も持たんし、うっぱらって天鉱合金のスコップでも買うか?」
ヘリウスは懐かしい細み剣をみながらわらった。
ヘリウスの今の仕事道具はスコップと両手もちのハンマーである。
つまり両手持ちのバトルハンマーがヘリウスの今のメイン武器の理由はシレルフィールの城塞都市遺跡の特徴によるものであった。
通常の遺跡にもたまにのこっているのだが実はシレルフィールには大昔の防衛システムがまだほとんど狂わず構築されているのである。
防衛システムトゥーセリアというそのシステムは情け容赦なく守護ロボットを送り込んでくるので考古学者や遺跡管理組合は冒険者を雇い徐々に安全な地区を増やしているのだがいまだ、シレルフィールの城塞都市中央城塞には考古学者も冒険者も到達していない。
守護ロボットも遺跡の一部のためなるべく傷つけないことが望ましいためヘリウスは元インテリ傭兵として的確に最低限の被害で守護ロボットをウォーハンマーで殴りつけてていしさせているのであった。
「ついでに正装もうっぱらってなんか正装っぽいの買うか。」
ヘリウスは正装を脱ぎながらつぶやいた。
グーレラーシャの正装は特殊生地の上刺繍も細かいので古着でも高価買取なのである。
ともかく幼馴染がくるまでに正装……いや正装らしきものを確保しておかないと後が面倒くさい……ヘリウスはため息をついた。
特殊生地で出来ているグーレラーシャの正装はそれこそ本国くらいでしかてにはいらないのである。
「そうだ……明正屋に何かあるかも……」
そういえば万屋明正屋に下着が置いてあった。
なにか作業着以外の服もあるかもしれないと思ったのである。
シレルフィール城塞都市の側に万屋明正屋と言う、謎の商品から食料品、はては下着まで扱う店がある。
カランカランと入り口の扉がなって早速ヘリウスがやって来た。
「店長、服は売ってるか?」
ヘリウスがいきおいこんでカウンターにやって来た。
「いらっしゃいませヘリウスさん、ごめんなさい下着くらいしかないです。」
店主が困った顔をした。
服は好みがあるのでまだ置いてないのだ。
「困ったな。」
ヘリウスが頭をかいた。
「どんな服が必要なんですか? 」
店主がヘリウスを見つめた。
「正装が急遽ひつようになってな。」
ヘリウスが頭をかきながらいった。
「お力になれなくてすみません、どうして正装が必要なんですか? 」
店主が好奇心ですみませんと再度頭を下げた。
「ああ、幼馴染みが今度来ることになってな。」
ヘリウスが苦笑したそいつが服装にうるさいやつでなとつづけた。
幼馴染……店主は少し心がざわついた。
「あれ?おかしいな?」
店主は不思議そうに呟いた。
単なる客のヘリウスに幼馴染みがいようと店主には関係ないはずである。
「大変ですね。」
店主は無理矢理微笑んだ。
「ありがとう……故郷で傭兵学校卒業時に見立ててもらって、正装をつくって以来つくってないから体型がかわってもしかたないが……」
ヘリウスは言った。
「傭兵学校いってたんですか?」
体型はガッチリだが穏やかでインテリのヘリウスが傭兵学校とは意外と異世界人な店主は思ったようである。
グーレラーシャ人全国民傭兵はパーウェーナ世界の常識である。
「ああ、前職はグーレラーシャの傭兵だ、対ファモウラ戦も出ていた、昔はこんな感じだ。」
ヘリウスが通信機の画面に画像を出した。
そこには今より若いグーレラーシャの正装を着て赤毛を一本三つ編みにしたヘリウスが同じく正装を着た若いグーレラーシャ人の男性たち数人と肩をくみあい嬉しそうにうつっていた。
傭兵学校の卒業写真である、もちろん今とは比べ物にならない細マッチョである。
「ヘリウスさん?ですよね、髪の毛長かったんですか?」
店主は長髪のヘリウスさんって違和感あると思った。
「グーレラーシャの武人は大体この髪型だ、ミツアミ隠し武器を入れておくからなんだが、俺は遺跡では引っ掛かるんで早々切ったが。」
ヘリウスがサバサバと言った。
短くしたら楽ちんでびっくりしたヘリウスであった。
「そうですか、今の髪型似合ってますよ。」
ヘリウスの知的な爽やかさにあってると店主は思って笑った。
特にこだわりもなく、床屋任せの髪型である。
「ありがとう、……店長、いや、天見さん、オレの服を見立ててくれないか?」
店主の笑顔が何故か可愛く見えたヘリウスは思わず頼んだ。
少し店以外でもあってみたいと思ったのである。
もちろん、正装をみたててもらいたいのもあるが。
「良いですよ、近くの町でいいですかね。」
店主はなぜか嬉しそうに言った。
その笑顔にまたドキッとしたヘリウスであった。
後日、二人でシレルフィール遺跡に一番近い町に服選びにいったようだ。
二人を町でリハビリ中の冒険者ニルザード・デーランが見かけたが、ヘリウスのおっさんと店主さんデートしてたぜと病院に見舞いにきた考古学生、デリア・ミーミアに報告した。
その話が遺跡関係者に広がるのは火を見るより明らかである。
後日やって来たヘリウスの幼馴染の男性は大変おどろいたそうである。
「その筋肉はどうした! 武器を持たないのか! グーレラーシャの武人としての誇りを無くしたのか! 」
とヘリウスの鍛え上げられた肉体をみて絶句したそうだ。
もちろん、冒険者のヘリウスはグーレラーシャの武人ではもうないのである。
誇りより遺跡だといったら怒られたそうである。
服装に一家言のある彼にとって間に合わせの正装はギリギリ及第点だったらしく今度グーレラーシャに来て正装も作り直せと言いおいて帰ったらしい。
幼馴染みが同行した殿下はアルティウス・グーレラーシャだった、今回も考古学者、快黎・グーレラーシャを訪ねたようだ。
本当に人騒がせなグーレラーシャのサーペントである。
ちなみに、ヘリウスは幼馴染みから中等剣士の資格更新になぜこない!通知が来ていたぞ!ちゃんとしろ!と怒られたので近く里帰りの予定だ。
本日の商品
他店購入によりなし。
ヘリウスとのデート? 目撃情報一名あり。