本日の商品『クリアウォッシュEX 』
なんて不信心な…。
キャリサ・ダータンスは呆然と祠をのぞき込んだ。
この間発掘された住居地区遺跡の守り神として建てられたと思われる祠まで落書きしてある。
俺も守って(笑)ってバチが当たりますよ。
キャリサはため息をついた。
キシギディル大陸のモタマチムイ遺跡国最大の遺跡シレルフィールの城塞都市では今、心ない観光客の遺跡への落書きが問題になっている。
キャリサ・ダータンスはシレルフィール遺跡管理組合の紅一点の組合員だ。
モタマチムイ遺跡国も一部面しているキシグ海という大きな淡水の湖の水中の町シアノセーア出身の水人族である。
水人とはほぼ人と同じ姿をしていて尾びれと手の指の間のヒレは陸上にいる時はほぼ乾燥して目立たない、完璧に水と無縁で暮らせないが手先が器用なマーマン族や戦闘民族なマーメイド族に比べればよっぽど地上人と交流しているのである。
地上メインで生活してる水人族もそこそこいてラマー海漁国の王妃は水人族である。
泳ぐのは人魚族やマーマン族のように早くないが頭が良いのである。
「どうしよう、消えない。」
水人族なので水の扱いは馴れているが落書きはインクに何を使っているのか消える様子がない。
「どうしたんですか?」
研究に来たらしい考古学者ティス・ハードンが床から視線を上げた。
「落書きが消えないんです。」
キャリサが困った顔をした。
「うーん、磨き粉で磨くわけにいきませんしね。」
ティスが祠の中をのぞき込んだ。
「当たり前です、尊きトゥーセリア様の祠ですよ。」
キャリサの住むキシグ海の町にはじつはトゥーセリアの社がありキャリサはソコソコ信者なのだ。
それに貴重な遺物を傷つける処置はできない。
「明正屋に良さそうな洗浄剤があったかな?」
ティスは無責任に言った。
「ちょっと見てきますね! 」
キャリサはシレルフィール遺跡管理組合のマントをひるがえして駆け出した。
「おい、キャリサ、どこに?」
途中で上司にエルアルド・アーチに声をかけられた。
やはり壁に書かれた、俺様光臨! 落書きの前でうなっている。
「洗浄剤買ってきます! 」
キャリサが振り返って叫んだ。
「じゃ、ついでに日本酒頼む! お前ならうってもらえるだろう?」
懲りない親父である。
この間も酒と叫んでいたようである。
「いやですよ、仕事中ですし。」
キャリサはきっぱり断った。
「……もちろん冗談だ。」
エルアルドは苦笑した半分本気に聞こえたが?
まあ、いいのがあったら気にせず領収書切ってこいとエルアルドがヒラヒラ手を振った。
こういうところがエルアルドが信頼されるところである。
キャリサははいと答えて遺跡を駆けていった。
シレルフィールの城塞都市遺跡の前には万屋明正屋という便利グッズから下着まで
扱う店がある。
カランカランと入り口の鈴が勢い良くなって妙齢の女性が飛び込んできた。
「店長さん!洗浄剤ください!」
キャリサはそのままカウンターに張り付いた。
遺跡を綺麗にしたい。ソコソコ信仰しているトゥーセリア様の祠を綺麗にしたい一心である。
息切れしてるようだ足元がおぼつかない。
大丈夫ですか? と店主が声をかけた瞬間グラリとキャリサは崩れ落ちた。
「キャリサさん!?」
遠くで店主さんの声がすると思いながらキャリサの意識はブラックアウトした。
水人族は長期間地上で生活出来るがやはり水切れに弱い何も考えず駆けてきたキャリサは完璧に脱水である。
「店長…さん?」
気がつくと店のソファーに寝かされていた。
頭には濡れタオルがのっている。
「無理しないでくださいね。」
店主が心配そうな顔をした。
「そうだ、無理すんじゃねぇぞ。」
心配で追ってきたエルアルドが顔を出した。
キャリサが倒れた直後やってきたエルアルドはすぐにキャリサをソファーに運んだのだ。
この親父、面倒見がよく部下に慕われているのである。
「エルアルドさんから聞きました、汚れを落とし過ぎない洗浄剤がいいそうですね。」
まったく大事な世界の宝を何だと思ってるんですかね。と店主はコップに水を注ぎながら言った。
店主は遺跡が好きでここに店を出した遺跡マニアである。
「洗浄力が強いと遺跡を傷つけそうでな。」
エルアルドが頬をポリポリかいた。
遺跡保護のため強い洗浄剤は使えないのである。
その為に水洗浄がメインなのだが……落書きは水では落ちないので進退窮まったのだ。
「なにかありますか?」
キャリサは起き上がろうとした。
「まあ、お水でものんで。」
店主がコップを押し付けた。
キャリサはそのときの水は正に天の甘露だったと後日同僚に話している。
単なる明正和次元のミネラルウォーターである。
「このクリアウォッシュEXがいいと思います。」
店主が一息ついたキャリサにボトルを渡した。
「スゴく汚れが落ちそうですが。」
キャリサは期待の眼差しでボトルを見た。
「実は洗浄力弱いんです、古式ゆかしい会社が作った革新技術も何もない、誠実が売りの洗浄剤なんです、天然素材100%らしいですよ。」
店主が力説した。
大事な遺跡のためである自然に力が入るらしい。
「なんのために作ったんですか? 」
キャリサは小首を傾げた。
洗浄力が弱いのは洗剤として致命的ではないだろうか?
「さあ? わかりません。」
店主も小首を傾げた。
まあ、会社がこだわって作ったんだから
そこは認めてほしいものである。
「じゃ、一本ください。」
キャリサはボトルを抱きしめた。
期待のあらわれである。
「領収書もつけてくれ。」
エルアルドが付け加えた。
「ありがとうございます、なんと記載すれば良いですか?」
店主はレジに向かった。
もちろんシレルフィール遺跡管理組合である。
「スゴい!ちゃんと落ちない!」
遺跡に戻って洗浄剤を試したキャリサは言った。
少しずつしか落書きが落ちないので遺跡を保護できるようだ。
しかし落ちなくて喜ばれる洗浄剤……何か間違ってる気がしないでもない。
キャリサは喜んで一生懸命祠を洗い出した。
何はともあれ世界の宝の遺跡に落書きはしないでほしいものである。
本日の商品
クリアウォッシュEX
月あかり石鹸㈱
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