幕間 ちび幼児、傭兵ギルドにいく。
愛黎、つまんないからどっかいくの。
グーレラーシャ傭兵国王女、愛黎・グーレラーシャは思った。
ヒデルキサム大陸とキシギディル大陸にまたがるグーレラーシャ傭兵国の王都ラーシャの王宮は今日も中庭をいくつも含んでほぼ平屋な広大でどこか武骨で優美な建物をさらしている。
「愛黎ちゃん、メリリノア王女殿下がおみえですよ」
スザナータ・ドーリュム前王室管理官長が可愛いひ孫に振り向いた。
スザナータは愛黎の父方の曾祖母である、先代国王ウェティウス・グーレラーシャの伴侶律・グーレラーシャの義理の母親なのである。
つまり曾祖父母が愛黎には十人いることになるのだが…まあそれは関係無い話である。
「ノアおねえちゃまが来てくれれたんですか?うれしいの」
金髪の長い髪に赤みがかった青い目の美幼女な愛黎が嬉しそうに言った。
「すぐにお入りいただいてください」
愛黎の可愛さにスザナータは内心悶えた。
普段は孫で愛黎の父親のアルティウス・グーレラーシャ王弟殿下のところにいるのであまり面倒が見られないのだ。
同じ王宮内とはいえドーリュムと王族の部屋は少し遠い中庭を使えばすぐにつくが警護官に許可がなければ止められるだろう。
だがら普段はなかなかあえない曾孫なのだが、今、諸事情により愛黎はドーリュムの部屋群にいる。
スザナータは可愛い曾孫にメロメロなのである。
「愛ちゃん、遊びにきたよ」
黒い髪に緑の瞳の美少女が入ってきた。
グーレラーシャの王太女、メリリノア・グーレラーシャである。
愛黎より年上の十歳でよく愛黎の面倒をみてくれる幼年学校五年生のお姉さんだ。
五歳の愛黎も一応幼年学校にいっているのであるがまだまだちび幼児である。
「ノアおねえちゃま」
愛黎が軽やかなステップで駆けてメリリノアに飛びついた。
「愛ちゃん、こんにちは」
さすが傭兵国の王女である五歳児が飛びついてもよろめかない。
「ノアおねえちゃま、愛黎つまんないの」
寂しそうに愛黎は期待を込めた眼差しでメリリノア王女殿下を見上げた。
傭兵国の王女殿下はスラリとしていて十歳ながらなかなか背が高い、愛黎はまだ小さいのであこがれのお姉さんなのだ。
それに愛黎の母親、快黎・グーレラーシャが妊娠した為、愛黎はドーリュムの家にあずけられつまんなさ満載なのである。
考えてみてほしい、幼児が曾祖父母の落ち着いた家に行って、やることがないのは当たり前の話である。
父親はどうしたのか? もちろんグーレラーシャ男の例にもれず、出産のために帰ってきた妻を一時も抱き上げて離さない。
ある意味グーレラーシャ男のテンプレと言えよう。
日本人な母親は教育に悪いと快黎が頼んだのである……グーレラーシャ人の男なアルティウスは気にしないのであるが……
「愛ちゃんじゃあ、冒険者ごっこをしましょう」
メリリノアがかがんで愛黎に目を合わせた。
最近愛黎が冒険者に凝っている事を知っているからである。
「やるの〜」
愛黎はニコニコしてバンザイした。
そして可愛い二人は王宮探索の旅に出たのである。
「ジエルキス警護官、よろしくお願いしますね」
スザナータはついて回りたいのをけんめいにこらえた。
何かあったら武器を持ち出し殲滅すると心に決めて王宮警護官をみた。
おっそろしーと思いながら、赤毛の若き警護官アポロニュウス・ジエルキスは警護官の略礼をして静かに子供たちの後を追うべく部屋の外へ出た。
「まず、管理組合に登録するの。」
愛黎がメリリノアを見上げて言った。
愛黎はキシギディル大陸のモタマチムイ遺跡国にあるシレルフィールの城塞都市遺跡に時々いくのでまず遺跡管理組合に登録しないともぐりになってしまう事を知っているのである。
「そうなんですか?ギルドでいいんですかね。」
とくに冒険者の事を知らないメリリノアがおっとりと言った。
「ギルド?冒険者ギルドって何かの御本で読んだ事があるの。」
愛黎がキラキラした目で言った。
「じゃあ、いきましょう。」
メリリノアがそう言って愛黎の手をつないだ。
おいおい…お姫様方…王宮からでるつもりかよ。
アポロニュウスは口の中で呟いた。
王宮警護官は基本勤務中はあまり口をきかない事になっている。
重要な会合などでしているものたちの気を散らさないようにするためである。
まあ、黙って観察していていざと言う時動けるようにするが基本と言えよう。
「アポロニュウス警護官ついてきてくださいね。」
幼少ながら王女の貫録でメリリノアが命じた。
アポロニュウスは警護官の略礼をした。
まあ…いざとなりゃ王都警護官でも巻き込もうと思ったのである。
グーレラーシャ傭兵国は国民全員がよっぽどの事がないかぎり傭兵である。
だいたいの国民は本業とする他の職業があり『傭兵ギルド』に登録しているだけであるが当然職業傭兵もいるのである。
もちろん王族も兼業傭兵である、ことあれば第一線でたたかうのが王族の義務といえよう。
その傭兵ギルドが王都の中心近くにあった。
といっても王宮の隣である。
王宮は王都傭兵学校と傭兵ギルド本部に囲まれて鉄壁の守りと言えよう。
大きな平屋の中庭を有するその建物に屈強そうな傭兵たちが出入りしている。
なかには着なれないグーレラーシャの正装をきている人たちもいるから資格のみ更新の兼業傭兵もいるようである。
もちろん老若男女いるのはあたりまえである。
「今回の報酬でございます。」
「更新手続きでございますね。」
広い清潔なホールでは職業傭兵たちや兼業傭兵たちが手続きをしている。
何人かいる受付はおおわらわだ。
「ガイウスちゅん、仕事おわったの?」
中年の男がまだ成人したてに見えるこげ茶色の三つ編みの背の高い少年に言った。
ちょうど受付に手続きをしようと並んでいたのに気が付いたようだ。
「ゲルアシュアゼさん、オレをガイウスちゅんと言うのをやめてくれませんか?」
少年…駆けだし職業傭兵、ガイウス・ヒフィゼは顔をしかめた。
「ガイウスちゅんってオレの弟と髪の色がにてるからかまいたくなるんだよね。」
中年男で職業傭兵のコルディウス・ゲルアシュアゼが笑った。
「行方不明の弟さんのことですか?」
ガイウスがしゅんとなった。
「わるいな、しんみりさせて。」
コルティウスの弟はかなり前にファモウラの戦場で行方不明になっている…もともと職業傭兵が多い家系のようで姉も戦死していたりするのだが行方不明の分どこかでいきているかもと期待を持ってしまいついつい同じような髪の色のガイウスが気になるようだ。
「ガイウスちゅんも無理して行方不明にならないでな。」
コルティウスがそういってガイウスの頭をあらっぽくなでた。
「こども扱いはやめてください。」
ガイウスはそういって頭をはずした。
その時ギルドのとびらがあいて場違いな二人が入ってきた。
もちろん愛黎とメリリノアである。
「おい、なんで子供がくるんだ?」
誰かが言った。
その後からこれまた場違いな王宮警護官のワインレッドの制服を着た長身の男が入ってきた。
「ちゅんちゃん悪いけどギルド管理官長呼んできて。」
受付のお姉さんが言った。
「はい。」
ガイウスはそう言って廊下をはしりだした。
「何の御用件ですか?」
受付が愛想笑いをして言った。
「ギルドに登録しにきたの。」
愛黎が一生懸命背伸びをしながら受付カウンターを見上げた。
「そうなんです。」
メリリノアがカウンターにやっと顔をだして言った。
「あなた方はまだ傭兵学校にいってないですよね、登録資格はありません。」
受付がきっぱりと言った。
毅然とした態度をとる事が必要な場面もあるのである。
廊下の奥から足早に二人の人物がやって来て愛黎とメリリノアの前で立ち止まった。
一人はガイウスである。
もう一人の長身の男が口を開いた。
「ここは子供の遊び場ではない王女殿下方。」
当代傭兵ギルド管理官長ハルリウス・ヒフィゼである。
ガイウスにとっては大叔父にあたる。
こげ茶色の髪の初老の色男である。
「冒険者ギルドに入るのです。」
メリリノアがおっとり言った。
「入るの。」
愛黎が幼児特有の甲高い声で言った。
「ジエルキス警護官、君は何をしてるんだ。」
ハルリウスギルド管理官長がアポロニュウスを責める口調で言った。
「やべ…子供時から出入りするのも英才教育かとぞんじます。」
アポロニュウスは口から出任せを言った。
「なるほど…いいかもしれないな…。」
ハルリウスギルド管理官長は言った。
最近、ファモウラ軍国との戦いがなくなったせいか緊張感にかけ職業傭兵を辞めるものがでてきているのである。
アポロニュウスの兄ヘリオス・ジエルキスなどその典型でくだんのシレルフィール遺跡で冒険者をやっている。
「幼いときから傭兵ギルドになれさせる名案だ、ガイウス、面倒をみて差し上げろ。」
ハルリウスギルド管理官長がガイウス少年に少女と幼児を押し付けた。
「大叔父上。」
ガイウスが苦い顔をしていった。
「未来の傭兵ギルド管理官長、頑張るがよい。」
ハルリウスギルド管理官長はガイウスの肩を叩いて言った。
かくしてここに幼年学校傭兵ギルド体験のもとのもとが出来上がった。
「ちゅんさんよろしくお願いします。」
メリリノアは微笑んだ。
「ちゅん、よろしくなの。」
愛黎が言った。
「ちゅんと言わないでいただきたいです。」
ガイウスが言った。
二人の子供を任されたガイウスはいいめいわくである。
そして子供呼びやすい呼び名を覚えるものである。
このときからガイウス・ヒフィゼは二人にちゅん、ちゅんさんとよばれることになったのである。
まあ、仕方ないであろう。
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傭兵ギルドにいっただけなのでとくになし




