本日の商品 『砥ぎ師』
大事な斧が刃こぼれしてしまいました。
守護戦士2級、花山一樹は思った。
キシギディル大陸にあるモタマチムイ遺跡国の最大の遺跡はシレルフィールの城塞都市と言う。
今日も沢山の観光客がやって来ている。
シレルフィール遺跡管理組合がきちんとしていて、安全な観光ができる事も一因と言えよう。
花山一樹も守護業務兼観光ガイドを行っている。
本来なら、安全な観光なのだが、時に守護ロボットに襲われることもあるのである。
まさにその状況の一樹である。
観光客を護る為に守護ロボットの首を飛ばしたとき、斧が刃こぼれしたのである。
「ついでに、葉月さんには、守護ロボットを傷つけたって文句言われそうですね。」
一樹はため息をついた。
一応資格的に准一級守護戦士で一樹を指導する、あるいは、作戦時に隊長としてまとめる立場にある、
五十嵐葉月はどうしようもない遺跡大好き女なのである。
「砥石で研ごうかな?」
一樹は呟いた。
故郷であれば、専門の砥ぎ師に頼むのであるが。
異世界の遺跡の中で、それは無理な話であろう。
どこかで買って砥ぐしかないと一樹は思った。
「一樹さんの斧って特殊なんじゃないですか?」
シレルフィール遺跡管理組合員、キャリサ・ダータンスが言った。
今日も、守護の女神トゥーセリアの祠の掃除に余念がないようだ。
「アクアウィータの職人の製作で常に水の気をまとってるんです。」
一樹は言った。
そう、花山家は『塔世界』と言う現在、明正和次元の一部になった世界のアクアウィータ王族と結構こい血縁関係にある。
ちなみに、一樹の祖父もアクアウィータ王族であり、伝統の斧の使い手である。
「自分で砥げるんですか?」
キャリサが言った。
まあ、普通心配するであろう。
「うーん、まあ、やってみますよ。」
一樹が言った。
武器がなけれ開店休業中になってしまうのである。
准一級守護戦士を目指している一樹にとってそれは避けたい。
実務経験を早く積みたいのである。
「明正屋に行ったらいかがですか?」
キャリサは祠に染みハニーを供えて言った。
「そうですね。」
一樹は答えた。
シレルフィール遺跡の前に
万屋明正屋と言う店舗がある。
謎の商品から、携帯食料、下着、カタログ通販に人材派遣(守護戦士限定)お取り寄せサービスまでしている、最近本当に、なんでも屋状態の店である。
「すみません、斧に刃こぼれが出来てしまって。」
一樹がそういいながら店にはいると店主天見 舞は恋人、ヘリウス・ジエルキスに抱き上げられ状態だった。
今日はヘリウスは休みのようだ。
「そりゃ、災難だったな。」
ヘリウスが言った。
常々、一樹の斧は一流の職人の技物違いないと思っていたのである。
「刃こぼれですか…。」
店主が言った。
武器は専門外なのである。
「舞、オレの弟のアポロニュウスが良い工房を知ってると思う、連絡してみる。」
ヘリウスが言った。
ヘリウスの弟、アポロニュウスは王宮警護官をしているので、こう言うことに詳しいと思われる。
ヘリウスは店主を抱えたまま通信機で通信しだした。
『うん、わかったよ、砥ぎ師も、対ファモウラ軍国戦争が終わってあんまり仕事がっていってる人を知ってるから派遣するよ、それより…その腕の中の人、舞さん?』
通信機の画面の向こうから、ヘリウスを細マッチョにして髪をみつあみした感じの男性が言った。
「はい、はじめまして。」
店主が言った。
「アポロニュウス、舞になんのようだ?」
ヘリウスが言った。
『ヘリウス兄さん、早く舞さん連れて実家帰ってよ、お母さんが、乗り込んで行きそうだよ…。』
アポロニュウスがため息をついた。
「……そうか、わかった、舞、今月中に休みはとれるか?」
ヘリウスが言った。
「うん、なんとか…。」
店主が端末を見ながら答えた。
『じゃ、砥ぎ師は手配しておくから。』
アポロニュウスはそういって通信を切った。
「大変そうですね。」
一樹が言った。
「すみません、個人的なことを」
店主が謝った。
「悪いな。」
ヘリウスも謝った。
「いいえ、砥ぎ師の手配、感謝します。」
一樹は微笑んだ。
数日後、若い紅茶色の髪と目の女性がシレルフィール遺跡にやって来た。
「一樹さん、砥ぎ師さん来ましたよ。」
店主がヘリウスに抱き抱えられて南城塞までやって来た。
店主は方向音痴なので誰かと一緒でないと遺跡内に入れないのである。
本来、抱き抱えなくても良いのであるが
それはグーレラーシャの男などそんなものとしかいいようがない。
「すみません、こんなところまで。」
一樹が言った。
「いいえ、この度はご利用ありがとうございます。」
ピゼシダ刃物砥ぎ工房砥ぎ師、アリスディア・ピゼシダが微笑んだ。
「この斧なんですが。」
一樹が差し入れ小袋から青い水気を漂わせた大きな斧を出した。
見た目が優男風の一樹が持てそうにない大きさせある。
「ずいぶん、おおきなグレードアックスをお使いですね。」
アリスディアは言った。
「ええ、祖父の実家のお家芸なので。」
一樹が涼しい顔で言った。
そう、アクアウィータ王族は大斧がメインウエポンなのだ。
アクアウィータ王族は総じて美人系顔だちなのだが、実はよく見ると筋肉質の体つきなのだ。
「魔法付加の技物なので、少しお待ちくださいね。」
アリスディアは少しよろけながら斧受け取った。
「どちらで研ぎますか?持っていきますよ。」
一樹が斧をヒョイと持ち上げた。
本当に顔に似合わない力もちである。
「水場のあるところで。」
アリスディアは言った。
シレルフィール遺跡の中庭にはコンコンと水がわき出る泉がある。
明らかに人の手が加わったその泉の前で
アリスディアは神経を集中させて研ぎ出した。
規則的な砥ぎ音、時おり刃を見つめるそれは
まさにプロフェッショナルと言うのふさわしい。
「出来ました。」
アリスディアが言った。
「…ありがとうございます。」
一樹は少し反応が遅れて言った。
アリスディアの美しい所作に見惚れていたのだ。
「試してみてください。」
アリスディアが言った。
一樹はグレードアックスを振ってみた。
いつもより、軽く手に馴染む。
使いやすい。
「とても使いやすいです。」
一樹は微笑んだ。
「しばらく、この遺跡…で活動しようかなって思います。」
アリスディアは微笑む一樹にみとれながら言った。
なんだかんだ言って、一樹もアクアウィータ王族の祖父に似て良い男なのだ。
本人に自覚はないが。
大斧を振り回す戦士など戦闘民族なアリスディアにはまさにうっとりの極致であろう。
まあ、恋愛に発展するか否かは本人しだいであるが。
なにはともあれ、一樹は業務が再開出来るようだ。
「花山さん!守護ロボットの首飛ばしたって聞いたんだけどー。」
すごい勢いで駆けてくる准一級守護戦士、五十嵐葉月に何もされなければだが。
「不可効力ですよー。」
一樹は斧をかついで逃げた。
「分かってるけど、感情は別なんだよー。」
葉月はバトルファンを構えた。
「あの…刃こぼれしてますよ…。」
アリスディアが指摘した。
「え?どこ?」
葉月は止まった。
そう言えは葉月も守護ロボットの首を飛ばした事があったのである。
「砥ぎましょうか?」
アリスディアが言った。
「…砥ぎ師さん…?お願いします。」
葉月はすぐに反応した。
守護戦士にとってやはり、武器は大切なのである。
「助かった…。」
葉月の追跡をとめてくれたのを一樹は心から感謝した。
シレルフィール遺跡にビゼシダ刃物砥ぎ工房シレルフィール遺跡臨時工房が誕生したようだ。
本日の商品
砥ぎ師
ピゼシダ刃物砥ぎ工房
グーレラーシャ傭兵国、王都にて伝統と確かな技術で500余年営業しております。
小口から大口、学校、競技場から戦場まで砥ぎ師を派遣いたします。
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