表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/44

幕間 明正屋店主が出張サービス出来ない理由

やっぱり迷いましたね。

万屋明正屋店主、天見アマミ マイはつぶやいた。


キシギディル大陸のモタマチムイ遺跡国最大の遺跡

シレルフィールの城塞都市の前に万屋明正屋はある。


少し常連が出来て賑やかになってきた店舗も今日静か定休日の札がかかっている。


本日、明正屋は定休日のようである。




「あー、迷いました、やっぱり出張サービスは無理ですね。」

店主の天見 舞が端末の地図アプリを見ながら呟いた。


この間から商品を遺跡内に届けて欲しいと言う要望がおおくなったので一度入って様子を見てみようと思ったのだ。


「大きい遺跡です…どんな人たちが作ったんでしょう?」

店主はうっとりときちんと積み上がった遺跡の壁を見上げた。

長い年月で所々崩れている様子さえ嬉しそうに見ているようである。


店主は遺跡マニアなのである。

だからというかどうしても遺跡の近くで仕事がしたくてこのモタマチムイ遺跡国最大の遺跡シレルフィールの城塞都市に縁あって店をかまえた。


「こんだけ、方向オンチだと、考古学者無理ですしね、というより、どうやって帰りましょう?」

店主はため息をついた。


地図アプリをみてもどこがどこだかわからない。

未調査部分にいたっては空白である。


危険地区には幸い入っていないようである。


「…誰も通りませんね。」

不安そうに店主がキョロキョロ見渡した。


間が悪いことに東城塞遺跡で世紀の大発見に考古学者も冒険者いせきたんさくにんもいってしまっていたのだ。


大昔の城主の墓の発見は考古学者たちを狂喜乱舞させていた。


「……直ぐにカエルくん入れたでしょうか?」

店主は手のひらサイズの茶色の小袋を覗いた。

「…直ぐにカエルくんDしかない…。」

店主はどうしようという顔をした。


『直ぐにカエルくんD』

直ぐにカエル君の上位モデルでおそらくすぐに遺跡の入り口に連れて行ってくれるだろうと思われるが……実は問題がある。


使ってみてください、うふふ、きにいったらしいれてくださいね。


トトキクリエイトの営業の言葉が思い出された。

つまりまだ未発売な試供品でなのである。


ちなみにトトキクリエイトの試供品は安全性は確認されているが実験的な商品が多いと評判なので舞は使うのをためらっているのである。


「……使いたくありません、もう少し頑張って見ましょうか。」

店主は小袋に直ぐカエル君Dを戻した。


方向オンチは方向を分からないから

方向オンチなのである。


こっちに行けばきっととつぶやきながらさらに深みにはまる店主であった。


「ここはどこですか? なんで地下室なんて来てるんでしょう? 」

店主は茫然自失となった。


遺跡保護のためぼんやりとてらされた地下室はぶきみで部屋の向こうからなにかきそうだ。


向こうに道がないかと踏み込んだ店主の頭にピチャッっと何かが当たった。


「ひっ…。」

店主は一瞬固まり頭に手をやった。

どこか湿っぽい。


天井に視線をうつしてもよくわからない。


ピチャッ……今度は肩に何か落ちて店主は思いっきり逃げ出した。


じつは当たったのは単なる水である。

天井に活きてる水道管があり時たまひび割れから落ちてくるのだ。


「こ、ここどこですか。」

息を切らせて走るのをやめた店主が周りを見渡した。


いつの間にか外に出ていて庭園のようなようそうになっている。

中央の崩れかけた水場から今も水がコンコンと湧き出ているようだ。


妙に平和的な風景……それなのに誰もいない事に不安を覚えついに店主は決意した。


「す、直ぐにカエルくんD使います! 」

少しべそをかきながら店主は小袋からキラキラ輝くオレンジ色のカエル型のブローチを取り出した。

「………生きて帰れますよね…。」

店主は不安そうにさらにつぶやきながらブローチを胸につけた。


「直ぐにカエルくんD発動します、帰ります。」

店主が発動ワードを唱えた。

その瞬間ものすごいイキオイで店主は今まで来た道のりを飛んだ。

店主には風景は認識できないほどのスピードである。


…地下室の水も店主に落ちる前にすり抜けた。


「今、なんか、とおったか?」

東城塞で発掘作業をしていたベテラン冒険者(いせきたんさきにん)ヘリウスが空間を見つめた。

恐ろしい動体視力……なのか気配を感じたのかわからないが……

「あーん、怖いこと言わないでくださーい。」

考古学生のデリアはそう言いながらも素晴らしい副葬品に目をキラキラさせている。


人の目にはうつらない高速で店主は移動していた。



そして遺跡を通り過ぎて山越え谷越え……


「………もう少し自力で頑張れば良かったです。」

グーレラーシャ次元門の前の待ち合いで店主は虚ろにへたりこんだ。


高速移動したためか疲労困憊である。


グーレラーシャ次元門はグーレラーシャ傭兵国に設置されている明正和次元とつながってる次元門で一般人もきちんと手続きをすれば負担なく界渡りができる。


グーレラーシャ傭兵国はキシギディル大陸とヒデルキサム大陸にまたがる国でモタマチムイ遺跡国からかなりの距離がある。


モタマチムイ遺跡国へ帰るには飛行挺を使用するか馬車とか車で何日もかけないと帰れないくらいの距離なのであるが……直ぐにカエル君D恐るべしである。


「まだ、発動してるし…まさか次元越えして自宅に帰らせようとしてるじゃないでしょうね。」

クイクイっと服が前に引っ張られるカエル君がさらに飛ぼうとした。

店主が少し回復してきたので更に帰ろうとしているようだ。

明正和次元人の明正屋の店主の自宅は当然、明正和次元にある。

店主は直ぐにカエルくんDを外した。


手からすり抜けたカエルくんは次元門を使用して明正和次元に行く人とともに界渡りしていったのを呆然と店主は見送った。


受付の人がご気分が優れないのですかと聞いているのも気が付かず店主はほっとため息をついた。


「恐ろしいです……絶対に取り扱いません、飛行挺代を請求したいですよトトキクリエイトに。」

店主はやっと立ち上がって飛行挺乗場の方に歩いて行った。


飛行挺の料金は高いし、予約なしで乗るには待ち時間がかかるのである。


やっと乗れた店主は飛行挺で爆睡して添乗員にお客様お加減が悪いのですかと言われて目覚めたのも黒歴史である。


直ぐにカエルくんD(デンジャラス)……絶対に取り扱わないと心に誓った舞である。


そして、万屋明正屋は出張サービスは出来ない事が判明した。


本日の試供品

『直ぐにカエルくんシリーズ

直ぐにカエルくんD(デンジャラス)

トトキクリエイト㈱

試供品あり

危険につき仕入れず。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ