16段目
3日目の朝、目を覚ますと、檻の片隅に、洗面器くらいの大きさの土器が置かれていた。中を覗き込むと、練炭から煙が昇っている。ワラを近付けて息を吹きかけると、勢いよく燃え始めた。その他には、竹筒に入った水、新しいワラ、小枝の束が置かれていた。調理に使えそうな物ばかりで、食料の差し入れがないということは、鶏を絞めて、焼いて食えということだろうか。
たいして食欲はないのだが、フン尿の臭いに幾分慣れたとはいえ、鶏との同居生活はストレスがたまる。昨夜も、鶏に目をつつかれ血を流す悪夢に、うなされたところだ。寝ても覚めても邪魔な存在を、一刻も早く消してしまいたかった。鶏に恐る恐る近付いたが、逃げ回られ、体に触ることさえできない。30分ばかり、無駄な格闘を続けていると、外から忍び笑いが聞こえてきた。
目を凝らして外を見ると、離れた木陰から、老若男女20人ばかりの半裸の村人が、俺のことを見物していた。見世物小屋の俺と、目が合った大人達は、気まずそうな笑みを浮かべた。それに対して子供達は、情け容赦なく腹を抱えて笑っている。あまりの恥ずかしさから、俺は鶏を追うことをあきらめ、村人達に背を向け、不貞寝を決め込んだ。