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大食い地獄  作者: 夏北 沖冬
お笑い芸人の場合
1/50

いつもの撮影にて(1)

 こんなみっともない仕事をするために、芸能界で売れたかったわけではない。

 

 毎週水曜日の深夜から、翌日の朝まで続くテレビ番組の収録。本日は中華レストランチェーン店での挑戦である。店舗での営業が終わった午後11時から、メニュー表にある料理を残さず、順番に食べていく。

 メンバーは、番組のメインを務める俺とお笑いコンビ「キングダム」を組む相方のシゲ。今回のゲストはミスター旅番組、食通としても知られる彦蔵さん。俺達の所属事務所の後輩で、先月行われた年に1度のコント王決定戦で決勝に残り、売り出し中の若手3人組「ハウメニートリオ」のヒロ、コウジ、ノブ。そして何より心強いのは、女性だけの大食い番組で準優勝して人気タレントとなった戸辺ちゃんの計7名。

 

 この番組を2年やってきた俺の経験からすると、今回の「大食い戦力値」は、

一般的な成人男性の胃袋を持つ彦蔵さんを【1】とすると

もともと少食だったのが、番組のおかげで胃が拡張した俺と相方のシゲを併せて【4】

「ハウメニートリオ」は20代後半と若いので、3人併せて【8】はいけるだろう。

「一人大家族の食卓」と異名を持つ戸辺ちゃんは【10】

7人の合計で【23】。この番組としては過去最強のメンバー構成といえるだろう。 

 

 今回に比べて、先週のメンバーは酷かった。新番組ドラマの宣伝を兼ねてやって来た若手俳優は、開始早々、自らのほっぺたをさすりながらこう言いやがった。

「食べようと思えば、まだ全然いけるっすけど、顔がむくんじゃうと明日のドラマ撮影に影響しますんで・・・」

 結局、俺とシゲに胃袋の限界を超える負担が掛かった。


「先週の俺達の頑張りを償うつもりで、今回はいいメンバーを用意してくれたんだよ」

 何も分かっちゃいないシゲは、「ハウメニートリオ」の3人に移動中のワゴン車内で、したり顔で語っていた。

(そんなわけねえだろう。ゲストのブッキングなんて、何週間も前から決まっているんだから。最強のメンバーを用意したってことは、それだけ今回の挑戦がハードだってことだろうが・・・)

 今までの俺だったら、すぐ怒鳴りつけているところだったが、膝の上に置いた拳をグッと握り締めるだけで、我慢をした。真実を告げて、出演者のやる気をそいではいけない。ただでさえ、この番組をやり始めて以降、無理をして食べるというストレスから、コンビ仲が悪くなっているというのに・・・。担当マネージャーの大山から渡された、食べる前に飲む胃薬を口に入れ、左手でおなかをさすりながら車を降りた。


「中華レストラン桂馬のメニューを、一つ残さず食べ尽くすー」

 顔を真っ赤にして、大声を張り上げたシゲの番組タイトルコールから、収録がスタートした。

 まずは定番のエビのチリソース、鶏の唐揚げ、餃子などの一品料理が運ばれて来る。

(甘酸っぱさが・・・、サクサクしてて・・・、噛まなくてもいいくらい肉がやわらかい・・・、下味がよくしみこんでいる・・・、皮がパリッとしてて・・・)などと、一品、一品食べる度に、それらしいコメントを添えていく。    

 今回は、彦蔵さんが主にコメントしてくれるので、適当に同意していればいい。


「俺、ピーマン苦手なんですよ」 

 「ハウメニートリオ」のヒロが出された酢豚を見て、しかめっ面をした。普段のゲストなら、少々嫌味を言って許すところだが、後輩芸人に対しては容赦しない。

「今日、これから出されるピーマンは全部、ヒロの担当だからな」

 俺の命令に逆らえないヒロは、鼻をつまみながら涙をうかべて、ピーマンを食べることとなった。


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