真夜中の公園で 第一話
そこは、いろんな高さの四角い建物にぐるりと囲まれている不思議な場所だった。
ぼくたちは、人間界の大都市の中央に位置する大きな公園に来ている。
ここは森や湖や広場があって、大勢の人間が憩いを求めて集まる場なんだって。
でも、この時間だと、人間の気配はほとんど感じられない。
修学旅行の最終日深夜。
ぼくとノアくんはここから出発する馬車に乗って、魔界に帰るつもりだ。
◇◇◇
無事に参加が許可された、人間界への修学旅行。
ぼくたちふたりは人間界のいろんな場所を見学してまわった。
出発する前に担任のマルディ先生が、修学旅行のしおりと魔石のペンダントをくれた。
魔石は魔力を増幅するもので、これを身に着けていると移動魔法がスイスイなんだ。
まるで自分が、とびきり優秀な魔法使いになったような錯覚をしてしまう。
でも、旅行の間しか使えないようにタイマーセットしてあるんだって。
最初の二日は、学校に指定されたコースをまわったけど、
自由行動日の今日は、田舎の小さな街のおまつりにこっそり紛れ込んだんだ。
地元の人間の子どもたちと一緒に、かぼちゃのランタンが飾ってあるおうちを訪問してまわった。
ぼくたちの正体がばれないかドキドキしたけど、
全員おかしな扮装をしていたので、まったく怪しまれなかった。
(ていうか、ぼくのシーツおばけやノアくんのミイラ男より、他の子の方がずっと
凝ってて怪しかった……)
でも、用心のため、話しかけたりするのは小さい子どもたちだけにしておいた。
ぼくと同じ格好をしたおちびちゃんも何人かいて、可愛かったなあ。
◇◇◇
『まだ時間あるよね?』
ぼくは並んで歩いているノアくんに尋ねた。
『うん。出発の時間には充分間に合う。早過ぎるくらいさ』
『じゃあさ、馬車乗り場までこのまま歩かない?』
ぼくはしっぽをフリフリさせてノアくんに提案した。
『そうだね。ここは景色もいいし、散歩しながら行こうか』
返事と一緒に、ノアくんの黒いしっぽも揺れた。
なぜぼくたちふたりが、猫の姿になっているのかというと。
真夜中に子どもがウロウロしているのは変だし、(いくらひとのいない公園でも用心しなくちゃね)
こっちの方が、暗くても目が見えて便利だからだ。
ぼくはノアくんの姿をホレボレと見た。
黒くてなめらかな毛並みに、しなやかな肢体。
歩く動作も凛々としていて、ほのかに気品も漂っている。
いいなあ、黒……(ウットリ)
環境が変わったら成功するかも!と思って、
こっちに来てすぐ『変身魔法』を試してみたんだけど……。
自分の足元に視線を落とす。
どう見ても白……(ガックリ)
よし!魔界に帰ったら、猛特訓するぞっ!
静かな公園の中を、ノアくんとおしゃべりしながらゆっくり歩いた。
猫の瞳で見る夜の景色は、不思議な色合いだ。
ここが異界だということもあって、ぼくは夢の中にいるような変な気分だった。
ふと、隣を歩いていたノアくんの足が止まった。
『ノアくん?』
立ち止まったまま動かないノアくんの視線を追うと、白っぽいものがゆらゆらしている。
ん?見覚えのある物体だなあ。
……ああ、シーツおばけだ。
それも、かわいい身長のおばけだ。
おまつりに参加した街で、ずっとぼくにまとわりついていた人間のおちびちゃんも
あれくらいだったな。
「おにいちゃあん!」
シーツおばけのいる場所から、泣きそうな声が聞こえた。
そうそう、あの子もぼくのことを『おにいちゃん』と呼んでくれたっけ。
「おにいちゃーん」
『…………………………』
んん?
まさか!
ぼくは、シーツおばけに向かって駆け出した。
からだが軽くて、びっくりするぐらい速く走れる。
『待て!ミズキ!!』
後ろから、ノアくんの慌てた声が聞こえた。