真夜中の公園で 第九話
『ピシッ!』と、何かを打ち付けるような音がした。
そして、
「何をしている」
男のひとの声が、静かな芝生広場に響いた。
最初の魔獣が現れたあたりに、黒いローブを身に纏った人物が佇んでいる。
顔はフードで隠れているけど、ぼくにはその声ですぐにわかった。
そう、進学を決める最終試験でぼくに落第ギリギリの点をつけ、
おまけにその試験結果を全校生徒に発表してくれたサム先生だ!
先生ならこの場をうまく治めてくれるかも……でも、ちょっと心配。
だって……。
サム先生。
その格好、魔法使いの定番スタイルだよね?
それなのに、なんで鞭を持ってるの?普通は杖なんじゃないの?
近づいてくるサム先生に、期待と疑問と不安でいっぱいの視線を向けた。
ドキドキする胸を前足で押さえる。
サム先生はぼくたちの傍まで来て立ちどまると、フードを下ろした。
漆黒の髪と冷たい美貌が露わになり、きらきら集団からどよめきが起こった。
「おい、何者だ?」
「美形だねえ」
「ふうん。こっちにはいないタイプだね」
「隊長より、優しそう……」
ぼくの猫耳にいろんな声が入ってくる。
天界人さんに抱っこされたぼくを見て、先生はため息をついた。
「私達ばかりでなく、天界人の心まで惑わすとは……。ミズキ・アソウ、恐ろしい子だ」
何それ。
それからサム先生は、ノアくんの方に顔を向けた
「こうなった理由はだいたい想像つきますが……これはやり過ぎでしょう」
大集合している魔獣に目をやり、呆れたふうに言った。
そうそう!もっと言ってあげて!
ぼくはしっぽを振って先生を応援した。
「そいつが、ミズキくんを返さないからだ。おまけに目の前でミズキくんを
撫で繰り回した!」
「……それは、許しがたいことですね」
深刻な顔で頷くサム先生を見て、とたんに不安になる(しっぽもしゅんとなる)
「お気持ちはわかります。
しかし、私情で天界人と争うなど、許されることではありません。
特にあなたのお立場では。
わかりますか?魔界全体を巻き込むことになるのですよ?」
「…………」
先生に諭され、ノアくんは悔しそうな顔をした。
ぼくはふたりの会話を聞いて確信した。
試験の時も思ったけど、サム先生はノアくんの正体を知っているんだね。
やっぱり、ノアくんは。
「おまえは?」
金のひとの声に、サム先生がこちらを振り向いた。
「失礼。私はサム・ディ。王立魔法学院の教師だ」
「教師?」
「そう、この子らは私の教え子になる」
「サム・ディねえ…」
「何か?」
天界人さんの呟きに、サム先生は笑みを返した。
「本名かな?と思ってね。
あなたの風貌は、よく噂に聞く魔界の某宰相にピッタリあてはまるんだ。
まあ、未確認情報だけどね」
探るような言い方に、サム先生の笑みが深くなる。
「嬉しくはありませんね。彼はあまり人気がないので」
やれやれといったふうに、先生は首を振った。
「そういえば、魔力は超一流だけど、性格が超最悪だと聞いたことありますよ。
隊長といい勝負なんじゃないすか?会いたくないっすねえ」
金のひとが思い出したように言って、銀のひとが慌ててその口を塞いだ。
ふと見ると、ノアくんの隣にいる狼がうなだれている。
後ろの魔獣集団もだ。
さっきまでの獰猛な姿は鳴りを潜め、縮こまっている。
遠くの空で、ゴロゴロと雷が鳴った。




