最終問題 第一話
「不合格」
試験官のサム先生の非情な宣告に、ぼくは目と口を大きく開いた。
そんなあ。
試験開始から、まだ一分もたってないんだよ?
「潤んだ瞳でかわいく訴えても無駄だ。見たまえ、ミズキ・アソウ」
先生は手を軽く振って、何もなかった空間に大きな鏡を出現させた。
呪文も杖もなしで魔法が使えるなんて、さすがサム先生。
長い漆黒の髪を後ろでまとめた長身のサム先生は、
顔良し、腕良し、家柄良しの超一流の魔法使いだ。
宮廷で直接魔王さまにお仕えしても不思議じゃないのに、
この王立魔法学院で教師をやっている。
学べるぼく達は光栄だけど、先生の指導はとっても厳しくて、
生徒達は影で、サム先生ではなくサド先生と呼んでいる。
なんでも人間界で常用されている言葉らしい。
サム先生は魔法で出した鏡を、ぼくの前にドカッと置いた。
「!!」
鏡の中にはぼくの予想していた姿ではなく、
目をまんまるに見開いた白い仔猫がうつっている。
「最終問題は『黒い猫に変身する』。シロではなくクロだ。君のは色違い。
失敗だな?」
ぼくは仔猫の姿のまま、ガックリと肩を落とした。
「かわいそうだが、追試だ。補習を受けてもらう。
従って、学院の規定により来週の修学旅行の参加は認められない。
今年度から『変身魔法』は、中等部の必修科目になったからな。
私はまだ早いと思うんだが……上が決めたことだ。仕方がない」
サム先生は、そう言って肩を竦めた。
修学旅行。
魔法学院中等部の最終学年は、進学を決めるこの試験に合格すると
保護者なしで人間界に見学に行く許可が貰える。
人間界の暦の10月の最終日
その日は魔の力が強くなって、ぼく達魔人は過ごしやすいんだって。
あんまり詳しいことは知らないけどね。
先生みたいな魔力の強いセレブな人達は、普通の日でも遊びに行ったり
して、人間をからかっているそうだけど。
行きたかったな、修学旅行。
でも、その前に追試かあ……。
ぼくはもとの姿に戻るのも忘れて、うなだれた。
「心配するな」
指を鳴らして、一瞬で目の前の鏡を消したサム先生は、ぼくの体を抱き上げた。
驚いて先生の腕にぎゅうっとしがみつく。
「筆記試験はできている。問題は実技だ。
特別に私がマンツーマンで補習をしてあげよう」
先生はぼくに話しかけながら、顎の下を人差し指でくすぐった。
個人授業も、くすぐられるのも、遠慮します!
と、答えたつもりが、「ミャアミャア」という鳴き声になってしまった。
あ、あれ?
「そうか、嬉しいか?よしよし」
背中を撫でる先生の手がくすぐったくて、気持ち良くて、
思わず喉をゴロゴロ鳴らしてしまう。
なんだか、だんだん眠くなってきた………………………ぐー。
意識の遠くで、誰かがぼくの名前を呼んだ。