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まっすぐに、伸びゆく

作者: 柳岸カモ

お茶の味もわからなくなりつつある今日このごろ。

僕のスタンスは、そう、昔のことにとらわれず、今を楽しむ、そんなとこ。

でもときどきは、なんだかおセンチになって、へこんだような顔したりする。

それって、でも、本当にセンチメンタルになってるからじゃないんだ。

そういう自分に、いつまでも酔っていたいから。うかうかと自分の煩悩にとらわれてるうちに、人生なんて終わってしまうんじゃないかな。

そう、今の僕や、今のこの子みたいにさ。

ぶっちゃけていうと、僕はさっきからずっと彼女の肩に座っている。

きっと平安時代だったら絶世の美女、とまではいかないにしろ、しもぶくれのほっぺたやぷっくりした唇、そして細く切れた目、白い肌のその子の顔立ちは、うん、僕のストライクゾーンだ。

でもそんな彼女に少しだけ、ほんの少しだけ、いちゃもんをつけるとしたら…そうだなあ、うーん、まずは、悲しげでうつむき加減な目線、それから、そう、もちゃもちゃ爪をいじるところ。あとは、長いスカートと足首にまるまった靴下。

そんな、ほんの些細なこと。ちょっと、気になるところもあるけど、でも、彼女のかわいい横顔を眺めていられる僕は、きっとめちゃくちゃ幸せものなんだと思ったり、思わなかったり。



「しくしく・・・どうしてあたし、こんなにいじめられるんだろ・・・」


彼女がどうして泣いているか、それは、彼女の言葉にもわかるとおり、いじめられっこだからなんだけど、

まぁ僕にとってみたら、そんなこと彼女の問題であって、僕にはどうしようもないっていうか、

そんなふうに彼女がいじめられればいじめられるほど、彼女は僕だけのものになるっていうか。

そんなかんじで、僕は彼女の肩越しにいつも彼女を見守ってるというか、なんというか。


「ああ、なんか最近肩こるなあ。なんでだろう。なにか病気なのかもしれないなぁ。

 なんか憂鬱だし・・・はああ、もうあたし、学校なんかやめちゃおうかな・・・」


彼女があんまり深刻そうに肩をもむもんだから、僕は慌てて肩から降りる。


「うう・・・つらいなあ。なんでこんなつらいんだろう・・・ん?なんか軽くなったような。」


良かったね、僕のベイビー。ぼくはまたそっと肩に腰掛ける。



まあ、この彼女のことは無視しといてかまわなおから、ちょっとだけ、僕、今、成仏する前に聞いておいて欲しいことがあるんだ。

あんたに頼みたいんだよ、そう、あんたじゃなきゃあ、だめ。なんでかって?

いや、なんとなく、今そう思っただけ。あんたなら僕の言うことわかってくれそうだし。

そんじゃ、言うから。


まあ、僕がこんなんなってからしばらくたつわけなんだけど、

それで、まあ、娑婆から離れるといろいろ思うこととかあるわけ。

だいいいちに、ヒマなわけだから、ヒマにかまけて彼女のこれからについて、勝手に考えてみたりしてるんだわ。

おせっかい、つうか、まあ、ひまつぶしみたいな。することないわけよ。

だから、彼女の肩に乗っかって、プラプラしてるんだけど、まあ、さっきも言ったけど、

彼女はいじめられっこで、ってこの言い方、古臭い?

いいじゃん、そんなの、意味が通じればそれで。

だからその、彼女がいじめられずに、幸せに学校生活を送るってことは、すごく大切なことなんだって、

そんなことわかってんだけど、でも彼女はその方法を知らないわけでさ。

なんで彼女がいじめられっこなのか、そんなこと考え出したらきりないよ。

たとえば、彼女のクラスの女子のボスみたいな、威張り散らしてる女子がたまたま色黒で、

彼女の雪のような肌に嫉妬したとか。

そんな状況で彼女がいくら頑張ってみたって、状況は余計にややこしくなって、こんがらがって、収集つかなくなって、彼女は痛い目にあうだけだからね。

だから僕はいつも彼女の肩に乗っかって、重みをかけて、彼女が動けないようにしている。

ようは、漬物石みたいな、そんな、彼女の保護者みたいな、役目。



彼女に出会ったのは、そう、雨もしたたる六月の放課後のこと。

傘盗まれて、靴かくされた彼女はひとり昇降口で泣いていたっけ。


「うぅ・・・靴がないよう・・・」

僕もその時けっこうブルーで、下駄箱の上で膝かかえてウンウンいってたんだったな、たしか。

僕、生きてたころチックがひどくて、よく家族に叱られたんだ、うるさいって。

そんなの、俺のせいじゃねえっつうの。

なんかさ、ウンウン喉鳴らしてないと落ち着かないっていうか、バランスとれないっていうか、

だからさ、僕マジで、彼女の気持ち、よくわかるんだわ。

自分じゃどうにもならないことで責められて、叱られて、はぶられて、それで、僕はどうしたらいいって?

そんなの自分で考えろって? 

考えてもわかんねえよ。

親なんて結局はさ、勝手に子ども作って、ほったらかして、そんで気に入らなかったら失敗作みたいに嫌な目むけて、近づくなって、

そんなん、僕は、本当に失敗作かもしれないし、自分でも自分がグズでどうしようもないなって思うけど、

でも、なんか、そういうのも含めて子どものこと、抱え込んで欲しいっていうか、

なんか、ほんと、大人って勝手だなって思う。


そんな感じで、僕はこの世にさっさと別れを告げて、一人旅立ったって、まあ、よくある話なんだけど。


おっと、話それたね。

そう、彼女と僕は、足のにおい漂う、じめじめの夕方、運命の出会いをしたってわけ。

もちろん、彼女には僕は見えてないんだけどさ。


「どうやって帰ろう・・・雨ひどいのに・・・」


ウンウンいいながら、横目で彼女をみてたら、

生きてたころの嫌な思い出がよみがえってきてさ、

ほいで、なんかすげえ泣けてきてさ、

おい、おまえ、泣くなよ、もらい泣きしちゃうだろって言ったんだけど、

聞こえないわけだから、まあ当然反応はないわな。

あんときは、うん、死んでから一番悲しかった瞬間だったな。

なんで彼女と僕は、僕がこんな姿になってからで出会っちゃったのかなあって。


生きてるうちに出会ってたら・・・って、まあ、僕も生きてたころは悲劇のヒロインやってたから、彼女の痛みとかに気付く余裕はなかったかもだけど。


今はこうして毎日プラプラしてるわけで、人には優しくできるな。

それって、自分が満たされてるからかもしれないけど。


「ああ、もう、内履で、ぬれて帰るしかないや・・・」



彼女は決心したらしくて、のろのろ雨んなか歩きだしたよ。

走る力もないって感じだった。

あの惨めな後ろ姿、僕は、たぶん、一生忘れないよ、って、まあ、もう一生は終わってるか。

彼女が白い靴下を茶色く染めながら、靴の中まで染み込む水を感じながら歩く姿、痛々しくて見てらんなかった。

でもその時考えたのは、なんていうか、彼女がかわいそうとか、そんなどうでもいいことじゃなくて、

その、彼女、名前なんていうのかなあ、とか、好きなやついるのかな、とか、結構かわいいな、とか、

そんな、やっぱ、どうでもいいことか、うん、やっぱ、男って、女にもてたいって、そういうことしか頭にないんだよね。

そういう生き物なんだって、兄貴は言ってた。

言われたときは「なにが生き物だ。」とか思ったけど、

その日はなんか、兄貴の言葉がやけに頭から離れなくて、うん、そう。そんな感じ。



それから僕は彼女が朝学校にくるのを出迎えるために、ずっと下駄箱の上に座ってることにしてみたんだけど、

やっぱ、くさいから、我慢できなくなって、やめた。

くさいのは耐えられないよ。

あのにおいって、やっぱ足の裏のにおいなのかな?

まあ、そんなことはいいけど。

それで、やっぱり彼女のことが気になって、だから、こっそり彼女の教室のぞいてみたり、彼女のかばんの中から生徒手帳出してきて落書きしたり、彼女をいじめる、色黒な女子の椅子を引いてみたり、

いろいろ、うん、僕が死人として許される範囲でいろいろしてみた。

だって、なんか、ヒマだったから。

いろいろやったなかでも彼女に一番ウケがよかったのは、生徒手帳にかいた「きみの瞳に乾杯。」ってやつだったんだけど、

それみてさ、彼女、くすって笑ってた。

僕はかなり嬉しくて、そんで彼女の肩に座ることにしたわけ。

あー、長かった、ここまで。ごめんね。ああ、そうそれで、そんなことしたって無駄じゃん?

あの、なんていうか、彼女は僕の存在に気付くはずないんだけど、でも、その、うまくいえないけど、

なんか、そのとき彼女と気持ちが通じ合ったっていうか、そんな気がしたから。

これはもう、すわっちゃいなよってことだな、と。

勝手にそう思って。

はいわかりましたって。

笑っていいよ。


最初座ったときはなんか落ち着かなかったけど、でもなんか、うん、だんだん慣れてくるといい感じだなって。

ああ、僕ら、こうなる運命だったのねって。



九月になって、彼女は本当にうつっぽくなって、

たぶん原因はあれだ、あれ、あの、なんていうか、学校もそうなんだけど、糸が切れたっていうか、もう限界って思ったんだろうね。

五月は頑張れたけど、ここで五月病、みたいな。

なんだ、その、彼女鈍いし、とろいから、何事も基本は遅れてやってくるんだよね、きっと。

え? 今ごろそのブーム、みたいな。

んで、まあ、自分の部屋に閉じこもって、ひとり何をするわけでもなく、ぼーんやり一日過ごしてたよ。

僕はいくら彼女が僕のこと見えてないったって、彼女のプライベートをのぞくわけにもいかないもんだからさ、

彼女が部屋に入るちょっと前に肩からそっと降りて、

部屋のドアの前で、例のごとく膝かかえてウンウン言いながら座ってた。


だから彼女が部屋の中で何をしてたかはわかんないけど、でも、なんていうか、無駄にひきこもってた、ていうのは確かだね。

若いからできること、ってとこかな。僕もひきこもるのは好きだよ、って彼女をはげましてあげたかったけど、

こんな体だし、まあ、手紙にでもするかな、って思ったりもしたけど、その、照れるじゃん、そういうの。

僕、けっこう、シャイだし。そんで、まあ、二週間くらい閉じこもって、彼女はまた別の限界をむかえて、

その、なんだ、あの、退屈になったんだろうね、一人で何もせずにいるって、すげえヒマだから、

そんで、嫌々ながらだけど、また学校に行くようになったわけ。

もちろん、いじめられっこってレッテルは、なかなかはがせないっつうか、

彼女が学校に来たとたん、いじめ再開、みたいな、そんな軽いのりで、彼女はまたいじめられるわけだ。

世の中、上手くまわってるよね、マジで。



彼女の肩からみる世界は結構おもしろそう、ていうのが、今の正直な気持ち。

人間、なんていうか、その、ないものねだりっていうか、その、彼女がいじめられてても、それもまた、楽しいんじゃないかなって。

なんだ、その、僕にしてみたら、なんだ、なんか、いいなって。

漠然と思うわけ。

どんな形にせよ、彼女は人から思われてるわけだし、注目されてるわけだ。


死んだ僕は、結局、死んだアイツって、だから、別枠にいる気がするから。

でも、まあ、いじめられてる彼女がうらやましいなんて、

それは結局は他人事なわけで、そんならおまえ、彼女になれっていわれたら、やっぱそれはお断りだって言うだろうし、

当たり前だけど、僕は彼女の代わりにはなれないっしょ。

そんな、せっかく、嫌になったこの世から開放されたのに、

また彼女みたいに苦しみたくはないわけで。

親から煙たがられて、学校にはダチなんて一人もいなかったし、そういう自分の一生に未練とかないけど、

でも、もしも彼女に僕の気持ちを伝えることができるなら、

僕は、君の肩からみる世界は、結構おもしろくて、君が思うほど、つらくて苦しいもんじゃないと思うよって、言いたい、うん。

だって、彼女のまわりには、彼女よりドブーな女があふれてるし、

彼女に密かに思いを寄せてる、たぶん僕より、ほんの少しだけかっこいい男子もいるように、僕は思うから。


もうすこし、あと、ほんの二、三年もたてば、きっと僕みたいに君のこと、超かわいいって思う男とかあらわれて、

女子だって友達になりたいわって思うようになって、たぶん、彼女は人気者になって、肩にかかってる僕みたいな重みなんて、

ゴミみたいにぽいって捨てちまって、そんでこの世で堂々と胸張って、どんどんキレイになって、男も知って、そんで結婚とかして、子どもとかたくさん産んで、愛されて、愛して、僕のことなんて忘れて、それで、それでいいんだけど、


でも、僕は、彼女が好きなんだって、だから、彼女を好きになった僕のこと、忘れないで欲しいって、ずうずうしいかな?


ただ、ただね、肩の重みが彼女にとって苦痛であることでしか、僕は今、存在できないわけで、だから、僕は、少しだけ、彼女の側にいて、こうして彼女の横顔を見ていたい。



いつだったか、もうこの世に未練なんてないって思った。

今も、そう思うし、あの時死んで正解だったって思う。

でも、今、少しだけ後悔してるのかも。

そんなの、もうわかってるって、そんな冷たいこと言わないで、最後まで聞いてよ。

彼女みたいに、ギリギリで悩みまくって、苦しみまくってるひとがいたらさ、

ちょっと立ち止まって、休んでみたら、ちょっと、自分を遠巻きにみてみたら、いいんじゃないかな、って伝えたいってこと。

それだけ。


なんか、人生って、結構バカっぽくて、あほらしいことの積み重ねなんだって。

そう今、僕は思うから、

だから、息苦しいのなら、ぜいぜいしてないで、落ち着いて、深呼吸してさ。

彼女が今苦しんでる意味は、たぶんいつか彼女にはわかるはずだし、

わかんなくたって、いつかわかんないくらい幸せになれてたら、それでいいじゃん。

そんなこんな。

だから、もし彼女に出会ったら伝えてもらいたいんだわ。

君の肩に今乗っかってるのは、君を愛してる、君のこと大切に思ってるやつなんだってこと。

お願いします。


なに? 肩から降りろって?

 

そんなのできないって、ねえ、あんた、ちゃんと僕の話きいてた? 





                    



読んでくださってありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 彼女の肩に乗っている理由が主人公は“霊”だからで始まり、面白いなと思いました。  気さくな感じの語り口調ですが、死後を彼女の側で過ごす中に沢山の悩み抱える部分が見え……もし生きていたらと、改…
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