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3. AUNT

気合を入れて下に降りて行くと、ダイニングではさっき出迎えてくれたハウスキーパーのおばさんの他に、もう一人の女性がキッチンとダイニングを往復していた。


「あら?朱里ちゃん?久し振りだわ。いえ、あなたにとっては初めまして、になるのかしら?私はあなたのお母さんの姉、つまり伯母さんよ」


優しそうに微笑むその女性は確かにママに年を取らせたようによく似ていた。


「あ、初めまして。朱里です。これからお世話になります」


両手を揃えて身体の前で合わせ、上体ごと頭を下げて挨拶をする。


日本人の挨拶の定番である『おじぎ』だ。


グランパ達の前でもやったけど、上手く出来ているかどうかは判らない。


「まあ、ご丁寧に、ありがとう。こちらこそ宜しくね。この家の食事の支度は大抵、私とこちらの家政婦さんで用意しているの。好きな物があったら遠慮なく言って頂戴ね」


ニコニコと笑顔を絶やさずにそう言ってくれる伯母さんも、わたしを歓迎してくれているみたいで嬉しい。


「あ、はい。わたしは好き嫌いは殆どありません。向こうでもママ、いえ母は洋食よりも和食を良く作ってくれていましたので。パパいや、父が和食派の人でしたから」


ああ、もう!日本では高校生にもなって『パパ』とか『ママ』とか言ってるのは恥ずかしいってパパに言われたのに!


急に直すのは難しいよぉ~!


「あら、お母さんは家で料理をちゃんとしてくれているのね?よかったわ。実はお母さんには私が料理を教えたのよ」


ママとよく似てるけど、伯母さんはママより落ち着きがあって上品な感じがする。


「え?グランマ、じゃなくてお祖母ちゃんが教えたんじゃなくて伯母さんが?」


普通は母親が娘に料理を教えるものでは?


「ふふっ、母はね、家事全般が苦手なのよ。だから私が昔からずっと家政婦さんに教えられて覚えたの」


あ~、何となく判るかも。


あの豪快そうなグランマは、そーゆーコト苦手そう。


「あの、わたしも母に少しは教わって来たんですが、伯母さんにも教えて貰うと助かります」


わたしが出来る家事と言えば、簡単な料理と掃除くらい。


洗濯は洗濯機がやってくれるし、お菓子作りは分量と手順を少しでも間違えると失敗するから苦手なんだな。


「まあ、嬉しいわ!私には娘がいないから、一緒に料理を作ったりするのが夢だったのよ」


ああ、そう言えば伯母さんには息子が一人だけとか。


「良ければ、早速手伝わせて下さい」


そう言ってキッチンに入ろうとすると、優しく否定された。


「今日は朱里ちゃんの歓迎会だから、ゲストは座って待っていてね」


お手伝いは次からお願いするわ。


優雅に微笑まれて、わたしは『はい』と答えて引き下がるしかなかった。


そして、夕食が出来上がるまでの間、わたしはグランパとグランマに囲まれて、ママや弟の近況やわたしのLAでの生活を色々と暴露させられていた。


それでも、必死で守ったのは『ゲイに迫られた過去』。


お年寄り二人には刺激が強過ぎる話かな?と思ったから。


「朱里はお父さんに似たのかな?フレップスクールに入れる程の実力を持ってるって聞いてるよ?編入試験も楽勝だろう?」


グランパの言葉にわたしは冷や汗をかく。


外見が父親似なら、中身も似れば良かったのに、わたしの頭はどちらかと言えば母親似。


母親がバカだとは言わないが、必死で努力を重ねて、やっとフレップに行けるかも、という成績なのだ。


「いえ、ステイツの学校より日本の学校の方が進んでますから、特に数学とか」


オマガッ!憎むべき数学!


父親と似ていない最大の理由は、理数系の父親とは違い、わたしは数学が大の苦手と来ている事。


「あら、勉強なら蒼司に見て貰えば良いわ。明日には顔を出すと言っていたから」


伯母さんが料理を運んで来ながら、会話に参加して来た。


蒼司?って・・・ああ、従兄ね、大学生だとか言う。


そう言えば、どこの大学に通ってんのかな?


「少しは朱里ちゃんのお役に立てると思うわ。何しろ一応、K大に通ってるから」


おお、私立で有名なあのK大?


凄いな、優秀な人なんだ。


わたしは和やかな雰囲気で始まった、わたしの歓迎会を兼ねた夕食の席で、心の中では今夜、母親に掛ける電話で抗議する件をリストアップする事に余念が無かった。


どうして実家が裕福な事を黙っていたのか?上品で優しい伯母さんの事も黙っていたのは何故か?まだ隠している事があるなら直ちに白状しろと促そうと。


でも、きっと、ママは『ええ~?言わなかったかしら?』の一言で済ませるんだろうな。






補足:フレップスクール=名門大学入学を目的とした進学校の事

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