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30. BUSY




伯母さんの作ってくれた朝食をお腹一杯食べて・・・食べ過ぎたくらいに・・・少し元気を取り戻した。


きっと、ママから伯母さんに知らせが行ったんだろうな。


それでも、伯母さんは黙って何も聞かないでいてくれた。


ただ、ちょっと、ちょっとだけ寂しくなってママの声が聞きたくなっただけなんだけど。


夕食を抜いたのは拙かったかな?


心配するよね。


伯母さんは、思ってたよりもママに似てた。


料理の味もそうだし、顔も似てるし、何より仕草が。


あの、髪を梳く様に頭を撫でる仕草はママとそっくりだと思った。


甘えてもいいのかな?






教室で鞄から荷物を出していたら、携帯を落としてしまい、聡美に拾われた。


「ありがと」


そう言って受け取ろうとしたのに、聡美は返してくれない。


「待ち受け、見てもいい?」


ニヤリと笑って言われたので「別にいいけど」と答えると、何故か聡美の周りに人だかりが・・・す、素早いよ、みんな。


「へぇ~、コレって朱里の家族?」


聡美に聞かれて頷く。


わたしの待ち受け画面はパパとママと玄のスリー・ショットだ。


「朱里のとーちゃんってカッコイイな~かーちゃんも若くて美人だ。やっぱ素がイイと違うねぇ」


聡美の周りに集まった子達は、何故かうっとりと見ている。


「朱里様はお父様に似ていらっしゃるのですね」と呟く声も聞こえる。


うるさいやい。


聡美は携帯を閉じてわたしに差し出した。


「そんで、このストラップはどーしたの?先週まで、正確には金曜日までは付けてなかったよね?」


差し出した携帯からぶら下がるストラップを誇張するように振る聡美。


「買って貰ったんだよ。土曜日に出掛けたから」


なんで、一々聞いて来るかな?


「買って、貰ったの?誰から?」


え?そこまで言うの?必要ないだろ?


「誰だっていいだろ」


聡美から携帯電話をひったくる様に奪い返すと「男か?」と聞かれた。


「ええ~!」と周りで悲鳴のような声が上がる。


え?そこまで驚く様な事か?


チラリと知夏を見れば、口元に指を立てて黙る様に指示された。


「ナイショだよ」


ニッコリ笑って誤魔化せば、みんな黙ってくれた。


う~ん、これが笑顔の効能ってヤツか?


別に従兄の蒼司に買って貰ったヤツだから内緒にする必要はないと思うんだけど、情報は適度に秘密にして小出しにするべきだと知夏が言ってたな。


勿体付けてどうすんだ?


携帯のストラップなんて大した意味はないだろうに。


しかし、わたしの携帯に付いているストラップはまだ一つ。


他の女の子達の携帯には幾つものストラップが付いている。


向こうではストラップなんて付ける習慣が無かったから、こっちに来て驚いたけど、みんなが付けてると欲しくなるのは道理ってヤツで、でもどんなのにしようか?迷っていたら蒼司が買ってくれた。


選んだのはわたしだけど。


茶色いクマが可愛いな、と思ったんだけど、こうして一つずつ増やしていければいいな。


聡美に「どうしていきなり『男か?』だなんて聞いたの?」と聞けば、「だって、昨日からみんなが気にしてたんだよ、朱里のストラップ」と言われた。


そ、そんなに話題になる程だったのか?


知らなかった・・・





昼休み、合唱部の朝倉先輩にお許しを頂いて、第二音楽室のピアノを使わせて貰ってる。


まあ、放課後のレッスンのお浚いも兼ねているんだけど、昨日言われたアレンジについて考える事があって『翼をください』をちょっとアレンジしてみる事にした。


第二音楽室には、同じクラスの子達や他のクラスの子達も何人か黙って聞いている。


これにも慣れて来たな。


「朱里様は歌われないんですの?」


知夏が演奏の合間に、ふとそんな事を聞いて来た。


歌か・・・


「宜しければ聞きたいですわ」


紬がそう言うと、他の子達も賛同していた。


そう言えば、先週は歌わされたんだよな・・・レッスンで。


わたしは先週のレッスンを浚うつもりで、軽く弾き語りを始めた。


もちろん『翼をください』を。


すると、何故か弾き終わると拍手喝采が待っていた。


え?そんなに上手くはないよ?なぜだ?


「朱里様は歌うと随分高い声になるんですのね」


知夏にそう言われて、そうかな?と思った。


普段、少し無愛想なくらいにしてるから、話す声が低く感じられるだけじゃないの?


しかし、その時、準備室に居た朝倉先輩に歌を聞かれていたらしく。


「岡村さん!コーラスにも参加されませんか?」と言われて驚いた。


いやいや、無理です!


「伴奏と歌を両立させるのは・・・」


そう断ったのに・・・


「ソロパートを作りたいと考えていたのですが、適任者が居なくて・・・でも岡村さんなら任せられそうですわ」


あの・・・わたしは無理だと言いたかったのですが・・・聞いてませんね。


なんだか、任せられる事が次から次へと増えて行く・・・とほほ。






「こんにちわ」


川口先生の家のいつも鍵が開いている玄関の戸を開きながら一応、声を掛けると、中から愛生さんが飛び出して来た。


「朱里ちゃん!待ってたの!」


又してもギュッと抱きつかれて、質問攻めにされた。


「どうして連絡くれなかったの?待ってたのよ?連休はどうしてたの?樹に苛められてない?」


いや、そんなに一度には答えられません。


今日の愛生さんは先週とは違ってメイクもしてるし、服装もミニのワンピースだ。


玄関にもハイヒールが置いてある。


思わず服装を見ていると、わたしを解放した後に、クルリと一回転してニコッと微笑んだ。


「今日はね、お仕事があったの。新曲のキャンペーンでね。だからこんな格好」


そして明日発売されると言うCDを貰った。


「こっちからも連絡するからケー番教えて!」


奪われる様に携帯を取り上げられて、赤外線通信で番号とメールアドレスを交換させられた。


「実はまだ仕事が残ってるの!またね!」


バタバタと慌ただしく愛生さんは出て行った。


もしかして、忙しいのにわたしを待っていてくれたとか?


そんな事、無いんだろうけど、でも、ちょっと・・・あの慌ただしいまでに元気で騒がしい処は少しママに似てるかも、なんて思ってしまった。


「愛生さんって毎週いらっしゃるんですか?」


ここで会えるなら、連絡しない方が良いのかな?と思ってみたり。


「いや、今日はお前に会いに来ただけだろ?いつもは一月に一度くらいしか顔を出さないな」


先生の素っ気ない答えに、わたしは『あれ?お二人は恋人同士って訳でもないのかな?』と疑問に感じた。


初めて会った時は、いい雰囲気だと思ったんだけど・・・違うのか?


そしてレッスンは、昼間弾いた『翼をください』のアレンジを聞いて貰い、なぜかまた発声練習をしてから歌わされ、『ハンマークラヴィーア』の練習となった。


月曜は作曲、火曜は発声とピアノ、木曜はピアノと楽典についてのレッスンとなるのが定着しつつあった。


しかし、なぜ発声?


いや、コーラスのソロパートをやらせられそうなので必要性はあるんだけど、川口先生が学校での出来事を把握している訳ではないんだから、そんな事を知っている筈もないし。


まあ、やる事が増えて、わたしはおいそれとホームシックに掛かっている暇はなさそうだ。


それが良い事なのか?悪い事なのか?は別として。






そして、次の日、放課後、合唱部の練習に向かうわたしの元へ、バスケット部の杉田先輩がやって来た。


「岡村さん!練習試合の日が決まったの!今週の土曜日なんんだけど、大丈夫よね?」


え?それって・・・三日後ですか?


き、急ですね・・・でも、練習試合には出てもいいって言っちゃったしなぁ・・・今週の土曜日・・・何も予定はないし。


「・・・はい」と答えるしかないだろ?







補足:楽典=楽譜の読み書きに必要な、音符や記号などに関する規則。また、それを記述した書物。



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