2. GRANDPARENTS
「は、初めまして、グランパ・・・いえ、お祖父ちゃん、お祖母ちゃん。朱里です」
空港で出迎えてくれたのは、写真でしか知らないグランパとグランマ。
渡米する前に会った事があるって聞いたけど、わたしにとっては『初めまして』だ。
写真で顔を知っていたとは言え、二人とも七十は過ぎてる筈なのに腰も曲がってなければ髪も白くない、染めてるのか?
「良く来たわね、朱里。会いたかったわ!」
そう言ってグランマは豪快にわたしを抱きしめた。
この人、ホントに日本人?
「待ってたよ、朱里」
そう言って、穏やかな微笑みを浮かべているのがグランパ?
確か、日本とUKのハーフだと聞いたけど、グランパの方が日本人みたいだ。
そう言えば、グランマは若い頃にNYに留学してたとか聞いたっけ。
「長いフライトで疲れただろう?家でゆっくり話をしよう」
テンションが高いグランマとは違って、落ち着いたグランパがそう言って車に案内してくれた。
えっと・・・コレってキャデラック・リムジン?
大統領と同じ車を使ってるなんて・・・もしかしてママの実家ってお金持なの?
唖然としたまま、後部座席が対面式になっているシートに座ると、運転席には専用のドライバーがいた。
そう言えば、わたし、ママの実家についてよく知らないかも・・・
だって、日本とLAじゃ離れてるし、電話で話たりした程度だし、家に行った事なんてない。
車の中でグランマが今の家の状態について説明してくれた。
「家には私達二人の他に、朱里のお母さんのお姉さんに当たる伯母さん夫婦が住んでるわ。とは言っても暮らしているのは離れだし、伯父さんは仕事で家に居る事は少ないから、余り顔を合わせる事もないだろうけど。その二人の間には、朱里の従兄に当たる息子が一人だけいるの。でも、大学入学と同時に独り暮らしを始めたから、やっぱり顔を合わせる事は少ないかもね」
そ、そっか、グランパとグランマだけが住んでいる訳じゃないんだ。
当然と言えば当然だよね。
ママのお姉さんか・・・長女だから婿養子を貰ったって聞いてるけど、どんな人なのかな?
緊張と不安が消えないまま、車で三十分後、到着した家は予想とはちょっと違っていたけど大きな家だった。
違ったのは、わたしが考えていたのは屋根の付いた木の門がある時代劇に出て来るようなお屋敷だったから、それでもLAのわたしの家よりは大きい。
日本の家は小さいって聞いていたのに。
幾つ部屋があるんだろう?
「おかえりなさいませ」
メイド?いや、ハウスキーパー?らしき壮年のおばさんが出迎えてくれて、使用人がいるのかやっぱ、と感心しつつ、靴を脱いで上がる。
「朱里の部屋は二階だよ。荷物は届いてるけど、先に部屋に行くかい?」
グランパに言われて頷いた。
早く一人になりたかった。
ママに文句が言いたかった。
何より、落ち着きを取り戻したかった。
案内された部屋は、昔、ママが使っていた部屋だそうで、ピンクのオンパレードだった。
LAの家のわたしの部屋と余り大きさが変わらないのが救いだったけど。
ママってばお嬢様だったんだぁ。
ベッドに転がって部屋を見渡せば、家から届いた荷物は既に解かれて、それなりに片付けられてる。
もっとも、送ったのは本と服ぐらいなんだけど。
スーツケースに詰め込んで来たのも、もしも荷物が届いていなかった時の為の二・三日分の着替えだけ。
ここで三年か七年になるか、暫く暮らすのか・・・大丈夫かな?
大丈夫だよね?
グランパもグランマも優しそうで、わたしを歓迎してくれた。
パパとママの結婚を反対したなんて信じられないくらいに。
うん、大丈夫だよ。
きっと、上手くやっていける。
補足:NY=ニューヨーク
UK=ユニオン・キングダム(イギリス)