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27. BUTLER



金曜日は祭日で休みだった。


日本には祝日が多い。


カレンダーに幾つも赤い日付が入っているのに驚いた。


クリスマスが休みになってないのも驚いたけど、祝日の全てに宗教が絡んでいないのにも驚いた。


その代わりにあるのが天皇誕生日とかの皇族関係の祝日。


昭和の日は昭和天皇の、文化の日は明治天皇の誕生日だと聞かされて驚いた。


まあ、ステイツでもリンカーンやワシントンやキング牧師の誕生日が祝日になってるけどね。


名目は何であれ、お休みだ!三連休だ!お出かけだ!それも女の子と!


そして、執事喫茶だ!


聡美と知夏と待ち合わせたのは駅から繋がっている百貨店の花屋の前。


休日の所為か、もの凄い人だった。


前にグランマや伯母さんと出掛けた時は、車で駐車場まで直接入っていったし、夏休み中だったけど平日だったから、こんなに人混みが凄くなかったのに。


まあ、場所も違うけど。


五分前に着いて待っていたら、間もなく「よっ!」と声を掛けられた。


よく見ると、それはいつもポニーテールにしている髪を下ろした聡美で、制服以外の姿は初めて見たので、声をかけられなければ気付かなかったと思う。


そして、極めつけが「いつ気付いて頂けるのかと思ってましたわ」と声を掛けて来た知夏。


眼鏡がないだけでこんなに違うのか?


そして服装。


二人ともカラフルでモノトーンに近い制服とは全然違って新鮮だ。


「しっかし、朱里。それじゃ男に見えるよ?持ってないの?もっと可愛い服とか」


聡美は遠慮なくわたしの服装について突っ込んで来る。


実は、今日家を出る時、グランマと伯母さんにも言われたのだ。


この前買った服を着て行かないのか?と。


ううっ、あんな恥ずかしい服なんて着られないよ~!


友達と出かけるだけなんだから、いつものTシャツとGパンで問題ないでしょ?


そう言って振り切ったんだけど・・・ダメかな?


聡美と知夏は顔を見合わせていたが、諦めたように溜息を吐いた。


「まあ、行けば判りますわ」


知夏の言葉に、わたしは疑問符を浮かべた。


行けば判るって、何が?






その店は、一見普通の喫茶店の様に見えた。


「ここだよ」


聡美がそう言って、ドアを引くと、ドアに付けられたベルがカランコロンと鳴った。


「お帰りなさいませ、お嬢様」


おお、噂通りの対応だ!


若くてハンサムな執事がそう言って出迎えてくれた。


しかし、執事風の店員はわたしを見ると、困った様な顔をした。


「お嬢様、申し訳ございませんが、旦那様より男性のご友人はお断りするようにと申し付かっております」


え?それってわたしの事?


お、男に間違えられたの?


し、ショック!


「失礼な事を言わないで下さる?この方は歴とした女性でしてよ」


知夏が毅然とした態度でそう言ってくれたお陰で「大変失礼をいたしました」と謝ってはくれたけど、疑わしそうな視線は消えない。


やっぱり、それなりの格好をしないとダメだったのか・・・


「ゴメン、二人とも」


わたし達は一応、席に案内されたけど、居た堪れない気分になった。


わたしが男っぽいのがいけないのか?


それとも、服装が悪いのか?


さっき、聡美と知夏が困った様な顔を見合わせていたのは、こんな風になる事が判ってたからなんだな。


「気にすんなよ、朱里」


「そうですわ、こちらの店員の態度が失礼なんです。仮にも客商売をするのなら、相手が男性か女性かを見極められないのは三流の証拠ですわ」


知夏は偉くご立腹だった。


わたしは「ありがと、知夏」とお礼を言ってから、店内を見渡したけど、やっぱりこんな店に来る人達は、それなりに可愛らしい恰好をした女の人ばかりだった。


静かな音楽が流れる中、優雅にお茶を飲んでいる人、友達とお喋りをしている人達、学校に居る時と同じ様な雰囲気がある。


「先程は大変失礼をいたしました、お嬢様方。お怒りは解けましたでしょうか?宜しければこちらのシステムについてご説明させていただきますが」


入口から案内してくれた人とは違う人がテーブルに来てそう言った。


聡美と知夏は黙って頷いていたので、私も少し遅れて頷いた。


そうして始まった説明によると、テーブルに付く執事は指名が出来る事、担当の執事が全てお世話をしてくれる事、時間制限がある事などが教えられた。


「ご指名の者はおりますでしょうか?」と聞かれて「お任せ致しますわ」と知夏が応えた。


まあ、一番最初に男に間違われた事を除けば、ここの店員、じゃなくて執事?の対応はとっても丁寧だ。


これを文化祭でやる事になるのか?と思うとちょっと頭が痛くなりそうだけど。


だって、トイレにまで付いて来るって・・・わたしがやる時はそこまでしなくてもいいのかもしれないけど。


メニューの説明に、お茶のおかわりもしてくれて、まさに至れり尽くせり。


使ってる食器の説明まで始めた時は、それがどうした?って言いたくなったけど、知夏は色々と突っ込んでいたよな「今日の気分はジノリではなくてヘレンドがいいわ」とか言っちゃって。


さっきの事に腹を立てた難癖にも見えたけど、執事さんは怒りもせずに「申し訳ございませんが、今日の処はこちらでご勘弁を」と謝っていた。


知夏~止めてあげなよ!


普段は大人しくて、あんまり高飛車な言い方をしないのに、今日はどうしちゃったの?


もしかして、それが本性ですか?


ハラハラするわたしと違って、聡美はクスクスと笑ってる。


「それ位にしといたら?委員長。朱里が心配してるよ」


聡美がそう言うと、知夏は溜息を吐いて立ち上がった。


「そろそろ参りましょう」


執事さんのお見送りは「いってらっしゃいませお嬢様」だった。






ごく普通の喫茶店に席を移してから、知夏はわたし達に謝った。


「申し訳ございません。お見苦しい処をお見せして」


いや、元はと言えばわたしの所為でもあるんだし。


「気にしないで」


「まあ、しょうがないよね。委員長がサービス業に煩いのは」


聡美の言葉にわたしは「え?何で?」と訊ねた。


「わたくしの家はサービス関係の仕事をしておりますもので」


「赤坂で料亭をやってんのさ、委員長んちは」


老舗で一見さんお断りのとこだぜ、と聡美が詳しく説明してくれた。


けど『いちげんさんおことわり』って?


「会員制の敷居の高い店です」と知夏が後から教えてくれた。


「聡美さんのお家だってホテルを幾つも持っていらっしゃるじゃありませんか?」


知夏がそう言えば、聡美は「ウチは成金だもん。歴史と伝統がないよ」と返した。


へぇ、改めて聞くと、二人ともお嬢様なんだよなぁ。


まあ、あの学校に通ってる、って時点で凄いんだろうな。


「二人ともお姫様だね」


わたしがそう言うと、二人とも苦笑してた。


「なに言ってんだよ。ウチのクラスの中でも成島ほど大きな家は他にはないよ」


「いえ、クラスだけでなく、学校の中でも成島様に匹敵するお宅は早々ございませんわよ」


聡美と知夏にそう言われてしまった。


でもな、わたしは『岡村』だし。


「従兄の蒼司は確かに本物の王子様だと思うけどね」


うん、あのニコニコ笑顔はわたしなんかよりも、よっぽど王子様らしいと思うな。


わたしの言葉に、聡美も知夏も「ああ、あの」と同時に応えた。


「知ってるの?」


「面識はございませんが、成島の御曹司のお名前は存じ上げておりましてよ」


ふむ、知夏は会った事はないのか。


ククク、と聡美が笑っていた。


なぜだ?


「お待たせいたしました」


その時、注文していたものが来た。


知夏とわたしはコーヒー(さっきの執事喫茶で紅茶を飲んだから)、聡美はいちごパフェを頼んでいた。


わたしは初めて見た『いちごパフェ』の大きさと派手さに驚いた。


逆三角形のグラスにホイップ・クリームとアイスクリームにフルーツ、そして下に入っているのは・・・コーン・フレーク?


「良く食べられますわね」


知夏も呆れていたが、わたしも頷いた。


だって、さっきの処で『アフタヌーン・ティー・セット』とか言う三段重ねのスコーンとサンドイッチとケーキのセットを食べて来たのに。


「甘いものは別腹さっ!」


パクパクと細長いスプーンで食べて行く聡美を茫然と見ていたら、聡美は驚く様な事を言い出した。


「朱里の従兄の王子様、さっきの店にいたって気付いてた?」


え?蒼司が?


なぜ?





補足:リンカーン誕生日=2月12日

   ワシントン誕生日=2月第3月曜日

   キング牧師誕生日=1月第3月曜日

   以上はカリフォルニア州では祝日扱いをされている個人の誕生日に由来する休日。


   ジノリ=リチャード・ジノリ(イタリアの陶磁器メーカー、オリエント急行で使用されている食器としても有名)


   ヘレンド=ハンガリーの陶磁器メーカー



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