1. COMPLEX
人に因って違いはあるんだろうけど、よく言わない?
『娘は父親に似て、息子は母親に似る』って。
あまり、当たって欲しくはないんだけど、ウチの場合、ピタリと当て嵌まってる。
三つ下の弟は、いつまでも若々しい(つまり童顔)の母親に似てキュートで可愛い。
なのに・・・どうしてママはあんなに目つきの悪い男と一緒になったんだ?
無口で無愛想だし、顔に傷まであるし、まるでジャパニーズマフィアじゃないか?
自分の父親をここまで悪し様に言うのも子供としてどうかと思わないでもないが、でも。
やはり年頃の女の子としては製造元である親を恨まずにはいられない。
「あら、あたしは母親によく似てるって言われたけど」
確かにママはグランマに似てる。
小さい頃からの写真を見ても良く判るくらいに。
だから、そう言ったパターンがわたしにも適用されたって良かったんじゃないの?
そうしたら、きっとスカートが似合う可愛い女の子になってた筈だよ!
Tシャツとジーンズしか似合わない様な男に間違えられるような子じゃなくてさ!
憎い!多数決に負けた遺伝子が!
「いつまでもバカな事を言ってないで、さっさと荷物を纏めちゃいなさい」
バカな事とはなんですか?
大切な事です!
「だって、ママ。わたしのこの顔が原因で虐められたら・・・日本の学校の虐めは自殺する人まで出るくらい陰惨だって言うし・・・」
男にしか見えないとハブられて虐められたら・・・怖いよ!
「なに言ってるのよ!朱里の顔のどこがおかしいの?パパに似て凛々しくてハンサムな顔じゃないの?」
ああ、そうでした。
ママはパパ激ラブな人でした。
何しろ、パパに一目惚れしたママが、パパに猛烈なアタック(死語らしい)をかけてゲットしたとか、高校を卒業したばかりのママの家族に結婚を反対されて駆け落ちしたとか、ママとパパは色々とドラマチックな経歴をお持ちなのだった。
あのパパが駆け落ち・・・初めて聞いた時から今でも信じられない話だ。
パパが無知な女子高生を騙して攫う様にして結婚したんだ、と言うのが弟とわたしの共通した見解だ。
「それに、そんな心配は無用よ。朱里が行くのは女子高でしょ?きっとモテるわよ~」
どうしてそんな事が言えるのか?
わたしは自慢じゃないが、ゲイかバイの奴等からしかモテた事はない。
楽しそうな母親を横目に、一抹の不安を拭えないまま、わたしは荷造りを開始した。
わたしは現在、父親の仕事の関係でLA在住である。
しかし、国籍が日本であるわたしは高校に進学する際、両親に訊ねられたのだ。
大学をこっちにするか日本にするか?
日本の大学に行くなら、高校から日本の学校に通った方が良いと言われた。
弟はこちらに来てから生まれたので、ステイツの国籍を持っているが、わたしは日本で生まれたので持っていない。
物心が付く前にこちらに来てしまったので、両親と自分の母国である日本については、恥ずかしながらネットの情報くらいで良く知らない。
だから、一度、日本の学校に通ってみたいとは思っていた。
まだ将来について、具体的にビジョンが見えている訳じゃないから、尚更、日本に行ってみて可能性を探してみたいと思ってる。
父親の両親は他界して既にいないが、母親の(父と母の結婚に反対していた)両親は健在で、駆け落ちの蟠りも既に溶けているらしく、わたしを預かって日本の学校に通わせてくれるのだそうだ。
そんな訳で、わたしは日本の高校に通う事になったのだ。
親元を離れて、祖父母の家にお世話になって。
果たして、日本で何が待っているのか?
やっぱり年頃だから、ちょっぴり『恋』なんかにも期待してる。
今までわたしの周りに寄って来る男の子と言えば、ゲイ予備軍だったり、バイなアホしか居なかった。
LAに居る日本人留学生や日系人の男の子はシャイな子が多いから、日本人の男の子ってシャイな子が多いと思うんだ。
ママがパパに出会えた様に、わたしにも素敵な出会いが待っているかな?
そうポロリと溢してしまったわたしに、ママは「う~ん」と呻りながら考え込んで「あたし達と同じってのはちょっと拙いと思うけど、朱里にだってちゃんと素晴らしい出会いが待っている筈よ」と言ってくれた。
期待と不安に押しつぶされそうになりながら、わたしは荷造りを終えた。
補足:LA=ロスアンゼルス
ステイツ=ユナイテット・ステイツ・オブ・アメリカ(USA)




