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18. ACTIVITIES



学校から帰ると、着替えてから防音室に向かうのが最近ではすっかり習慣になってしまった。


グランパからは「いい先生を探そうか?」と聞かれたけど、日本に来てまでピアノのレッスンをする事を、正直に言うと迷ってる。


ピアノは好きだ。


でも、自分はプロになれるような腕前じゃない事は判ってる。


それなのに、パパやママは小さい頃からわたしに本物のピアノを与えて、レッスンまで受けさせてくれた。


高校進学について聞かれた時、イーストマンやカーティスの事が頭の中を過ぎった事は否定しない。


プレスクールに入って必死で勉強すれば・・・入学は出来るかもしれない。


でも、将来に結び付く事が出来るのか?


不安だし、何より、生涯続けていく自信も持てない。


だから、日本に来て学力を優先させた。


どうしても日本の学校に馴染めなかったら、大学は向こうに戻っても、と思って。


暫く休んでいたけど、ピアノがあれば弾きたいと思う。


好きな曲を合間に弾いて、ツェルニーを浚う。


これは習い性のようなものだから。


今では、ちょっとしたストレス発散にも役立っている。


ピアノがあるから、スポーツで発散しなくてもいいかな?


クラブ活動かぁ・・・勧誘されるのは正直、嬉しいけど、放課後の時間が取られるよね。


なんにするべきかなぁ。






「朱里様、クラブ活動でしたら、わたくしの居ります合唱部はいかがですか?」


次の日、登校するなり、同じクラスの中野依子にそう誘われた。


言うまでもなく、彼女も親衛隊の一人である。


「合唱部?」


コーラスか?


「ええ、朱里様はピアノがお得意でいらっしゃるのでしょう?丁度、今、合唱部では伴奏者を探しておりますのよ」


伴奏ねぇ・・・


「あら、ピアノを弾かれるのでしたら、わたくし共のオーケストラ部はいかがですか?文化祭で弾いて頂けるソリストを募集中ですのよ」


え?オケまであるの?この学校?


そっか・・・お嬢様なら小さい頃から楽器を習っている人が多いんだな。


「まあ、素敵ですわね、永田さん。でも、わたくしは出来れば朱里様に放課後、わたくし達の為にミニ・コンサートを開いて頂きたいですわ」


うっとりとした顔をしてそう言われてもねぇ・・・ミニ・コンサートってなんだよ?


「素晴らしいお考えですわ、真田さん!是非、わたくしからもお願い致します。朱里様!」


紬が乗り気になって身を乗り出して来た。


わたしはチラリと聡美と知夏を見た。


二人とも頷いて、聡美は親指を立ててゴーサインまで出してる。


ハイハイ、ファン・サービスってワケね。


「・・・一度だけでいいなら、構わないけど・・・でも、そんなに上手くないよ?」


わたしの返事に、周りにいた親衛隊の子達はキャー!と黄色い悲鳴を上げる。


いや、だから、そんなに期待される様なものではないんだけど。


「本日の放課後、さっそくピアノを押さえておきますわっ!」


興奮した紬がそう宣言して・・・その日のうちにわたしのミニ・ピアノ・コンサートは行われる事になった。


うわっ、恥ずかしいっ!






紬がどうやって許可を貰ったのか?


そして、どう触れまわったのか?


定かではないが、オケ部が日頃使っていると言う第一音楽室がわたしの為に明け渡され、聴衆は音楽室に収まりきらずに通路まで溢れ返っていた。


オイオイ・・・


はっきり言って、その聴衆の数にビビったが、大勢の前で弾いた事がない訳じゃなかったから、何とか三曲ほど弾き終えられた。


かなり色ボケしたフィルターが掛かった聴衆からの拍手には苦笑せざるを得なかったけど、正直、満更悪い気もしなかった。


でも、


「朱里様!音大を目指されてはいかがですか?」


「そうですわっ!素晴らしい演奏でしたもの!」


コレには参った。


みなさま、それは贔屓が過ぎると言うものですよ。






補足:イーストマン=Eastman School of Music

   カーティス=The Curtis Institute of Music

   いずれも日本で有名なジュリアード音楽学院をしのぐと言われている米国でトップクラスの音楽学校。

   双方ともプレスクール(予備校)の様なものが存在する程競争率が高い。

   どちらも卒業すると学士の資格が得られるが、イーストマンはロチェスター大学の一部として扱われてもいる。


   ツェルニー=ビアノの練習曲


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