17. INVITATION
屋上から降りてクラスに戻ると、紬を始めとした親衛隊が飛んで来た。
「朱里様、どちらにいらしてたんですの?始業式にもホームルームにも出ずに」
そう言いつつも視線はチラチラとわたしの後ろに居る知夏と聡美に向けられている。
「いや、その・・・」
二人から学校生活についてのレクチャーを受けてました、と素直に言える訳もなく、言葉を濁してると。
「朱里サマってば始業式みたいな堅っ苦しいヤツは苦手なんだってサ!だからあたしのお勧めスポットを幾つか教えてたんだよ。校内を案内がてら、ね」
聡美がフォローしてくれたけど・・・オイ!それじゃ、わたしは形式ばった事が嫌いな不良とでも?
「まぁ、そうでしたの?気づきませんで失礼いたしましたわ」
信じるのか?
「いや・・・」
信じて貰った方がいいのか?
「岡村朱里さん、っていらっしゃいます?」
そこへ掛けられた声に振り向くと、教室の入り口には青いリボンタイをした二年生の姿。
「はい、わたしですが」
『様』付けで呼ばれた訳ではない事に安堵して入口に近付くと、わたしを見てニッコリ微笑んだ二年生は。
「わたくし、テニス部の副部長を務めております二年雪組の後藤涼子と申します。本日は入部のお誘いに参りましたの」
勧誘か。
パートリィ・ジョブが出来ないなら、放課後は暇だし、クラブ活動をするのもいいのかもしれない。
汗を流せばストレス発散にもなるだろうし。
「ちょぉっっとまぁったぁ~!」
バタバタと叫びながら駆けて来る人が。
「後藤さん、はぁ、抜け駆けは、はぁ、困る、はぁ、よ」
荒く息継ぎをしながら、間に入って来たのは同じく二年生だった。
「テニスよりもバスケはどう?その長身を生かして!わたしは二年月組の杉田です。バスケット部の副部長をしてます」
「抜け駆けだなんて、失礼ですわ。杉田さん。わたくしはただお誘いに伺っただけで」
目の前で揉められても困る。
「まあまあ、先輩方。朱里は転入して来たばかりですから、今日の処はお引き取りを」
聡美が二人の先輩の間に入ってくれてホッとした。
「そうですわね。岡村さん、宜しければいつでも見学にいらしてね。お待ちしておりますわ」
優雅にニッコリと笑ったのはテニス部の副部長さん。
「そうだな。今日の処は引くけど・・・アンタ、ソフト部の真鍋だろ?仲良さそうだけど、ソフトに誘ってんの?」
バスケ部の副部長さんは、執り成した聡美をチラリと睨んだ。
「ええ~?まさか!あたしは自らエースの座を譲るほどお人好しじゃないっスよ。先輩」
ナイナイと手を振って否定する聡美を二人の先輩はじっ、と見詰めてから、わたしに微笑むを向け、見事なユニゾンで最後まで宣伝を忘れなかった。
「テニス部を宜しくね」
「バスケ部をよろしく!」
「はあ」
妙な迫力に押されて、わたしは間抜けな答えしか返せなかった。
「流石にもう勧誘が始まっていますのね」
後ろで見ていた知夏が、先輩達が立ち去った後、呟いた。
「え?もう、って?」
意味が判らず訊ねると、知夏は眼鏡の縁をそっと持ち上げて腕を組みながら答えてくれた。
「朱里様が入部すれば絶大な効果がありますわ。部員が増えれば部費も増えますし、更に成績が上がれば以下同文です」
はぁ、部費ねぇ。
「成績が上がるって、わたしが運動音痴だったらどうするんだ?」
いや、スポーツには自信がありますけどね。
「あら、いやだ。朱里様ったら『親衛隊』の質問状にお答えになった事をもうお忘れになりましたの?得意な学科は体育、余暇はスポーツをして過ごす、でしたわよね?」
「え?アレって上級生にまで知れ渡ってるの?」
知夏の言葉に驚いてもう一度訪ねると、知夏と聡美の二人ともが頷いた。
「当り前ですわ」
「当然だろ?」
ええ?アレは『親衛隊員』のみに回すって言ってなかったか?
「今や、朱里様の『親衛隊』はこのクラスを含む一年全員と二年・三年の三分の一を占めておりますのよ?」
どぅええ~?そ、そんなに?
「いつの間に・・・」
増えたんだ?
「ま、興味半分の奴らが多いけどな。珍しい編入生のデータが欲しかったんだろ。いいじゃん、ファンが多くて」
聡美は気楽にそう言ってポンと肩を叩く。
「そうですわ。親衛隊員は朱里様を見守るのが鉄則ですから。危害を加えられる可能性が低くなったと思えば」
ま、まあ、虐められないと言うのなら、喜ぶべきなのか?
「それより、部活。真剣に考えとけよ。いい加減な気持ちで決めると、後で後悔するぞ」
た、確かに。
嫌だと思っても、そう簡単に辞められなさそうだ。
「うん、じっくり考えるよ」
気楽にスポーツならいいな、と思ってたけど、そう簡単には決められそうもないな。
はぁ・・・頭痛い。