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16. PERFORMANCE




わたしは知夏と聡美に連れられて、始業式をサボり、どこで鍵を調達して来たのか?普段なら立ち入り禁止だと言う屋上へとやって来た。


「朱里様には一度お話しなくてはと思っておりましたの」


まだまだ厳しい夏の日差しの中、知夏はいつもの笑顔を消して真面目な顔でそう言った。


わたしは思わずゴクリと息を飲み込んだ。


な、なにを?


「夏期講習の初日に余計な事だとは思いましたが『親衛隊』を認めるようにご助言申し上げたのは、朱里様の為でもありますが、わたくし自身が平穏な学校生活を送りたい為でもありますのよ」


はあ。


「朱里様も気づかれたとは思いますが、この『女子校』と言うものは少々独特の空間ですのよ。特にこの学校は初等部どころか幼稚舎からの持ち上がりの者が多く、表向きは途中入学や編入を認めていても、学力や家柄・財力などの点から難しいのが現状ですわ。ですから、選民意識が高く、馴染めずに転校していく方も多いんです」


ああ、判るな。


面接の時の校長の言葉や親衛隊の質問に応えた紙を見た時の反応からして、家柄の上下を気にしたり、財産を気にするってのは。


何しろ、あの質問では父親の職業まで書かされたもんなぁ。


そうか、わたしは成島財閥の血を引く外戚の娘で、大学教授を父に持ち、帰国子女と言うおまけ付きでみんなに受け入れられた訳か。


「朱里様としてはあのような形で騒がれるのは本意ではないのかもしれませんが、手早く馴染む方法としては悪くないと思いましたの。女子ばかりの学校では爽やかな少年の様な朱里様は必ず人気者になると思いましたので」


し、少年ですか・・・グサッとくるな。


「わたしにみんなのアイドルになれと?」


ショックを隠すように苦笑を漏らして呟けば、クラス委員はニッコリといつもの微笑みを見せた。


「強制をお願いするつもりはございませんわ。無理強いはいつか綻びを見せるものですし」


ホントかぁ?


「でも、その方が、朱里様にとっても、わたくし共にとっても、平和的で穏便な解決方法だとは思いませんか?」


え?あの騒ぎが平和的で穏便?


「人は誰しも他人に対して演じる部分があるものではありませんか?現にわたくしも『委員長』と言うキャラクターを演じる為に、近眼でもないのに眼鏡を掛けたりしていますのよ?」


知夏は赤いセルフレームの眼鏡をそっと持ち上げて見せた。


え?キャラ作りの為に?


「あたしだって、活発なピッチャーを強調する為にこんなヘアスタイルしてるしな」


聡美は手でポニーテールを揺らした。


ええ?そうなんだ?


「ここは閉鎖された空間と言えど、一つの社会でもあるんですわ。大学・社会へと進む前のささやかな社会ですけれど。このささやかな社会で、ご自分のポジションを確立されるのも、ある種の社会勉強にはなりませんこと?」


知夏の言葉に、またしても苦い笑いが込み上げてくる。


「わたしのポジション?この学校の王子様役が?」


嫌味を含んだ言葉に知夏は真面目な顔をして頷くけど、だからって『ハイ、そうですか』と素直に賛同出来る訳が無い。


向こうに居た時だって、散々『男みたいだ』とか『女に見えない』って言われて来て、傷ついて来たんだ。


それを日本に来てまで『王子様を演じろ』って?


「あのさ、腹立つかもしれないけど、朱里サマは無理に演じなくたって、そのまんまで充分『王子様』なんだよ?だからさ」


「『様』付けされるのを我慢して『親衛隊』の存在を受け入れてるだけでいいって?」


聡美の言葉を引き継ぐと「そうそう、わかってんじゃん」と返される。


思わず溜息が零れる。


そりゃあ、自分が集団に溶け込むのが難しい人間だって事は承知してるつもりだ。


そして、ハブられて孤立無援でやっていける程、強い人間でもない事も判ってる。


「辛くなったらいつでも愚痴くらいは聞いてあげるよ?あたしだって知夏だってそう言う時はあるんだしさ」


歯を剥き出しにしたニカッとした笑顔を浮かべて聡美がそう言ってくれた。


「そうですわ。それにあの人達に愛想を振り撒くだけでなく、利用する事も覚えられたら宜しいのよ」


眼鏡を外した知夏はウフフと黒い笑みを浮かべている・・・怖い。


「そうそう、あいつらは敵に回すと恐ろしい集団だけど、味方にすると心強いぜぇ」


聡美の言葉に心の中で頷く。


そうだ。


今までわたしは女の子達から反感を買っても、それを上手く交わしたり、あしらう事が出来ずに避けて来ただけだった。


でも、この女子校で『王子様』などと言う存在としてでも受け入れて貰えるなら、それを利用する事を考えるべきじゃないか?


こうして、わたしの事を考えてくれる人もいる訳だし。


「そうだね」


構えずに、肩の力を抜いて彼女達の存在を受け入れてみるのもいいかもしれない。


どんな理由にしろ、あの子達がわたしに向けているのは好意なんだし。


「うはっ、しかし、ホントに朱里サマの笑顔は強力だな」


「無意識な分だけ、厄介でタチが悪いですわ」


わたしから一歩引いた聡美と眼鏡の縁を持ち上げて溜息を吐いた知夏の反応に、首を傾げる。


「なにが?」


「だ・か・ら、その笑顔だっつーの!」


顔に人差し指を突き出されて厳しく指摘する聡美をフォローするように知夏が教えてくれた事は。


「朱里様は普段、凛々しい顔立ちをされている分、笑うと雰囲気が柔らかくなって、そのギャップに驚かされるんですのよ」


へぇ?


「そう?」


思わず顔に手を当ててしまう。


「武器は有効に使うべきですわ」


「そ、そ、少しは出し惜しみしろよ」


新しい友人達の忠告は有り難く聞いておく事にする。


取り敢えず、今の処は。






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