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14. TEACHER

新学期早々、わたしは見知らぬ上級生に「朱里様」と声を掛けられて当惑する羽目になった。


それは、わたしが親衛隊の存在を許した事が原因だろうか?


クラス委員の知夏は勧めてくれたけど、今ではあの子も親衛隊員だ。


信用して良いものやら。






夏期講習で通い慣れた学校は、新学期が始まったから通学する生徒の数が増えたけど、初めの頃の緊張感とはさすがに無縁になった。


編入生のわたしは、既によく知っている教室ではなく、職員室に向かった。


「おはようございます、平沢先生」


正式には、今日が生徒としての初日であるわたしは、担任の先生と共にホームルームとやらに向かう事になっている。


「岡村さん、おはよう。もうすっかり慣れたみたいだね」


わたしは引き攣った笑顔で応えた。


思えば、この担任の薦めで夏期講習に参加する事になったのだ。


まさか、こんな結果になる事を予測していた訳ではないだろうし、厭くまでも好意で誘って貰ったのだから、担任を恨むのは筋違いだと思うが、ちょっぴり恨めしい気持ちは拭えない。


「平沢先生は若くてハンサムでいらっしゃるから(お世辞だよ)やっぱりファンクラブとかあるんですか?」


素朴な疑問として教室に向かう途中で訊ねてみた。


すると返ってきた答えは。


「さあ?知らないな。そんな物があったとしても、立場上、認められないけどね」


そりゃ、ま、そうか。


「岡村は随分とモテてるよな。ま、不祥事を起こさない程度に楽しませてくれよ」


あれ?センセイ・・・言葉遣いが・・・変わってます?


驚いて、足を止めてしまったわたしに気付いた担任は、呆然としているわたしの顔を見てニヤリと笑った。


「職員室でフランクに話したりなんて出来る訳ねぇだろ?私立の女子校ってもっと楽かと思ってたのによ。堅っ苦しくてたまんねぇよ」


オ~イ!それが地かい!


それに『楽しませてくれ』って何を期待してるんだ?


裏表のある性格と言い、担当教科が数学である事(これが一番重要だ)と言い、一筋縄ではいかない厄介なヤツが担任になったもんだ。


ま、わたしもあんまり他人の事は言えないけど。






「おはよう、夏期講習に参加した人は知っていると思うが、編入生の岡村さんだ。岡村さん、改めてクラスのみんなに挨拶して下さい」


一年月組の教室に入り、教壇に立った担任の脇でクラスメイトをチラリと見る。


その中に見知った顔が幾つかあり、ちょっと安心する。


いや、だから、手を振ってくれなくてもいいから。


担任に促されて教壇に立つ。


黒板に白いチョークで担任がわたしの名前を大きく書いている。


恥ずかしいな。


「えー、岡村朱里おかむらあかりです」


名乗っただけで『えっ?』『うそ!』の声が上がる。


そうだよな、無理もない。


「父親の仕事の関係で、今までLA、ロスにいました。日本語には不自由していませんが、生まれて直ぐに渡米したので、こちらの習慣には疎い所がありますが、宜しくお願いします」


ざわつく教室の反応に、わたしは苦笑して、付け加えた。


「わたしの名前は『シュリ』とも読みますので、どちらでも好きな方で呼んで下さい。向こうではシュリと呼ばれる事もあったので」


正確には『シェリー』と呼ぶヤツがいたんだけど。


家族は当然ながら『あかり』と呼んでるが、この学校の生徒達は漢字だけを見て『シュリ』だと勘違いしたんだろう。


それを訂正しなかったわたしも悪いんだけど、向こうでそう呼ばれてた所為か、違和感が無かったから黙ってた。


でもな、様を付けられるのはなぁ。


「申し訳ありませんでした、朱里シュリ様!あ、いえ、朱里あかり様」


席から立ち上がって、そう叫んだのは紬。


そう言えば彼女が一番最初に『シュリ』と呼んだんだっけ?


様を付けたのも彼女だった様な気がする。


「気にしないで、好きな方で呼んで」


手を振って、笑い掛ける。


だから、何故、そこで顔を赤くするかな?


「はい、では朱里シュリ様と呼ばせて頂きます」


ぼーっとしたような顔をして紬は座った。


それを見て、担任が声を掛けた。


「はいはい、ではホームルームを始めます」


こいつ、ずっとニヤニヤ笑ってたよな。


何だか、伯父さんみたいに意地が悪そうだよな。


担任の印象が『好青年』から『腹黒』に変わった瞬間だった。






最初から『あかり』と読ませるつもりで名付けたのですが、入力している時は『シュリ』なので、いっその事シュリと呼ばせようと思ってこんなエピソードを追加しました。

『あかり』だと女の子っぽい名前ですよね(シュリと呼ばせる理由はソレ)


在米の義姉に「あかり」と「シュリ」ならどちらが呼び易い?と聞いたら「あかり」と答えられてしまいました。

逆に「シュリ」は発音がしにくいから「シェリ」となってしまうかもと言われたりして。シェリーと言う名前があるし。

そこで打開策として言われたのが、子供の内は目立たない様に自分で勝手に呼び易い(馴染みやすい)愛称を付けて友達に呼ばせる事があると言う話。

人種についての塀は移民の国であるアメリカでは越え易いが、やはり呼び合う時に名前でからかわれる事があるので、呼び慣れた名前や違和感のない名前を呼ばせる事があるそうです。

向こうでも虐めはかなり厳しいらしい。



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