13. CLASSMATE 2
夏期講習一日目もそうだったのだが、二日目の今日も、休み時間になると親衛隊の子達に席を囲まれる。
な、なぜ?
わたしは背が高い方だけど、座っている周りで立っていられると、もの凄い圧迫感を感じるんですが。
「朱里様、わたくし達の質問にお答え下さってありがとうございます」
「いや」
昨日、貰った質問表は家族の晒し物になり、回答したのは殆ど母親です。
実にいい家族団欒の種になりました。
「ご安心くださいませ、あの質問表はわたくし達、親衛隊の間だけで回覧致しますので、決して他の方へはお見せ致しませんから」
「ありがとう、紬」
個人情報、と言う程大したことは書いてないから、それほど厳重にする必要はないかもしれないけど、それでも全校生徒に知られたら恥ずかしいとは思う。
「ちょっと!曽我部さん!」
そこへ(親衛隊に囲まれていて見えなかったが)同じ教室に居た他の生徒から、大きな声が掛けられた。
「なんでしょう?白石さん」
今までわたしに向かってニコニコ笑顔を見せて頬を染めていた、紬こと曽我部さんが、わたしから視線を外して声を掛けて来た人が居る方向を睨んだ、怖いよその顔。
「いい加減にして下さらないかしら?今は夏期講習の期間でしてよ?ベタベタと編入生に纏わりついて、見苦しいですわ!」
やや、拙い!わたしの所為かな?
慌てて立ち上がろうとしたわたしの肩を、誰かの手が(親衛隊の一人だろうけど)グッと抑えた。
それは女の子とは思えない程の力強さだった。
「見苦しいのはそちらではなくて?朱里様の親衛隊に入りたいのなら素直にそう仰ればよろしいのに」
腕を組んで鼻先でせせら笑う紬・・・じ、女王様みたいだ。
「わ、わたくしはそのような・・・」
「なにも親衛隊は月組の方達だけと制限している訳ではございませんのよ?昨日は偶々、教室でお昼をご一緒させて頂いたからそうなっただけで、他のクラスの方でも歓迎致しましてよ」
言葉に詰まったらしい白石さんとやらは、紬に畳み掛けるようにそう言われて、ガタンと席を立ってこちらに近付いて来た(音がした)。
親衛隊の面々が、囲いを解いて現れたのは、一年のリボンタイを付けて少し顔を赤くした、確かこの教室で一番前の席に座っている可愛い子だった。
「朱里様!」
「は、はいっ!」
大きな声で呼ばれて、思わず返事をしてしまった。
「わ、わたくし一年桜組の白石実里と申します。実里とお呼び下さいませ」
「は、はあ」
ファースト・ネームで呼んで欲しいって・・・アレ?
「はい、これ、ご覧になる?」
紬は白石さん、美里にヒラヒラと嫌味っぽく、わたし(母親)の書いた質問表を見せびらかした。
いやらしいなぁ。
実里は顔を真っ赤にしながらも、それを受け取った。
すると、二十人以上は居るこの教室内の生徒が殆ど立ち上がり「わたくしも」「わたくしも入ります」と駆け寄ってきた。
こ、怖い!
こうして、夏期講習二日目にして、わたしの『親衛隊』とやらは隊員を一年生の夏期講習参加者全員二十八人に増員された。
知夏も入る事にしたらしい。
「だって、やはり朱里様には『知夏』と呼んで頂きたいですわ」
それが理由ですか?
遂にわたしを『岡村さん』と呼んでくれる人はこの教室に居なくなってしまった。
『朱里』と呼ばれる事に抵抗はないけど、『朱里様』はちょっと・・・
わたしって、そんなに奉られる程の人じゃないのに。
ただ、お陰で、編入したばかりだと言うのに、一人になる事は一度もなかったし(一人にさせて貰えなかった、トイレですら)、勉強についても誰かしらが丁寧な解説をしてくれた(これは非常に助かった)。
どうやら、夏期講習に参加しているのは、成績が悪かった人ではなく、真面目で勉強熱心な方々が集まっていたらしい。
ママにこの事を報告すると『さすがは、あたしの娘だわ』と鼻高々だったし(わたしがモテるのはパパに似てるからだろうって言ってたくせに)、『これで朱里もあの学校で上手くやっていけるわね』とご機嫌で、わたしの夏期講習がまだ二日残っている時にパパと弟を連れてLAに帰って行った。
次に会うのはクリスマスの時期かな?
わたしと言えば、制服が届き、この学校の勉強のペースにも慣れ、新学期の準備も万端整って、安堵する一方で、親衛隊の噂は夏期講習を受けている高等部生徒全員に響き渡り、登下校の際に二年性や三年生にまで『朱里様』と呼ばれ驚いた。
これって、喜ぶべきなのかな?
幸い(?)な事に、親衛隊の人数はあれ以上増えてはいないらしい。
が、私設ファンクラブについては、まだ把握できていない、らしい。
わたしは、わたしはファンじゃなくて友達が欲しいんだ~!