10. SUMMER SCHOOL
学校からの電話を受けた時、頭の中に浮かんだのは『夏期講習』ってなに?だった。
暫し、呆然として何も答えられなかったわたしに、担任だと言う教師は説明してくれた。
この講習は自由参加で義務ではない事。
旧盆が終わる時期から新学期が始まるまで土日を除いて毎日行われる事(旧盆ってナニ?)
内容は、一年生の場合、中学の復習がメインで一学期の復習も含まれるとの事。
尚、二年や三年になると、夏期講習は大学受験にターゲットを絞るので厳しくなるし、参加率も高くなるので、一年の内から参加してみては?との事。
やはり進学校はやる事が違う。
蒼に言わせると、夏期講習とは普通、個人レベルで予備校に通うものらしい。
それも三年生になってやっと、が多いのだとか。
日本の授業に一刻も早く慣れたいわたしは喜んで参加する事にした。
まだ制服は出来上がっていないが、ブラウスは用意してあるし、似た様なスカートで我慢して貰おう。
パパはもちろん参加に賛成してくれたし、費用も出してくれると言った。
ママは折角日本に来たのに、と不服そうだったが、伯母さんやグランマと一緒になって買い物に勤しんでいたから大丈夫だろう。
弟の玄は、女性陣のマスコットとしてちゃっかり治まり、色々と強請っていた。
わたしも、玄のように素直に甘える事が出来れば、あんなに悩まなくても良かったのかもしれない。
末っ子は羨ましい。
パパ達が来た三日後から夏期講習は始まった。
編入試験とはまた違った緊張感で学校に向かう。
まず、職員室に向かって、担任教師に挨拶・・・ってアレ?この人、試験官だった人?
「岡村さんだね、宜しく。一年月組担任の平沢です」
つ、つきぐみ?クラスネームがつき?
疑問符が頭の中で山のように湧いて出て来たけど、それを必死で堪えて挨拶をした。
「よ、宜しくお願いします。夏期講習のご連絡、ありがとうございました」
「早速だけど、一年の夏期講習はクラス単位じゃなくて学年単位で行われているんだ。だから、まず、自分のクラスのロッカーに荷物を置いてから、講習の行われるクラスに移動して下さい」
荷物?と首を傾げると、担任の机には山のように積み重ねられた教科書が・・・これ、わたしの?
そして、夏期講習のプログラム(科目の時間割や授業の行われるクラスが書かれている)と校内地図と生徒手帳を貰った。
「学生証は明日には渡せると思うから」
こうして、わたしは大量の教科書を抱え、一年月組のロッカーを目指し歩き始めた。
さ、流石に重いなぁ、と思いながら歩いていると「岡村さん?」と正面から声を掛けられた。
見れば同じ一年を示す赤いリボンタイをつけた眼鏡ギャル。
「私、一年月組のクラス委員をしてます、秋山です。宜しければクラスまでご案内いたしますね?それも、持つのをお手伝いします」
や、優しい人だ!
大和撫子?
「ありがとうございます」
教科書を半分持って貰って、感動したわたしは、クラスまでの道すがら、秋山さんから話を聞く事が出来た。
「一年の夏季講習に参加する人は少ないんです。まだそれほど受験に深刻ではないから。だから一クラス分、三十人程しか参加していないんですけど、今回は参加出来なかった人達は残念がると思います」
「どうしてですか?」
え?編入生って夏期講習から早速虐められるの?と不安がっていると、秋山さんはクスクスと笑いながら答えた。
「岡村さんは編入試験にお見えになられた時から全校生徒の注目の的でしてよ」
うおう!やっぱり編入試験なんて受けてまで入って来るのって目立つんですか?
「部活や補習で登校していた人達の間で噂になっていたんです。とても素敵な人が編入して来るらしいって」
すてき?って?
「覚悟なさった方が宜しいですよ」
なにを?
わたしは既に名前が書いて用意してあったロッカーに講習で使わない教科書を入れ、秋山さんと一緒に講習の行われるクラスへと移動した。
ざわざわと人の気配のする教室のドアを開けると・・・何故かキャー!と言う歓声が上がった。
な、なぜ?
大昔に珠算の検定試験で女子校に行った時、クラス名が「桜」や「梅」とあったのを見て驚いた事があります。
調べると小学校などには多い様ですが、女子校にもやはりその傾向がある処もある様で、今回採用いたしました。
帰国子女の朱里が戸惑う現象の一つとして。
ちなみにこの学校(実は学校名をまだ考えていない)の高等部のクラス編成は「雪」「月」「桜」「梅」の4クラスずつ。雪月花ってコトで。
今更ですが『この話はフィクションであり、登場する団体・人物などの名称はすべて架空のものです。』のでご了承ください。