補色
企画用に書いた短編です。
色の比喩で、距離と温度の話をしています。
あの人は藍色。調和と平穏の人。
私の色は…。
「どうした。もしかして…」
「はい。実装の誤りを見つけてしまって、少し。
気が付いたら終電を逃してたので。
まー、ちょっとやってくかって。
すみません」
てへっとおどけたポーズを演出してみる。
「そっか。じゃ、朝礼の後に頼む」
「お・ま・た・せ。じゃ、聞かせてくれ」
隣の椅子に腰かけた。コロンが揺れる、ほんのわずかに。
隣席の同僚、今日は終日外出だ。
「ええと、まずですね…」
鋭い目付き。
こういうときに、この人はこうなる。
その人相の悪さ、ちゃんとわかっているのか心配になる。
いくつかのやりとり。午後イチには作業は完了するだろう。
機械的を装って論理的に話した、つもりだ。
「なるほど、わかった。よく纏まっている。
調査結果をまとめて、あちらにも送っておいてくれ。
午後イチか…、コアタイムが過ぎたら速攻で帰れ。
徹夜なんて、効率を落とすだけだ」
おっしゃる通り…あれ、寄ってきてる?
香りが、近い。
小声、ささやき。
「コアタイムなんぞ待たないで帰ってもいいぞ。
打刻忘れで、な」
うなずく。それしかできなかった。
これ以上の迷惑はかけたくない。でもかけたい。
「いつもありがとう。でも無理すんな。先は長い。
まさに、”♪ The long and winding …”って。
そんな古い歌、知らんよな。
何かあったら言ってくれ。よろしく頼む」
知っています。知りました。ここへ来てから。
赤色、かもしれない。何となくそう思う。
6色のアラベスク。
距離を置いて眺めたのなら、それは無彩色となるのだろうか。
知ってみたい。でも知りたくは、ない。
ただ私は、あの人の、オレンジ色に、なりたい。
読んでくださり、ありがとうございます。
補色という言葉の持つ“寄り添い方”を、少しだけ借りました。




