5話
結論、無理だった。
新太が思い切り力を入れたところで、石は数センチほど浮くだけ。
たとえ、もっとしっかり持ち上げることが出来たとしても、数歩で力尽きることは明白だった。
「クソッ! こんなん無理に決まってんだろ」
悪態と共に感情のまま石を蹴飛ばしてみても、石は微動だにせず……新太が痛みにのたまうだけだった。
ならいっそ、アガロに無理って言いに行くか?
「……いや、やめとこう。顔怖えし」
そんな、なんとも情けない理由でアガロの元に向かうのを諦めた新太は、先ほど蹴った石材の上に腰を落とす。
空には嫌らしいほどサンサンと輝く太陽……しかし、その角度は次第にゆっくりとだが傾きを見せ始めていた。
きっと、あと数時間もすれば日は落ちて、夜の闇が来るだろう。
「あークソ、なんか手は無いか?」
アガロもわざわざ嫌がらせや悪意から、こんな仕事を俺に投げたわけではない……はず。 そんな希望的観測を頼りに、思考を巡らせる新太だったが、そもそもアガロは言っていた。 “その辺に使えるモンが転がってるから、好きに使え”と。
そのことを新太が思い出したのは、視界の端にあった“背負子”を見つけた時のことだった。
……
…………
………………
「ぐ、ぬお、……ぉぉぉぉぉぉぉッ!」
積まれた石の段差を利用し、背負子に石を載せ……そしてそれを力尽くで背負い、立つ。
まだ、たったひとつといえど、ついに新太は石を持ち上げることに成功した。
「う、ぐ……」
しかし持ち上げたとて、気を抜けば一気に背へと持って行かれる重み。
その緊張感に新太は顔を引きつらせながらも、ゆっくりと歩き出した。
「へ、へへ……へへへ……」
数歩、また数歩と肩に痛みが奔る。
だが着実に歩を進めていく新太の口からは、なぜか妙な笑いが漏れ始めていた。
……正直、その顔はかなり不気味だったが、幸運なことにそれを見ていたものはおらず、新太の奇行が広まることはなかったのだった。
◇◇◇
「よぉ、アラタ。すぐ根をあげるかと思ってたが、思ったよりも運んだみてぇだな」
あれから数個ほど石を運んだ頃、アガロはそんな言葉と共に新太の元にやってきた。
そろそろ日が落ちることから、今日の仕事の終わりを告げに来たらしい。
「おかげさまでな。かなり肩が痛えよ」
「ハッ、そんなもんで済むなら、明日からも大丈夫そうだな」
「……マジかよ」
「期待してるぜ~、アラタ」
言いながら新太の肩に手を回し、「おら、飯食って宿に行くぞ」と引っ張る。
その強引な行動に肩の痛みが増すものの、新太はアガロに抱えられるまま、夜の街へと繰り出したのだった。
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