0話
この世はクソだ。
眼下で光るクリスマスイルミネーションと、それに群がるカップルの姿に、俺……高崎新太は自分の状況を呪った。
子供の頃は来るたびに喜んでいたクリスマスも、社会人になってからは独り身には、ただ怒りを募らせるだけのクソ行事。
おまけに、仕事はブラック中のブラックと来たもんだ。
――いっそ、このまま身を投げてやろうか。
データのアップロード待ちを利用して、ほんの少しの休憩をと、屋上のフェンスに身を掛けて、新太はそう思う。
だが、今日を乗り切れば、1週間ぶりに家に帰れる。
そうしたら、飯食って、風呂入って、布団で――
◇◇◇
「――ッ! 寝てた、のか?」
知らぬうちに閉じていた瞼を開け、新太は仕事に戻ろうと身を起こす。
そうして、しっかりと前を見ると……目の前の世界は、一変していた。
「は……? なんだ、これ……」
コンクリートで堅かった屋上の床は見る影も無く、新太の足下は青々とした草に覆われ、所々には白や赤、青といった花が咲いていた。
身を掛けていた屋上フェンスはどこにもなく、周囲にあるのは幹の太い樹だけ。
おまけに暗かった空は、一面の青空が樹の葉の隙間から覗いていた。
「おいおいおいおい、なんの冗談だよ!? 会社……はどうでもいいけど、一週間ぶりの帰宅はどこにいったんだよ!?」
会社に関しては、あんなブラック企業、無くなってくれた方が世のためになるから良い。
だが、1週間ぶりのまともなメシ、1週間ぶりの風呂、1週間ぶりの布団はどこにいったんだよ!?
それだけを楽しみに、あのクソみたいな仕事を耐えてたんだぞ!?
どこやったんだよ、俺の天国は!!
新太がそんなことを考え、わめいていると……スコーンと頭の上に何かが落ちてきた。
頭を押さえ、驚きに声を上げる。
「ぬぉ……?」
驚きを抑え、モノを確認すればパンフレットのような薄い本。
……しかしどうやら、カドが頭に向かって落ちてきたらしい。
そりゃあ、多少驚きもするダメージがでるだろう。
「なんだ、この本……」
物言わぬ本に疑問を投げつつ、新太は本に手を伸ばす。
持ってみれば数ページしかない、軽く質素な本。
ただ、表紙には新太の知らない言語がデカデカと書いてあった……のだが、
「異世界、入門、書……? 知らないのに、読める?」
この言語がなんなのか分からないながら、新太の脳内にはしっかりと“分かる言葉”として理解することができた。
そしてその、“分かる言葉”で知った、異世界というモノ。
新太は不思議と湧き上がる興奮にせき立てられるように、本を開いた。
NEXT.入門書を読もう




