駄目なら
朝の通学路。
「おはよう!」
私の背中を軽く叩いて、元気な笑顔で挨拶をしてくれる松沢くん。
「おはよう。昨日は、私の途中の作業を手伝ってくれたんだよね?ありがとう。」
告白の事を清水くんから、聞いているのだろうか。
「ん?ふふふ。何、聞きたそうな顔してるのかな。」
お礼の会話も無視して、ニヤニヤと私の表情を観察している。
性格悪いな。
「もう、篠崎はマジメちゃんなんだからぁ。心配しなくても、作業なんてほとんど残っていなかったよ。俺は、篠崎が出て行ったすぐに教室に入ったんだけどね?」
机の上の残りの作業も把握できない程、私は慌てていた。
松沢くんが廊下にいたのさえ気づかずに、走って逃げるほど混乱して。
「泣きそうじゃん。大丈夫!あいつに、ちゃんと助言をしておいたから。」
「……ありがとう。」
お礼は言ったけれど。
助言?何だか松沢くんが清水くんにしたと聞いて、安心できないのは何故だろうか。
その日、助言が効いたのかは分からないけれど、清水くんはいつもと変わらない接し方だった。
安心しながら、寂しさが生じる自分の都合の良さに落ち込んでしまう。
「篠崎、レジュメのアンケは回収できた?」
そして、普通に接して何事も無く放課後を迎えた。
「ごめん、半分もないかな。……12枚。」
「ありがとう。俺の分と合わせれば全部そろっているよ。提出期限まで間があるけど、今日中に集計を終えておこうか?」
相変わらずの手腕ですね。
でも、この雰囲気は何やら微妙な物を感じますよ。
「あの、ごめんね。今日は用事があるから、明日でも良いかな?」
少しでも時間が経てば、こんな空気もマシになる気がする。
昨日のような全速力では彼に失礼と言うか、空気が悪化しそうだから、慌てずに帰り支度を始める。
「清水くん、また明日ね。バイバイ。」
よし、自然に逃げられた。
そう安心した私の手を、彼は捕らえて引き寄せる。
私は何が起こったのか理解できず、放心状態。
どうやら私はバランスを崩して、彼の腕の中ですか?
「松沢が言ったんだ。昨日の俺は攻め過ぎたって。だから。」
これは昨日より攻撃力の高い、攻めですけど!
松沢くん、どんなアドバイスをすればこんな事になるのか教えて欲しいんですけど?
抱き寄せる力が強くて、痛い訳じゃないけど逃げられないのを実感する。
彼の熱や息遣いも伝わって、何を言えばいいのかも思いつかない。
「うわぁ。清水、それはないわ~~。この件で、昨日お前と一緒に帰る約束していた俺の立場を返せ。」
見られた。
助ける風でもなく、呆れるように頭を押さえてしゃがみ込む松沢くん。
「押して駄目なら引けって言ったけど、物理的な話じゃないぞ?」
唸る様に言葉を吐き出し、清水くんを睨みつけた。
腕を引かれたのは、そんな理由ですか?
「何人もの女性に不誠実なお前のアドバイスなどと侮っていたけど、これは悪くはない。」
上からの声に視線を向けると、清水くんは幸せそうな笑顔。
私は言葉を失い、足の力が抜けて床に座り込んでしまった。
「お前、俺の事をそんな風に思っていたわけ?俺は、お前ほど相手の気持ちを無視したりしねぇ~ぞ!聞いてんのか、この恋愛音痴。篠崎が困ってんだろ、離してやれ。」
清水くんは、力の抜けた私の片手をずっと掴んでいる。
「今度は逃がさないから。」
見たことがない彼の黒い笑顔。
清水くんにとっては押しも引きも、私への攻めにしかならないのだと覚悟した。
「怖い。」
涙で視界が霞む目を拭って、視線を逸らす。
捕まった手を抵抗するように揺らしてみるけど、手首に加わった力は強くなるだけ。
「……嫌い。」
自然に出た言葉。
同時で清水くんを睨みつけ、思いっきり手を払う。
力が緩んだのか掴んでいた手が離れ、私は逃げるように走る。




