押して
次期生徒会長に推薦されるほど優秀で みんなに優しい
清水 一颯
そんな彼から告白された
篠崎 和叶
好意は嬉しいけれど 今は、あなたの愛情が怖い。
押して駄目なら引き寄せる 強引な攻めは『したたか』に……
篠崎 和叶
「清水くん、これ先生から明日までにって言われたんだけど。」
私は幾つかクロスされて山になった書類を抱えながら、彼に話しかける。
すると全ての書類を受けとり、机に置いてため息。
「あの、放課後が忙しいなら私一人で……」
周りから彼、清水 一颯君に、生徒会長から次期推薦の話が来ていると聞いた。
忙しいと思っていたし、急な仕事は大変だろうと、遠慮して言ったのに。
彼は私に優しい苦笑を見せる。
「篠崎、前にも言ったけどさ。先生から呼ばれた時は必ず、俺に声をかけて欲しいんだ。」
あぁ、こんな優しさを示されると、誰でも彼を好きになってしまうに違いない。
「これは、職員室の前で捉まってしまったのよ。途中で、手伝うと言ってくれる男子もいたんだけどね。」
「はぁ……。」
それは何のため息ですか?
山の書類を指さして説明しているのに、私の力も抜けてしまいますけど。
「篠崎、当然だけど放課後は俺も残るよ。全クラスに書類を配ると聞いていたけど、レジュメか。どこからの指示なんだろうな。」
そう言いながら、午後からの授業で邪魔にならないように小分けし、教室後部の棚に並べて重しを置いて行く。
手際が良い。
放課後、私たちは黙々と作業を進めた。
ざわついていた教室内は人が減るにつれて、静けさを伴っていく。
「篠崎、聞きたい事があるんだけど。」
彼が私に何を尋ねるのだろうか。
「何?」
「好きな奴、いる?」
好きな奴?
いきなりの質問に間をおいて考えるけれど、その意図も自分に該当する相手も思いつかなかった。
「今は居ない。」
下を見たまま作業をしながら安直に答えたけど、深い意味などない。
それなのに。
「今は?前は居たって事?」
どう答えていいのか分からず、作業の手を止めて目を上げた。
思わず息を呑む。
「ねぇ、訊いているんだけど。答えてくれるかな。」
彼の優しいイメージが覆る様な表情に息詰まる。
私の何が、そうさせてしまったのだろうか。
書類とホチキスを持った手を膝に置き、視線を少し逸らして答える。
「これから、好きな人くらいは出来ると思う。」
今までよりは、これからの事が頭にあったのだけど。
確かに初恋や憧れは経験してきた。
でもそれは、彼の知りたい答えじゃない気がする。
「篠崎。俺さ、君の事が好きなんだ。今、特別な誰かが居ないのなら付き合って欲しい。」
逸れていた視線が、思わず真っ直ぐになってしまう。
目が合って、彼の気持ちが怖いぐらいに伝わる。
「ごめんなさい。私では、清水くんに相応しくないと思うんだよね。もっと可愛くて……」
「俺は、篠崎和叶を好きになったんだよ。俺の事、嫌い?」
ずるい質問だ。好きか嫌いか聞かれても、答えに困る。
彼の告白に、私は顔が真っ赤で体が熱いし、心臓がバクバクして頭はパニックだ。
「気持ちは嬉しいけど、嫌いじゃないけど、ごめんなさい。」
私は手にしていた物を机に置いて、自分の荷物を持って逃げた。
彼の表情も見ることが出来ず、溢れ続ける涙を拭いながら必死で走って。
思い出せば、一緒に作業しながら交わした会話や彼の表情に、心は素直だった気がする。
楽しくて、淡くときめいていた。
あなたを嫌いな人なんかいない。
好き。彼からの告白が嬉しくて、涙が止まらない。なのに苦しい。
夢にも思わなかった。彼の心が私にあるなんて。
どうしたらいいのか分からない。
彼は、これからクラス委員ではなく生徒会長になる。
今まで以上に忙しくなれば、私との接点も少なくなっていくだろう。私が霞んでいく。
失望するかもしれない。私に告白したことを後悔するかも。きっと。
夜、ラインで謝罪を入れた。
作業を途中で投げ出し、任せてしまった事を。
告白は無かった事に出来ないだろうかと、あえて触れずに。
彼の返事を待った。
『あの後、松沢が手伝ってくれたから大丈夫』
松沢くん、部活に入っていないよね。
他のクラスで遊んでいたのかな?
『ありがとう。明日、松沢くんにお礼を言っておくね』
『松沢に嫉妬するよ』
どう返していいのか戸惑っていると、彼の気遣いなのかな。
『おやすみ。また明日』




