一瞬の光を見て……
久々の大学。
「蓬来、お前の彼女……大丈夫なのか?」
見知らぬ奴が、俺に近づいた。数人がその返事を待っている。
興味と言うより、本気で心配そうな雰囲気。
「ごめん、連絡が取れなくて……何が起きているか知っているのか?」
トラが来た後も、何度か電話があって……比名琴と連絡が取れないと言っていた。
ある意味、嘘ではない。
「ネットでの情報だよ。耳に入れないようにしてるの?」
「それもあるんだけど、教えてくれ。」
言いにくそうに、視線を逸らしたので不安が募る。
「実は、彼女……映画に出ていただろ?週刊誌の男は、誰だ?みたいになって……映画の批判が半端ない。彼女も……その……」
比名琴!!
俺は、比名琴の家に向かった。一歩手前……
「幾久!こっち……」
トラが俺の手を引いて、呼び止めた。
「……比名琴は?」
「待て、移動が先だ。」
トラは、反対方向の細い道に誘導する。
そこには、命・シュウちゃんに、文一ちゃんも隠れていた。
「幾久くん。今、週刊誌関係の人が囲んでるの。今行くと、混乱で……コトの状況を悪化させるかも。」
シュウちゃんの真剣で早口な説明に、腕を引かれ歩き続ける。
……自分のしてこなかった何か……逃げていた距離を憎んだ。
畜生……俺は、一体……
すぐ近くの一軒の家に入る。
「私の家なのだ。夜まで親はいないので、お気にせず~。」
文一ちゃんの案内で、リビングに皆で座り落ち着く。
「幾久。あの写真の相手は、誰だ?」
命が怖い顔で尋ねる。
え?
「あの男は、俺の知り合いか?」
……??
「幾久、今回の騒動は……お前も関係しているんだぞ?」
……。
全員が俺を見て、うなずいた。
「へ?」
俺の……写真の相手??
「胸元が開いていて、美味しそうだったので美人な担当さんだと思われます!」
トラがいい笑顔で叫んだ。
もちろん、文一ちゃんが口元をひねり……笑顔に怒りマークが見える。
……。あれ……かあぁ??
「いや、トラの来た日……駅の方向を教えて欲しいと、外まで一緒に出て……よろけたのを支えた。」
「怪しい!」
……。
突然の叫び声に、皆の時間が止まった。
「ぎゃ!?」
「し……嶋関さん??」
皆の輪に、いつの間にか入り……真剣な顔で興奮している。
「遅くなりました!この、嶋関……頑張りますよ!!」
「……文一……いつ、呼んだの?」
トラは複雑な顔で、文一ちゃんに尋ねた。
「呼んでないのだ。」
またも、嶋関の暴走。
「さて、比名琴ちゃんの相手は俺!幾久くんの相手は椎原さん。これを弁解できれば、すべて解決です!!」
中心で立ち、叫んでいるが……今、何と??
「ん?どうしました??皆さん……俺を見つめても、何も出ませんよぅ~~♪」
緊張感の無い笑顔の嶋関。
「嶋関ぃ~~!!比名琴の相手がお前って、どういうことだぁ?!」
叫ぶ俺の腕を、皆が押さえた。
襲い掛かる俺に、嶋関は笑顔のまま言う。
「この写真を見てください。」
そこには、泣いて鼻水を垂らした嶋関を慰める比名琴。
……。
「あぁ、これ……大学で捕まった日の夜??」
命が少し笑う。
……。畜生、使えない!!
「……~~~~ぐっ!!……はぁ。で、比名琴は……どうしてる?どうなるんだ?」
言いたい事だらけだが、呑み込んだ。
嶋関のことより、今は比名琴が大事だ……
「明日、記者会見があります。そこに、一般人を侵入させる経路を確保したという情報もあるんだ。」
マトモな答えが、嶋関の口から出ていた。
「ん?どうしたのぉ~??編集長の情報だよ??」
……思っていた以上に、読めない人だと知る。
編集長もだが、嶋関……底知れない……
「映画の評判を守るのです!!」
「いや、守るのは比名琴だけど?」
嶋関は不思議そうな顔。
無視……。
比名琴の危機を助けられるのは、俺……だ。
「幾久、頑張れよ。」
「コトを助けて……」
全員がそれを望んでいた。
嶋関が比名琴のところに行ったのも、俺が別れると言ったから。
嶋関を担当から外し、椎原さんが担当になったのも……俺の我儘だ。
写真は、誰の意図にしても……比名琴を追い詰めたのは、俺だ。
「明日、記者会見の場に行く。比名琴を守る……助けるよ!!」
俺達の恋愛は、常に普通ではなかった。
比名琴……君の心は、俺にあるだろうか?
記者会見の数分前、比名琴が会場に姿を見せた。
編集長の情報の通り、一般……いや、悪意のある者が雇われたかのような罵声。
その間を押し退け、くぐり……記者の大勢見守る中に飛び出した。
「比名琴!俺と、結婚してくれ!!」
……。
あれ?俺、今……何を言いましたか??
会場は静まり返る。
比名琴は、立ち上がって涙を浮かべた。
返事は、頂けないのでしょうか……
周りのどよめきが、心音と重なり……目が回りそうだ。
「待ってください!荻原さんには、不倫の疑惑が!!」
一人の叫んだ記者に、二人が反応した。
「「えぇ??」」
「あいつ、結婚してたのか?」
「うそっ!!」
俺と比名琴の驚きに、会場がまた静かになる。
……。
「知らずに、付き合いを?それも、元恋人の知り合い??」
話がこじれそうだ。
最終手段の出番か……
「週刊誌に載った写真は、これだ!!」
嶋関の情けない写真を、大量にばら撒いた。
俺は、比名琴の近くまで進む。
「生頼 奥谷先生は新恋人が報道されてますが?」
一人の記者の質問に、比名琴の表情が怒りに変わる。
「そうよ!私と別れて、あんな……胸をさらしたような……H!すけべ!変態!!」
比名琴……きついよ。皆の前で……
「変態だとは思うけど、俺が想像するのは比名琴の胸だけだ!!」
……。
「え~、それでは?婚約の記者会見に変更です!!」
遠くで、司会の声がする。
俺の腕の中には、比名琴がいる。
「……幾久、返事をしてもいい?」
「はい。」
「あなたへの愛を誓ったあの日から、私の心はあなただけを愛した。他の人を見ることもなく……奪われた心を捨てられるのかと、不安に生きた。責任を取ってください!」
「はい。一生を、比名琴に捧げる。この心に君だけを抱いて……」
周りも気にせず、比名琴の唇の感覚を味わう。
甘い……幸せに、酔いしれ……
「ごほっん!!失礼、では……新婚旅行は、どちらに?」
「当然、思い出の地!」
「沖縄です!!」
「冠菜!こっちに、いらっしゃい!!」
「やだ!パパ、抱っこ!!」
「ふふ……冠菜は、甘えん坊だね~。」
「パパ、大きくなったら結婚してね?」
「冠菜。何て、可愛い声で俺を惑わすのか……その声に……」
「ストップ!!幾久、冠菜の情操教育上……ちょっと?んん~~??いや、大分……問題があるような気がする。」
「そう?」
「多分?……冠菜。パパは、お母さんと結婚したの!だから、無理よ~~。」
「いやぁあ~~ん!!パパと、するの!!」
「……比名琴、別れてくれ。」
「殺すわよ?」
俺の肩にもたれ、言葉は怖いけど……笑顔の君。
俺達の子供、冠菜も笑う。
これは現実。シミュレーションじゃない……手に入れたいと願ったものがここにある。
そろったすべては……ノーマルコンプ。
現実の俺と比名琴の恋愛に、フルコンプはない。
幸せと辛いことが、必ずあるだろう……それでも、恋愛は続く。
「比名琴……愛してるよ。」
「私も……愛してる。」
「パパ、ママ……大好き!!」
「先生ぃ~~!!原稿はまだですかぁ~~??」
幸せを、いつも邪魔するのは……嶋関。
「嶋関、お前……子供、何人いた?」
「え?8人です!!ささ、先生には俺達を養って頂かないと!」
現実は、美しくも残酷。
夢のような文字の中、彩る文字を体感し……得る幸せに酔い、不安で闇に落ちる。
通じる心が欲しいのか、触れる体の温もりを求めるのか……相手を求め、必死で生きる。
これからも……恋愛を体験し……得ていくのだ。
失うものもあるだろう……それが、恋愛simulation★complete(シミュレーション★コンプリート)
Sim★comp……多くの人に、皆と同じではない恋愛が望みますように。
END




