闇に埋もれて
次の日。
嶋関の置き忘れた原稿を、新担当の彼女が取りに来た。
「はじめまして。椎原 咲絵です。宜しくお願いします。」
綺麗な担当。大人な雰囲気……
大きな胸。見てください……な服のデザインに眼が……
「はじめまして……」
会話を覚えていないけど、部屋に通し嶋関の様子を過大評価して伝える。
と、言っても……原稿の受け渡しだけだ。
嶋関のように、周りに出没や……締め切りでもないのに遊びに来る人など、いないだろう。
多分……そうだよね??
「先生、彼女とはどうなったんですか?」
……。は?今、何と??
「あら、訊いてはいけない事でしたか?」
「仕事には、関係ないよね?」
「関係ありますわ。ふふ……個人的にも♪」
……。ん?嶋関とは違う……何だか、かかわらないほうが良い??
彼女を適当に追い返し、ため息。
部屋に戻り、机に封筒が置いてあるのが目にとまる。
中を見ると、週刊誌……タイトルは……比名琴が、男性と抱き合っている??
【がぁああぁあ~~ん】
別れようって言ったのは俺だ……
けど??君の返事は……『 嫌 』……だったよね??
……。ふふ……へへっ……闇って、どこまで落ちれるのかな?
暗い……暗闇……漆黒……
時間は待ってくれない。俺を置いて、未来へ進む。
その未来も見えない俺を、あざ笑うかのように……
くふふふ……くすす……ふふふ……
「げっ。命の言ってたのより酷い……」
声に、振り返る。
「トラ……無断で入るなよ。」
「命には、そんなこと言わないくせに……俺には、冷たい!!」
うざい……
「入れよ。どうせ、仕事が進まないから……」
ニヤリ……そんな顔のトラ。
「比名琴ちゃん、あれから連絡が無い。文一やシュウちゃんにもないから……」
俺は、遠い目をする。
「いいよ。別れたんだ……しょうがないよ。俺より、相応しい奴が現れたんだ……幸せになってね……」
「お……おおぉお~~い!!帰って来い!現実を見ろ!!」
俺の両肩に手を置いて、揺さぶる。
「……現実だよ。合成なのか?あの写真……」
「見たのか?お前、それ系の雑誌はもともと買わないだろ?」
そう……比名琴の噂のときだけに、こっそり買った。
嫉妬の男……醜い俺……ふふ……暗い俺なんて……
「幾久ぅ~~??しっかりしろ!!お前の嫌がる話をしちまうぞ?俺のイチャイチャ話だ。」
……トラのイチャイチャ……聞いたことなかったな。
人の話も聞かないから、嫌われるのかな……
「トラ!いいぞ、話せ。聞いてやる。お前の、イチャイチャ。ぜぇえ~~んぶ。言え……吐き出せ。」
「うわ~~ん。こんなの、幾久じゃねぇ~~!!」
俺に、どうしろと??
「トラ……俺たちの恋愛は、普通じゃない。普通なんか無い……それでいいと思っていた。いや、今も思うのだが……俺たちとトラや命たちの恋愛は、どこが違う?」
トラが表情を変え、咳払いをした。
「そうだな……。変わりは無いような気がする。ただ、命も俺も……普通だ。違うとすれば……仕事……かな?俺達は、今も学生。親のもとで、結婚も許してもらえるかの状態。お前達には、それが無い気がする。縛られること無く、自由な恋。なのに、心が線を引く。比名琴ちゃんは、お前の仕事の邪魔になりたくない……常に、そう言っていた。多分……お父さんと重ねたのかな?」
トラは、必死で言葉を捜す。俺に伝えようと……
「俺達は、自由の中で制限を味わう。大人が干渉する線だ……それを犯して、気持ちを確かめる。……文一は、振られて傷ついていた。癒してやりたい……愛しさに、触れ……止まらなかった。受け入れる文一に、我慢できない俺が憎くも……嬉しさと幸せに酔った。繋がる未来で、もっと……大切に出来たらと……」
「……そう……。トラ……その、興味が無いわけじゃない。ただ……二人をどう見ていいか……」
「知ってる。お前は、むっつりだね♪」
……。妄想……のこと??
「ぶっ……あはっ……ぎゃははははは……くっ……苦しい。」
久々のトラの爆笑に、腹が立った。
「トラ、俺は……ちっくしょう~~!!」
トラの首を軽く絞めるように、揺すってみる。
「やめっ……冗談だって!苦しいぃ~~。」
「あら、楽しそうですね。」
え?
「椎原さん??今日は、用はないはず……」
嶋関でも、しつこい電話の後で押しかけるのに……
「近くの作家さんの帰りです。これ、差し入れに。」と、お弁当屋の袋。
……。気が利いてるのか??嶋関の基準では計れない。
「ありがとうございます。」
「インターホン、壊れてるんじゃね?俺も、鳴らしたけど……」
あれ?問題は、そこ??
「おっと、文一との約束があるから行かないと。じゃ、幾久……間違いはするなよ?」
イジワルな顔……間違い??
「先生、私は間違いもOKですよ?」
何が??
「お弁当は、次からいらないです。近所に、実家があって晩御飯はいつも……」
「解りました!でも、今日は一緒に食べませんか?」
あれ?自分のも数に入れてる??
「お茶も買ったので、座ってください。食べましょう?」
食べながら、目の前に半分近く見える胸に、何も感じなくなった。
俺は、おかしいのかな?
おかしいよな~~。大きな胸……白い肌。うぅ~~ん。
比名琴は、どうだっけ……普通か、少し大きいのかな?
抱きしめただけで、胸の大きさまではなぁ~~。
「先生、何を考えてるんですか?」
「えっ??その、べ……べっ別に!!」
比名琴の胸を思い出していたなんて、変態だ……。
「先生のH……」
何で、解ったんだ??
「いいですよ……触っても……」と、胸元を持ち上げ……下着まで見える。
「椎原さん、スミマセンが……帰ってください。」
「……ふっ。冗談ですよぅ~~。もう帰ります。先生、駅の方向だけ教えてください。」
女性の考えることが分からない。
比名琴もそうだけど、この椎原さん……理解不能……
はぁ……ため息が出る。
外は、星が綺麗に輝いていた。久々に星を見たな。
「あっ……」
ふらりと、バランスを崩したのか……椎原さんが俺にしがみついた。
「大丈夫?」
「はい。すみません……では、お邪魔しました。失礼します。」
ニッコリ……笑ったその笑顔に、寒気を感じたのは……何かを感じ取ったからかな?
嫌な予感がしていたのだろう……
これも、漆黒の渦となるなんて……




