深く……
日曜日。思い出の喫茶店で待ち合わせ。
【カラ……ン】
優しい音色が響く。やっぱり比名琴だ。
遠い角の席から、手を振る。
音で分かったのが嬉しくて、口元が緩んだ俺に予想外の声。
「いやぁ~~らしい。何、にやけてるの?くふふふ。こんな表情が出来るようになったなんて、オカアサン、嬉しい!」
トラの長い台詞を冷めた目で見ながら、ついメモを取る。
「ごめんね、何か……その……」
「うふふ。私もいるのだ♪」
比名琴の後ろに、文一ちゃん??何故、トラと……え??
「へへっ。俺たち!」
「付き合うことにしました♪」
うわぁ~~。何か、最強……って感じがするのはどうして??
そして、嫌な予感がして比名琴を見ると……的中なのか、視線を逸らした。
「「さぁ!お花見にGOGO!!」」
こいつらぁ~~。
手をつないで歩くトラたち。俺たちの手は、離れたまま……
分かる。比名琴は、恥ずかしいんだ。そして、周りを気にしてるんだ。
分かる……悲しいぐらいに分かるよ?俺は、涙が出そうだ。
横を通り過ぎる人たちが、手をつないでブンブン振っている二人を見て笑っている。
その後ろで、手をつないだら?きっと、同じように見られるだろう。振らないけど……
俺の手が、寂しい……心も、淋しいと言っている。
昼間の桜も美しいが、夜桜の妖艶な美しさにとりつかれたあの夜が忘れられない。
もう、葉が出始め……桜吹雪は、風情を感じない。呆気なく落ちていく。
何故?別れの日を思い出すのはどうしてかな?
希望が無いように感じる淋しさ……比名琴を見ると、同じ気持ちなのか悲しげな微笑。
見なければいい……
俺は、比名琴の両目を塞いだ。そっと……
「幾久♪……って、何?いきなり……どうしたの?」
いつもなら、恥ずかしいと振り払うはずなのに。
俺は悲しくて……比名琴の目を俺の手から解放した。
君の見るものも……感じるものも……俺に制御できない。
心が……サミシイ……触れたい……足りない……
駄目だ。この感情は醜い。抑え、隠して消さないと……
「幾久……最近、あなたの言葉を聞いていない。」
「え?くすっ。少なくしてるだけだよ?」
俺を見透かしたように見つめ、読み取って睨む。
けど、言葉は優しい。
「気持ちが追いついたわ。すべて、吐き出して。私が足りないの……欲しい。あなたの言葉を聴きたい。聞かせて欲しい。幾久……こんな風に、あなたがした。責任、取って……ね?名を呼んで……」
俺たちの恋愛は、やっぱり普通じゃない。
何かを感じ、経験する度に思う。
「比名琴……比名琴……君を、解放したほうがいいのかな?俺が捕らえ、君を狂わした?君は、もっと自由な女性だったはずだ。」
「今の私は、嫌い?」
「違う。……俺の言葉の世界が、現実に通用しない。言葉をどう表現していいか分からない。作品は、留め処なく文字が並ぶのに……」
桜の木の下。風に負けて落ちる大量の花びら……それらが、周りの景色をピンク色に染める。
他の景色は見えない。目に映るのは、同じように俺を映す比名琴だけ。
時が止まる一瞬。静かな世界。
時を止めて……永遠に、続くことを願う……
「比名琴。好きだ……愛している。」
「うん。私も、好きよ。……愛しているわ。私を離さないで。」
俺の腕に抱きしめる。
「心も、あなたに囚われ放れない。……幾久……」
【ビュウ!】
突風に我に返った。
ここは、公園。そして……トラと文一ちゃんがいた。
固まった俺たちは、ゆっくり周りの様子を見る。
嫌な視線……池の向こうから、二人がデジカメと携帯を向け……ニヤニヤと手を振った。
空気を読めよ!!
二人は、笑いながら俺たち2人の見ている前でキスをした。長い……
遠いから分からないが……何か、負けた気がする。
はぁ……ため息が出た。
視線を戻すと、比名琴は冷たい視線で見ていた。
……。公衆の面前チュウは駄目ですか?
俺の視線に気づき、苦笑い。
「ね、比名琴。……手をつなぎたいな」
俺には、試してみたいことがあった。
「うん。はい……」
握手みたいに、軽く出された手。
俺は、その手の平をなぞるように指を滑らす。
「な……何か、エロイ!!」と、手を引っ込めた。
ちっ……勘づいたか?
「うん。実はね……恋人つなぎをしてみたいんだ。」と、微笑んでみた。
……。
反応がなく、思考が固まったようです。
「ダメかな?言葉が出ないから、つながりが欲しい。……深く……入り込んだような体験が欲しい。」
俺の思ったままを伝えた。
聴きたいと言ったのは君なのに……
「……エロい……Hぃ~!!」
何故?何か、矛盾に腹が立った。
桜の木に押し付け、両手首を捕まえた。耳元で囁く。
「エロい?よく分からないな。ふふっ。……言葉は、抑えなくていいんだよね。容赦しないよ?くすくすくす……ね、何がエロい言葉なのか、言って?俺、分からないよ?ね、言って……ほら……」
「やっ……耳元で、止めて……H……エロ吉!」
謝ったら、許してあげようと思ったのに……
「許さない。くすっ。当ててみようか?君に入り込んだような感覚が欲しい。深く……君の中に入りたい。感じたいな……」
【ガクッ】
急に、重みがかかって比名琴が地面に座り込んだ。しかも、涙目。
あちゃ~~、やりすぎたか?
顔が、真っ赤……ボロボロと涙が零れる。
泣き虫にさせたのも、俺だね?ふふ……
比名琴の横に腰を下ろして、抱き寄せる。
頬に伝う涙を軽く吸った。不謹慎だけど、嬉しいな。
「ごめん。ただ、本当に純粋に……手をつなぐのも、どう違うのか知りたかったんだ。文字の世界は、読んだだけで興奮した。つなぎ方一つで、君を深く知ることが出来るのかと……」
「うぅ~~。今度、耳元で囁いたら赦さない。……しばらく、何も許さない……。」
涙目で、優位を示した意地悪な笑顔。
「……参ったな。汚いよ、女の子が有利じゃないか。はぁ……」
苦笑いの俺の頬に、君からのキス。
「へへっ。今は、これで我慢してね♪」
可愛い……
「君は、俺を心臓麻痺で殺す気なの?息が出来なくなる。」
「私は、何度も経験したわ。もっと経験しなさい!不公平よ、私ばっかり……」
「俺の心は、君だけに反応するよ……」




