結末は当然……
俺は知る。それが、君に逢える最後の日だったのだと。
正確には、言葉を交わし……君に触れる最後の日。
君は、何度俺の名を呼んだ?俺は、君の名を何度呼んだかな?
君の心は、俺のものだったと……失って知る。
俺が何をした?
君を傷つけた。キスしたかったのは本当だ。
愛しくて、切なくて……あんな言葉じゃなく、本当のことを言っていたら?
遅い……俺たちの恋愛は擬似恋愛。
終わった?始まってもいないのに?
始まりに気づいたのは、道が閉ざされた後。
編集長は言った。週刊誌が、匂いをかぎつけ……彼女を狙ったと。
手を打ったのは、護るためだと。
映画化?大金が動く?知らない。俺には関係ない。
俺は、すべてを捨てでも……君といたい。何故、赦されない?
普通の高校生。普通って何だ?自由は?
俺は、作品を仕上げた。
結末を書かずに提出した。君に想いを込めて。
君へのすべて。醜い感情も……愛しい気持ちも、後悔も自己嫌悪もすべてだ。
俺の実話。『恋愛を真似て』俺の作品。
すべて、俺の言葉。嘘は無い。信じて欲しい。
君の望む結末を書けなくて。
編集長を脅した。
君に逢うことを条件で、結末を書くと約束したんだ。
一目見たい……と願う。
君に触れることも、言葉をかわすことも無いその空間のその一時。
君の涙を拭ってやることも、名前を呼んであげることも出来ない。
謝る言葉さえ、君には届かないんだ……。
切ない。身を切り刻むような痛み。
愛しい君と出逢った事を後悔する。
君を苦しめる俺が、憎くて……。君は、俺に逢いたくなかったかもしれないのに……。
比名琴……愛している……
テレビ局のインタビュー後。
地下の通路に、昔使っていたラジオの収録室。
君がそこにいると、担当の嶋関が言う。
タイムリミットは、次の撮影の時間まで。
移動時間を引いた5分。
あの日から、10日経っていた。
君の心は、もう解放されているだろうか?
5分……防音ガラスが、俺たちを区切る。
通路は狭く、暗い。
近づくにつれ、泣きそうだ。
比名琴……
防音ガラス越しに、君との再会。
君は、涙を浮かべ……零す。
手を置いたガラスは冷たく、曇り止めが効いているのか……白くなることは無い。
俺の目の前で、気丈な君が涙を流す。
「泣くな。」
「比名琴……俺を見てくれ。」
声は届かない。
手を伸ばして、涙を拭ってやることも出来ない。
【ドンッ】左手で拳をぶつけた。
音は遮断されている。君に届かない……
「幾久君、そろそろ時間だよ!」
空気の読めない担当が、俺を急かす。
「比名琴!比名琴ぃ!!」
声が届くはずもないのに、君は俺を見た。
俺の両手に、手をガラス越しに重ね……額を当て、うつむいた。
俺は、その額にキスを落とす。
冷たい……無機質なガラス。
俺のキスに気がついて、微笑んだ。
愛しい……心が通う。俺も君も、目を細め……見つめる。
ガラス越しに、近づく表情が……想いを告げる。
「好きよ。」
「好きだ。」
ギリギリまで、目を開けたまま唇がガラスに触れる。
目を閉じた。多分、同時……。
「時間です。行きましょう……」
俺は顔を、目を閉じたまま背けた。
君を見ることなく……その場を去った。
君は、俺を見ただろうか?卑怯な俺を……君を最後に見つめることも出来ずに去った男を……
俺はこの数日、何を得た?
擬似恋愛は、非情だ。
俺は、映画の制作発表に招かれた。そこで、第三弾……君との実話が発表される。
そう、君との別れをそのままに……。
ごめん、君は物語だけでも幸せを願った。けど……俺は書けなかった。
感情の赴くまま……すべて、俺の気持ちを知って欲しかった。
心を注ぎだし、この世界から消える決意でいたんだ。
それなのに、君への想いが文字となって次から次に溢れて止まらない。
留まることを知らないんだ。止め方を知らない。
それが才能?いい加減にしてくれ……。解放して欲しい。
この会見が終わったら、君に逢いに行く。
告白するから、すべてを忘れて恋を始めよう?
お願いだ。悲しい想いをさせた償いをさせて欲しい。
比名琴……君の代わりなんていないんだ。
俺の心は、この華やかな世界にない。
見える光も空しく、うつろう意識は準備された現実に連れ戻される。
「花束を受け取ってください。」
大きな花束、渡す女の子の声は聞こえるが姿が見えないほどだ。
花を手に取り、傾けたそこに……君はいた。
花束が音もなく地面に落ち……俺は君を抱きしめた。
夢ではなく、俺の知らない結末をすべての人が見たんだ。
ガラス越しのキス。別れるシーン。
本当は、物語のために仕組まれていた。
「たまには、夢を試してみるのもいい?」
「準備された恋愛要素も、甘酸っぱいのね。ありきたり過ぎて、泣いたわ。」
君は涙目で笑う。
周りの音も消え、俺たちの物語の結末は公のキス。
「比名琴、俺と付き合ってください。」
「はい。よろしくお願いします。」
恋愛物語が始まる。本物の……
俺は、比名琴の手を取って会場を走り人をかき分ける。
この手は、俺の彼女の手。
大きなホテルを抜け、大きな道を走り小道を抜ける。
スピードを落とし、君を見つめ走る。
息を切らした君に、足を止めて抱きしめる。
「ね、その服可愛い。パーティードレスだよね?いつから知っていたの?俺、死にそうだったのに。携帯も繋がらないし……比名琴……比名……」
一気に言いたいことを述べていく。
足りないけど、腕にいる君に満足したんだ。
温かい。息を切らして、俺に重みをかける。俺に委ねるその信頼が、胸を熱くする。
感情に限界が無い。
俺の頭に浮かぶ言葉は、すべて君に捧ぐ。
受け入れてくれる君にすべてを語る。
覚悟して?俺たちは、普通の恋愛では無い。
言葉で君をいつも酔わせてあげる。
「愛している」




