擬似恋愛……
現実で、どこまで恋愛の擬似体験が出来るだろうか?
恋愛シミュレーションゲームでは、現実味が無い。
俺は、完璧を求める。
しかし、女性がそれをOKしてくれるだろうか?
はぁ……いい、実験材料が落ちていないかな?
「先生!いい加減に、次作品へ取り掛かってくださいよ!上に怒られて、帰れないんですよ?」
担当がうるさくて、考えがまとまらない。
部屋のドアを叩き続ける音の中、決意する。
必ず、相手を手に入れる!と。
俺は、久々に外に出た。
窓から、そっと……電柱につかまり確実に下りる。
子供の頃を思い出し、ワクワクした。
成功した達成感に、つい癖でメモを取る。
やばい……トロトロしてたら、見つかって缶詰だ。
小説を書いていた姉が亡くなり、悲しんでいる間もなく……この仕事に就いた。
遺言は、俺に仕上げて欲しい……だった。
出だしの、まとまっていない5ページの原稿。
主人公と相手役の名前。起承転結の紙。
……手元にあったのは、それだけだ。
起承転結も、出会い・何かトラブル・何かが・happy‐end。
俺は、適当に……姉貴の部屋にあった恋愛小説や漫画をかき集め……仕上げる。
そして、無謀な投稿が遺言の締めだった。
そして今……人気小説家の道にいる。
姉よ……満足か?一体、俺にどうしろと??
あぁ、今日はいい天気だな。
このまま、旅に出ようかな?
金は、どうにかなる。学校も、何とかなる。現実逃避……。
才能?あるわけが無い。恋愛なんてしたことがない。
担当に言ったら、あいつ……ゲームを持ってきやがった!
畜生!バカにしやがって。どうせなら、女の子を連れて来い!
ほら!漫画だと、可愛い……現実ではありえない女の子との出逢いがあるだろ?
当然、言ってみた。
冷めた目で見て、ここは現実ですよ?だと?!
分かってる!!
だから、信用できないお前にこんなバカらしいことを言うんだ。
俺は、考え事をしながら角を曲がる。
当然、可愛い子がぶつかるわけが無い。まして、パンチラなんて無い。
そう、これが現実だ……。
商店街に出る。
ここは、4つの学校区の中心。
はぁ……今日は、普通の日。制服着て来たらよかった。
一応は、進学校で有名な高校。
今日は、逃げるのが優先だったからな~。
手元に、財布と……中に諭吉さん一万円札があるだけマシか。
俺は、普通の男だ。可愛い彼女だって欲しい。
男子校じゃなければ!!……いや、もうこの際だ!案が出なければ、BLにする!!
通りには、女子高生がかなりいる。が、えり好み♪
見ていて、ため息が出る。
だよな~~。綺麗な子は、彼氏付きだ。
さぁ、これが小説ならどうだ?
そうだな~。出会いは、落としたハンカチ……古いな。携帯を拾うとか?
捜す女の子から電話がかかってきて、引渡しに喫茶店で待ち合わせ……
はぁ。妄想かよ……イタイな。また他人のをパクルか?少しずつ……。
近くの小さな書店に、足を向けた。
そうだな、売れてなさそうな……クサイ台詞の詰まったのを現代風にアレンジしてみるか?
何か、楽しそうだ。
エロ関係ではないが、奥まった場所に入り込む。
うんうん、ほこりを被った明らかに売れ残りの本たち。
愛しているよ……君たちは、俺の恋人だ。
綺麗に、磨いてあげるからね♪
「はっ!バッカじゃないの?」
そう……この声が君だった。
君を見つけたんだ。奇跡だと、俺は断言するね。
そう、恋愛の神様が俺を気の毒に思って、愛の手を差し伸べたのさ。
くすくす……。逃がさない!必ず、手に入れる。
擬似恋愛を!いや、それ以上の心を。
手に入れたい。どんなことをしても!
普通ではない恋愛を、俺たちは繰り返す。
君は、俺を好きになってくれるかな?未知数……
ヒナキside。
今日は友達に、学校の帰り道の商店街へ食べ歩きに誘われた。
今日は家庭教師の日でもなく、バイトの日でもない。
友達に誘われるまま、本屋に寄ったのが間違いだった。
人生最大のミスだ!悔やんでも、悔やみきれない。
荻原 比名琴。高校一年生。
本は、読まない。特に、恋愛は!
バカにしていた。だから誰とも付き合わない。
「コト!これ、読んでみなよ♪泣けるよ~~。憧れて、男の子にも興味出るよ!コト、何人振るつもり?」
乙女趣味の、鷹木 文一の小言が始まった。
「帰るよ?あんまり、うるさいと!」
私は、二人を睨みつける。
もう一人も、目を輝かせて本を手にとって眺めていたからだ。
三ツ森 柊規。変な名前だが、女だ。
本のオビには、天才小説家。新星の如く登場!第二弾も、ベストセラー~云々。
二人は、目の色が違う。
私にまで押し付けようとするので、キレた。
「こんなの夢でしょ!この作者、頭おかしいんじゃない?現実は厳しいのよ?はっ、恋愛なんかで、幸せになれるか!作者だって、恋愛したことないか現実から逃げてるか……!?」
急に腕を引っ張れ、出会う。
私たちの出会いは、本当に運命?
冗談じゃない、偶然よ!
絶対に、好きにならないわ。何が悲しくて、現実で擬似恋愛?
私は、目の前に見える汚い現実につられることになる。
そう、世の中……金なのよ、結局……。
私の迷いが、私の一生を左右する。
人生ってそんなものよ。
後悔先に立たず?だっけ?
お金は、大事だよ~~って、懐かしいメロディが聴こえる。
『一目惚れ……目があった……運命的。膨らむ恋心……』
……何、夢みたいな寒い台詞!!誰が、思うか!!
さっき見た一文が頭を過ぎる。
本屋から手を引かれ、理解に頭が追いついた頃……
「君を好きになってしまった。一目ぼれなんだ……。付き合って欲しい。」
いきなり、知らない男に言われた。
「はぁ?あんた、頭……大丈夫?」
「あれ?俺、何か間違った?」
それが、蓬来 幾久……人気小説家の本当の姿との出逢いだった。
私たちは知らない。
現実の恋は、楽しいばかりではないと……。
まして、こんな出会い方。
私たちは、これがないと出会わなかった。
出会わないほうがよかったのかもしれない。あんな別れが待っているなんて。
私たちの恋愛は、擬似恋愛。私は、お金に釣られただけだった……
道の往来のど真ん中。
一風変わった二人の男女。明らかに、空気が違う。
違和感に、男は戸惑っていた。女は、どちらかと言うと怒っている風だ。
「ちょっと、何をメモってるの!何なの?説明してよ!!」
おっと、癖で違う世界にいた。
「改めまして。俺の名前は、蓬来 幾久。さっき、あんたが馬鹿にしていた作家。生頼 奥谷。」
俺の自己紹介に、少し顔を引きつらせていた。
多分、名誉毀損あたりのことが頭を過ぎったのかな?
「あの、本人?ちょ、こんなどこにでもいる女子高生の一言ぐらい!気にしないわよね?」
あぁ、気にしない。本当のことだし♪
けど、鴨を見つけたら葱を背負わせないとね!
「いやいや十分傷ついたよ。衝撃過ぎて心を奪われた。責任を、取ってくれるよね?」
君の表情が、どんどん青ざめていく。
うん、現実的な子だ。色々な状況を、この一瞬で整理しているんだろう。
面白い。多分、属性はツンデレか?
金銭的な面に弱そうだし♪期間限定で、押し切ってみるか。
綺麗な子だ。背は、高め。綺麗な黒髪が、背中まである。
制服は、きちんと着こなしているように見せかけて、短めのおしゃれを意識したセンスが見える。
「で、私にどうしろと?」
うん、理解力があるから説明も省けそうだ。
「自信を取り戻すのに、アイデアをもらいたい。一年のイベントを現実的に経験したい。どうかな?年間100万。オプションには、個別でお金を払うよ?」
俺の笑顔の提案に、口をポカンと一瞬。
目が右上に動いて、何かを考え視線が戻る。
「詳しく、説明して欲しい!」
釣れた!
喫茶店へ移動する。
俺は、コーヒーを注文した。
彼女は、ココア。うん、何か女の子って感じ。
「実は、姉を病気で亡くしてね。その姉の遺言で、小説を書いて投稿した結果が今に至るわけ。」
「お姉さんは、小説家だったの?」
疑問に思ったことを的確に訊いてくれる。
やりやすいな。この子に決めたぞ!
「いいや、OLだった。小説は趣味で、始めたばかり。」
そう、病院で初めて知った。
同情で、父母に頼まれ引き受けた小説。
「あ、先に名前を訊いても良い?」
契約には、名前がいるからね♪
「え……。あぁ~~。はぁ。」
何かを考え、戸惑い、諦めた感じ?
「荻原 比名琴」
「どんな漢字を書くの?」
「比べる名前の名に琴。」
説明慣れしている。
確かに、人から訊かれる頻度の多そうな名前だ。
「おばあちゃんがつけてくれたの。」
今までに無い、柔らかな表情。
彼女の本質……デレだな。
「良い名だ。意味があるんだろ?教えてよ。」
頬を染め、嬉しそうに答える。
「人と比べる事無かれ。名は体(人)を表す。人と同じことは、いい事ばかりではない。自分らしさを強くもて。琴は、当て字。琴のような、音色を思わせるような女の子って、関係ない!」
散々、自分が語ってきたのに……何を急に恥ずかしくなったのか、ツンが出た。
ははっ、可愛い!もう、この子に確定♪
「じゃ、契約締結ね。」
ヒナキの否定の言葉を遮る、絶妙なタイミングで【携帯の着信音】が鳴り響く。
使えない担当だった。
「……あぁ、待ってるから。5分以内に来て。それ以上は、待たないから!」
厳しい口調で、言い放つ。
仕事だ♪




