躓きの一言
片思い……勇気がなく、そっと見守るだけの日々。
そんな日々に区切りをつけ、想いが伝わったと思ったのに。
その始まりは、咄嗟に口走った一言。
ずっと付きまとう後悔。
私が、もっと彼の事を知っていればよかったのに……
この想いは変わらないだろうけど、何かが違ったのかもしれない。
傷つけたのは私。
許してほしい、お願い。
もし時間が戻るなら……
私、小林 茶紗が受けるのは。
同一人物からの異なった二つの愛情……
今までに何度か名前を耳にした。
成績優秀で常に上位にいる彼。
スポーツ大会や体育祭では、部活に所属していないのに、運動神経抜群の活躍をする。
そして女子の視線を奪う容姿……彼を見つけるのは簡単だった。
耳に入る情報。目にする外見。それだけで想いは膨らむ。
すべてを知ることも出来ないのに。
そんな外側への想いは彼を傷つけた。
憧れ。淡い恋。未熟な好奇心。
慎重というより心配性で確認作業を繰り返す私は、忘れた事のない提出物。
よりによって生徒指導の先生の授業で!!
放課後。ほうきを持って、足取り重く歩いて向かう。
罰掃除の裏庭。
そこは面積が小さく、その割に木々が乱立して落ち葉やら、風で飛んできたゴミの溜まる場所。
そんな小さな裏庭は、罰掃除の定番。
校内で一番、掃除が行き届いているのではないだろうか?
「好きな人がいるんだ。」
「どんな子なの?」
「俺のこと、見てくれる人……本当の俺を、きっと……」
居たのは先客。
荒木 希渉君と、知らない子……
告白の最中に来てしまった。
私の気配に視線を向ける二人。
「ご、ごめんなさい!!あの、その……」
慌てる私の言葉を待たずに、相手の女の子は走り去った。
うわぁ~~ん!二人きりにしないでぇ~~!?
「どこまで聞いたの?」
「はぁい!?」
パニックで、私の口は何を口走るのか。
彼を見ることもできずに、意外な速さで動く口。
「あのその、私、も、好き……あわわ……その~……!好きじゃなくても、ね、良いんじゃないかな?ほら、さっきみたいに告白してくれる可愛い子と付き合えば、そのうち好きになったりとか、するか……も?」
言い切り、思考も働かず。
静かな時間。
そっと視線を彼に向けた。
表情は無。私を見つめる視線。
まずい……何を口走ったか記憶もアヤシイ。
マトモな事など言っていない。それだけは分かる。
忘れてもらおう。こんないい加減な言葉……
口を開こうとした私に、彼は微笑む。
【ドキッ】
「そうだね……試してみたいかな。」
……え?
『試してみたい』って、言った??
「ね、俺のことを本当に好き?」
この状況に頭がついていかない。
言葉も出ない。
「そうか……君は俺のこと知らないんだ。----」
『許さない』
最後の言葉は、そんな風に聞こえた。
目の前は真っ暗……頭は真っ白……
「いいぜ、付き合ってやる。条件を満たせばいい……」
何の話をしているの……?
「もう一度聞くね。俺が好き?本当の俺……君が見ていた俺……」
私が見ていたって、知ってるの!?
顔は赤くなり、嫌な汗が流れる。
『俺が好き?』か?
そんなの誰だって憧れるよ。
私も好きだと言ってしまったのは焦り。
けれど、それは自分から告白をしてまで付き合いたいとかではない。
夢のような軽い妄想止まり。
それに。『好きな人がいる』と断ったのを目撃したのは何だったのか。
そう、他に好きな人がいるなら。
自分の気持ちに区切りをつけたい。
便乗して言ってしまえば、スッキリするかもしれないと。安易な考え。
あの子のように、『好きな人がいる』と言われて受け入れたかった。
少なからず、私の気持ちを知って欲しかった。
あなたに好意を持ったのは本当だから。
「君が告白したのは俺……君が見ていない俺は、好きでもない奴だよね?」
彼の目は鋭く、逸らすことが出来ない。
私が見ていない?それは、どういうこと?
理解できない言葉が、耳に入ってくるけど反応が出来ない。
何を言っているの?
怒っているのは分かる……
頭に浮かんだのは。謝らなければ!
「ごめんなさい!忘れて欲しいの。私……あの……」
「嫌だよ。君が言ったんだ……好きでもない奴と付き合っても、そのうち好きになるかもしれないって。好きになればいい……俺じゃないオレを。」
怖くて、足が後ろに下がる。
【グイッ】
彼は速いスピードで私に近づき、手を引いた。
「逃がさない。“俺たち”の彼女……だろ?」
『彼女』って?好きな人がいるんだよね?
それに。『俺じゃないオレ』『俺たち』……この言葉の意味を知るのは……




