矛盾
「それで俺は満足だ。」
そうね、私だってそれでも良い。あなたが私に触れてくれるなら。
だけど、私の恋心を知られてはいけない。
知れば、きっと復讐に利用してくれないだろうから。
「止めて、先生……」
あなたは壊れた関係が拗れて素直になれないだけ。
不器用な人。イタズラを何度も繰り返して、後に気付く時が必ず来る。
自分の行為が何を意味するのか思い知り、抗えない感情に傷つくの。
そんなあなたの不器用さが愛しいのに、私に出来るのは……
突然、ドアの開く音。
固まった私たちを見つめるのは、保健室に入って来たおじ様。
何故、ここに?最近は体調が良かったから、迎えにも来ていなかったのに。まさか。
保月先生は青ざめ、手が緩んだ。
「……柚瑠……くん?」
あ、不味い。私は咄嗟に先生から離れた。
おじ様は足早に近づき、立ち尽くす保月先生に抱き着いた。
「うわぁあ~~ん、僕だよ。覚えてる?君のお父さんだよ!」
茫然としていた保月先生は、私に眼を向けて状況が呑み込めない様子。
助けを求めているのかな?
おじ様は、泣きながら説明を続けた。
「君のお母さんから聞いてない?酷いよ、僕を捨てて逃げるなんて……君とも会わせないとか。教育に良くないとか……ぐすん。」
あぁ、うん。私のお母さんは、こんなおじ様を見捨てられなかったみたいだからね。
私でも逃げたくなるのが分かるよ。
「……俺、母さんが強がって嘘を吐いてるんだと、ずっと……」
そうだろうね。何となく、そうじゃないかと思っていた。
おじ様は恨まれるような人じゃない。
多分、このきっかけを作ったのは大内先生だろうな。
私の淡い恋も終わりを告げる。
真実を知った保月先生は、憎しみなど無意味だと分かったはずだから。
どうやって収集がついたのかも曖昧な時間。
保月先生の感情は、どんな風に処理されるのかな。
……後日。
「お前、知っていたのか?」
書類の確認の為、再び保健室を訪れた私に先生は怒りの表情で詰め寄る。
「知らないけれど、大きな溝があるのかと思っていたわ。だってアレだもの。それに、私は知らないと最初に言ったよね?」
日時の記入された記録ノートを見ながら、私は淡々と答える。
「……ごめん。俺が悪かった。」
素直に謝るんだね、何か可愛い。
私は目を上げて、先生に視線を向けた。
「何が?」
優位な私に言い返せないのか、拗ねたような態度。
そして会話を逸らすような意地悪な声。
「なぁ。お前、俺の事を好きだろ?」
いきなりの図星に、今度は私が口を閉ざす。
「ん?素直になれよ。」
「先生には、仲の良い慶子先輩がいるじゃない。」
私は視線を真っ直ぐ向けたまま、にっこりと笑ってみせる。
「可愛くないなぁ、帆夏。正直に言えよ、保健室に来なかった理由は嫉妬だろ?」
私の名前を気安く呼んで、優位を奪っていく。汚い大人。
素直になんてなれない。
「穏やかな時間を邪魔しちゃ悪いと思ったわ。誰かさんが、私を通しておじ様に復讐してたから。」
睨んだ私に、保月先生は苦笑を見せる。
穏やかな声。
「悪かったって。それに、嫉妬していたのは俺だよ。」
保月先生の言葉が一瞬、理解できずに首を傾げる。
「先生が嫉妬?おじ様と私の仲に?」
意味が分からず疑問が一杯。
そんな私の頬に手を当て、顔を近づけて唇を重ねた。
今までと違う優しい触れ方。
見開いた目に入るのは。穏やかな笑み。
「弱ったお前は、俺だけに頼ればいい。」
頼る?そうしてきたよね、今まで。
「くそっ……担任の方が身近だとしても、病人なら保健室の俺の方が面倒見れるって事だ。」
担任って、大内先生の事?嘘だ。
「……嫉妬、してくれたの?」
「してない。」
思わず笑みが漏れてしまう。
「大内先生は、きっと他に好きな人がいる。」
「知らねえよ、あいつの事なんか。それより、お前はどうなんだよ。俺の事、好きだろ?」
好きよ。そんなの知っているくせに。
何故、私が憎しみを受けてもここに来たのか。
そう、恨みを抱きながらも私に辛く当たるのを躊躇しているあなたに、私は……
「好きじゃない。好きじゃない、好きじゃない!」
「ちっ。」
もう少しだけ。
「あぁ、そうだ。素直になったら、先輩との事を話してもいいぞ?」
どうして、いつも上からなのかな。
そうね、知りたい。素直になりたい。
「保月先生、好き。憎しみでも良かった。あなたが私に触れてくれるなら。ふふ……今まで私にしたことを後悔すればいいわ。」
「一生、償ってやるよ。」
悪戯な狐は私に優しくなりました。
END
【悪狐】
マザコンの拗らせファザコンやろうっすな。
生徒に手を出す悪い悪戯な狐です。
割と読む人がいるのに戸惑っています←え?
『ベリーズカフェ』では途中の更新追いが皆無。完結したら読者増える感じ。
昔は『野いちご』でも読者がいたけれど雰囲気が違うのか時代なのか(遠い目)
他の恋愛系も掲載してみるかな。




