・・
執事としての教育を受け、それらしい対応を見せていたけれど。
垣間見せる表情や言葉は、甘い中にも強引で。
不味い。罠にはまったかもしれない。
家族もグルなら。いや、まさか。
おじ様まで共謀していたのだとすると。大人が怖い。藤九郎が恐ろしい。
「七帆は考えすぎなんじゃないの?もし予想通りだとしても、なるようにしかならないわ。ふふふ……覚悟を決めなさい。」
私が帰るのは自分の家。籠の中の鳥。
覚悟って何に?約束は、藤九郎の願いを1つだけ叶える事。
下校中。家までの距離が、いつもより遠く感じる。
少しの無言と、どうでもいいような会話の繰り返し。
おかしいな。初々しい何かも近寄らない結界でもあるんだろうか。
視線をさ迷わせ、藤九郎から話題を振られても言葉を濁すような返事で心ここに有らず。
「七帆、言っておくけど。君が今更、何を否定しても俺は逃がしてやるつもりはない。容赦もしない。」
視線を藤九郎に向けると、彼は真っ直ぐに前を向いて歩き続けた。
思わず歩くのが止まってしまう。
そんな私に、彼は振り返って笑顔を向ける。
私は罠にかかったのだと確信し、それでもその笑顔に心は歓びを感じてしまう。
重症だ。この想いは恋以上に複雑で、止められない。
それなら流れに任せて、私を好きだと告げる彼を信じよう。
命を懸けると誓ったあなたに、嘘はないと思うから。
「え?」
家に着くと、玄関から引越し業者が荷物を大量に運び出していた。
何が起きているのか、全く分からない。
そして、あっと言う間に荷物を積んだ車が走り去る。
茫然とした私の手を、藤九郎は説明もなく引いて行く。
家の中は、見覚えのある家具と新しい家具が混在していた。
何が起きているのだろうか。
「さあ、七帆。今日から、ここが俺たちの家だよ。」
は?俺たちの?
ついていけない私の前に、両親とおじ様が登場する。
「おめでとう、藤九郎くん。娘の事は、頼んだよ。」
「七帆は、私よりしっかりしているから何も心配してないけれど、面倒を見てあげてね。」
「ありがとうございます。娘さんを大切にします。」
「よくやった。それでこそ、執事の鑑。私も大旦那様の遺言を果たせて、執事としての役目を全うできたというものだ。」
視線を落として床を睨んでから、顔を上げて声を張り上げた。
「絶対に、こんなの認めない!」
騙された。罠にはまった。それ以上に恥ずかしい。
「駄目だよ、そんなの誰も喜ばないから。ね、七帆。俺の願いを叶えてくれるだろ?」
藤九郎は親たちの見ているところで、後ろから私を抱きしめて耳元に囁く。
狡い。この声に弱いのに。
私は籠の中の鳥。だけど甘く囁くのは私じゃない。
あなたは夜な夜な囁く。今までと違う甘い声…………
自分の家なのに、落ち着かないのは何故だろうか。
見慣れた家具が減ったから?それとも新しく増えた家具の匂いのせいかな。
「お嬢様。冷めてしまいますので、お早めに……」
執事プレイだろうか。
心地よい声も遠退くのは、現実逃避かな。
「ふふふ。イタダキマス。」
棒読みで、藤九郎が作った豪華な食事のメインの肉にフォークをブスリ。
「お嬢様。食事の後、少しの運動はいかがですか?」
口に運んだ肉を、噛んでいた歯の動きが止まる。
目を逸らすことが出来ない程の、熱視線。
口内の肉を呑み込み、視線はそのままで答える。
「遠慮いたします。」
何故か丁寧な言葉。
そんな私に、彼は感情の読めない微笑みを返す。
母方の祖父の遺言。法的な事は分からないけれど、別宅で両親は暮らし、おじ様が執事として仕える。
そして私は、この家で藤九郎と……
『ずっと七帆の事が好きだった。どんな方法でもかまわない。お前に近づけるなら』
それが嘘じゃないなら、それが全て。
私には難しい事は分からないから。
「ずっと傍に居てもいいかな?」
いつもと変わらない口調に、私は思わず笑みを返す。
「私は籠の中の鳥。藤九郎、もっと甘く囁いて。優しくしてくれるなら。」
私も、鳴けるかもしれない…………
小夜啼鳥
ナイチンゲール それは鳴き声の美しい鳥
End
【小夜啼鳥】
仲良くなった作者さんが執事物を書いていて、私も書いてみたいなぁと手を出した結果。
何だコレ、思った明るさのない闇色。タイトルが悪かったのだろうか(遠い目)
続くのは【悪狐】
短編……イメージはゴンギツネだった気がする。
お楽しみください。




