表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VS ~ 代償 ~  作者: 邑 紫貴
小夜啼鳥

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/50

西洋ウグイス


お昼休み。お弁当を藤九郎から受け取り、一応のお礼。

「ありがとう。」

ウワサがあるのなら、これぐらいの距離感は伝われば良い方。

「少し、顔色が良くなったか。安心したよ。」

無意識なのか、藤九郎は自然と私の頬に指を滑らせて笑顔を見せた。

息詰まるような感覚。

掠るように触れた部分が熱を発するようで、一気に体温が上昇する。

治まっていた苛立ちが沸騰。

「触らないで!」

教室内の空気が一気に凍りついたのを感じた。

自分も冷静になる。

「ごめんなさい。」

視線を逸らし、お弁当を持って教室から走って逃げた。

お弁当を持って追いかけて来られては、意味がない。

藤九郎には『彼女』がいるのだから。

息を切らし、さ迷う様に歩き出す。

裏庭の木陰を探し、座り込んだ。

「はぁ~~。」

大きなため息。


「馬鹿ね。あんなの、周りに好きだと言っているようなものよ?」

声がして、顔を上げた。

「ふ。びっくりした顔も可愛いわね、あなた。」

菊水さんの笑顔と、優しい声が降り注ぐ。

上手く笑えない。涙が出そうになる。

「あはっ。綺麗な菊水さんに褒められて嬉しいかな。どうしてここに?」

彼女は手に持った包みを見せてから、私の隣に座った。

「一緒に食べましょうよ。恋バナでもしながらね。」

込み上げる感情に、涙が溢れて零れ落ちた。

拭おうとする手を菊水さんは止めて、ハンドタオルを私の顔に当てる。

「ありがとう。」

「高いわよ、それ。」

「おいくらですか?」

「そうね、百万円か……あなたの好きな人について聞かせてくれるくらい、価値はあると思うわね。」

ハンドタオルを受けとり、私は目に当てて笑う。

「案外、安いのね。」

「そうかしら。」

「だって、私はあなたの感情をタダで知ってしまったから。」

次々に繋がっていく言葉に、心は洗われるようだ。

溜まっていた黒い感情が流されていく。

涙も止まり、他愛無い話を続けながらお弁当を食べ終わる。

私は空になったお弁当箱を包みに入れて、息を吐き出した。

「菊水さん、聞いて欲しい。私の醜い感情を。」

藤九郎との噂なんて、自分には入ってこない。

仲良くしていた子たちは、突然現れた藤九郎に驚き、私が何も告げてはくれなかったと去って行った。

私には失った物が多すぎる。

溜まった言葉を吐き出すことも出来ず、不安と迷いも解決できずに一人で悩み……

「私は家を出たい。」

全てを菊水さんに語り終った後に出た結論がそれだった。

「う~ん。解決になるか分からないけれど、お昼休みも終わるし、今日は私の家に泊まりなさいよ。」

菊水さんは立ち上がって、私に手を差し伸べた。

その手を取ると、軽く引き上げられて、私は茫然としてしまう。

「ほらね。誰かに支えられるなら、少しは楽でしょう?私も楽になりたいの。三郷 (みさと)の選んだ子が、どんな人なのか知りたい。」

彼女の声が優しく頭に響く。

「言ったでしょ、私は自分を護る為に誰かを利用するんだと。」

「踏み止まった事も聞いたわ。私はね、あなたが今の状況と距離を置くべきだと思うのよ。さ、授業が始まるわ。放課後までに、私の家に来るか考えておきなさい。」

菊水さんは同い年なのに、お姉ちゃんみたいだな。


教室までの道程、彼女は前を真っ直ぐ見つめて歩く。

『馬鹿ね。あんなの、周りに好きだと言っているようなものよ?』

追いかけてきた菊水さんが私に、最初に言った言葉。

私の気持ちは、そんなに単純だろうか。

『好きな人が居る』

口に出してしまった。私の想いを。

だけど認めるわけにはいかない。

今までの経緯を菊水さんに一通り吐き出し、考えがまとまったと思って出した結論は間違っている。

そう、私自身が知っている。逃げても問題は解決しない。

答えは自分の中にある…………



放課後。私は藤九郎に、菊水さんの家に泊まることを告げた。

真っ直ぐ見上げた私に、藤九郎は視線を逸らさず苦笑。

「七帆、俺に黙っていることが何かあるよね?」

「あり過ぎて、どのことを言っているのか分からないわ。ごめん、菊水さんを待たせているから。」

今日見た藤九郎の笑顔と苦笑。

私の態度が、彼の表情や感情を左右する。

どこか優越感を抱きつつ、嬉しいくせに……冷たく接してしまう。

そうしなければならないと、自分を律するように。

認めたくない。認めてしまうと、私が崩れてしまいそうになる。


「ちょっと、そんな辛気臭い顔で家に来ないでよね。少し寄り道をしましょうか。さ、行くわよ!」

下駄箱で待ち合わせた菊水さんは、到着した私の顔を見て、心配そうな表情で口早に告げた。

私の手を引いて、どんどん歩いて行く。

少し早いけれど、付いて行けないような速度じゃない。

後ろから見える彼女の顔は、やはり真っ直ぐで、進む道に向けられている。

私は誰かの視線ばかりを気にしていた。

目を落とし、目前の道さえ周りも見ずに、狭い範囲だけを見つめて。


彼女の足が止まり、私も立ち止まる。

「見て、今日は良い天気だね!」

彼女の笑顔に誘われて目を上げ、久々に青空を見たような気がした。

顔を上げたまま目を閉じ、自分を通り越していく風を感じる。

自分がここに存在することを意識して、目を開く。

心は一層軽くなり、自分が笑顔になっていることに気付く。

「菊水さん。私、あなたのことを下の名前で呼びたい。私の事も、七帆ななほと呼んでくれるかな?」

目を向けると、彼女は微笑んで答える。

「七帆、私の事は一栄かずえでいいよ。」

藤九郎とは違う優しい声が、私の心に響いた…………




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ