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VS ~ 代償 ~  作者: 邑 紫貴
煽情的ナミダ

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35/50

受諾と思い出


俺の言葉に考えるような仕草をしてから、視線を逸らす。

「痛くしないでね。」

頬が赤く染まっていくのを見て、自分の中の熱が上昇した。堪らない。

「約束は出来ないかな。ただ素直な君を見せて欲しい。」

ベッドに寝ている彼女に、自分の重みを乗せていく。

留惟の柔らかい身体が、俺を受け入れる様に沈む。

歓喜と少しの恐怖。君は、どこまで俺のすることを許してくれる?

温もりと甘い香りに包まれて、幸せに浸り、貪欲に染まる。

「留惟、キスしてもいいかな。」

目を合わせ、俺の問いに彼女は口元だけの笑顔。

「駄目よ、まだ私たちは付き合ってもいないのだから。」

そう言えば保留だったか。

何故か、彼女の余裕が許せなくなる。

「どうすれば泣くの?」

相手に聞くのもおかしな話だけど。

「知らないわ。ただ心音が、ありえない程に早くて息苦しい。」

少し乱れた息遣いと、頬の紅葉が体にも広がったような気がする。

ゾクリとした。風邪をひいた時のような寒気にも似た感覚。

俺は誘われる様に、手を彼女の胸元に置いた。

跳ねるような反応。

驚いた表情と、俺に訴えるような視線。

「今日は泣いても許さないから。」

不意に出た言葉。

それに対して彼女は満足したような笑み。そして、また涙ぐむ。

「確かに、前は私が泣いて謝れば許してくれたよね。」

微かな記憶が……

「汚いぞ、留惟。今、そんな記憶は。ちっ。」

思い出した記憶は、他愛のない日常。

だが今の感情を止めるものは、どんなものでも排除する。

「キスがダメでもいいよ、それ以上のことをして泣かせるから。」

彼女の唇に自分の親指を当て、その上に軽い口づけ。

留惟の目は見開いたまま、俺と目を合わせて放心状態。

そう、こんな表情がもっと見たいんだ。

自分の口元が緩んで、笑顔を向けたつもり。

彼女は頬を染めて、少しの抵抗。

手首を掴んでベッドに押さえ付ける。

力の加減を間違えたのか、留惟の赤くなった顔が青白くなっていく。

違う。見たいものじゃない。

自分の心も痛みが生じるから、これは駄目だ。

「留惟、お願いだから逃げないで。」

俺は彼女の手を離し、様子を見る。

すると視線を合わせ、戸惑う様に口を開いた。

「樋野くん、あなたが理解できない。私の気持ちは変わらないのに。」

心臓が跳ねるように高鳴り、体が熱を発するように感じる。

満足したわけじゃない。これは。

「留惟、君の気持ちが変わらないなら。ねぇ。俺の事、あかつきって呼んでよ。」

見下ろした俺に、留惟は瞬きを何度か繰り返して無言。

「今すぐ呼んで。俺の事が好きなら。君は気持ちが変わらないと、さっき言ったばかりだよ。」

顔を近づけて額を合わせ、両手で頬を包む。

目は逸らすことなく、彼女の呼ぶ声を待った。

口が動くのが分かって、俺は目を閉じる。

「暁……くん。」

とても小さな声。

俺は目を開け、顔を離して彼女の表情を確認した。

真っ赤に染まった表情は今までと異なり、何とも言えない気持ちにさせる。

少しの違いで、俺の心を揺さぶって。

手放したくない。もっと見たい。

彼女の深い部分にまで触れても、俺を許すように受け入れて欲しい。

罪悪感や恐れなどない関係を。それは。

「俺は何度か君が泣いた姿を見ていると言ったよね。それでも自分の心が反応したのは、君が俺に告白した今日だけだ。」

今まで思い出せない程、些細な事だったなら。

特別なのは告白。

やっと思い出した一度の出来事。

雨の日、遠くから俺を見つめる女生徒の姿。

バス停から少し離れた木の下で、傘も差さずに、びしょ濡れで立っていた。

笑顔だったから、顔を流れているのは全て雨だと思っていたけれど。

嬉し涙。それは何故?

「君は誰?」

名前は知っている。

だけど記憶に残っているのは、その一度だけなんだ。

「やっぱり忘れちゃったのね。約束したのに。」

約束?俺が?もっと昔なのか。まさか。

「リュー?」

俺の呼びかけに、懐かしいような涙を浮かべた笑顔を返す。

俺の初恋の女の子。唯一、心許した存在。

「そうだよ、思い出してくれたんだね。」

俺の首に抱き着き、何度も『嬉しい』と呟く。

彼女の表情は見えないまま。

ただ涙は。俺の手に、次々と零れ落ちてくる。

幼い頃、名前を聞いた。

君はルイとはっきり発音できず、リュイと言うのが精いっぱい。

俺はリューと呼んでいたんだ。

引っ越しの、あの日まで。

もう会えることもないと、悲しみを忘れようと記憶から消して。

別れ際、幼い君の告白シーン。それは今と変わらない。

涙を浮かべて想いを告げる…………




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