告白と腹黒
涙目にドS発動。
「好きだよ、その泣き顔が。お前自身をどう思っているか何て分からないけどね。他の誰かに譲るつもりはないくらいには執着している。」
そこに愛情があるのかも分からない束縛で君を翻弄していく……
樋野 暁
遠田 留惟
樋野 暁。
幼い時から、外見に寄ってくる女にはウンザリしていた。
それは高校生になった今でも同じ。
特別な努力なしで成績上位に加え、運動神経も悪くない。それが俺だ。
人当たりよく無難に過ごして来たけれど、誰かに惹かれる事なんてなかった。
一目惚れだったのか何て聞かれても、答えは分からない。
ただ、俺が固執するには十分な心の衝撃。
「好きです。付き合って頂けませんか。」
地味なタイプだけど、顔は普通。
化粧でもすれば、どれだけでも化けるだろうけど。
緊張から震え、か細くて身構えているのか、より小さく見える。
怯えた小動物。俺の無言に、圧力を感じたのか顔が真っ赤に染まっていく。
そして、目には涙が……
激情。怒りにも似た感覚。
初めて味わう想いに、俺は狂ってしまった。
『もっと泣かせたい』
手に入れなければ、泣かせて観賞なんて出来ない。
「良いよ、付き合おう。ところで君は誰?」
俺の返事に、驚いた顔。
そうだろうね、俺自身が最低な事を言った自覚がある。
人当たりよく無難に対応してきた自分が、今までと違うのは。
「……わ……て。」
混乱しているのか言葉が詰まって、声が聞こえない。
彼女の目から涙が溢れ、零れ落ちていく。
普通はそうなるよね。
それが見たいと思うなんて。
「忘れて、告白はなかったことに!」
俺の視線に何を感じたのか、方向転換で言い逃げの体勢。
当然、逃がさないけどね。
手を掴んで引き留め、俺はニッコリ笑顔。
「君の気持ちは受け止めてあげるね。嫌なら名前は告げなくてもいいよ?クラスは、この組章で分かったから。皆の前で公に付き合う事を宣言しよう。」
彼女は俺を見上げ、青ざめていく。
力が抜けたのか、その場に座り込んで涙を地面に落とす。
下を向いた彼女の泣き顔を見逃してしまった。
俺はしゃがんで、彼女の顎を持ち上げる。
「見せて、もっと。どうすれば俺の為に泣いてくれる?教えて。」
彼女は涙目で、俺を睨む。
ゾクゾクとする感覚。癖になりそうな甘い痺れ。
さっきとは違う表情に、満たされるような気持ち。
でも、もっと見られるはずだ。貪欲に望みは増していく。
「ねぇ、俺を好きだと言った気持ちは嘘じゃないよね?本当の俺を受け入れて。」
これが俺の本質。
目覚めさせたのは君だ。逃がさない。
「私は遠田 留惟。樋野くん、告白は保留にするわ。だから誰にも言わないで。」
さっきとは違う、睨む様な真っ直ぐな視線。
「君次第だよ。」
涙を拭う事もしない。
小さな身に潜む強さを見たような気がする。
惹かれた涙が乾きかけているのに、綺麗だと思った。
「留惟。今日は暇かな?俺の家においでよ。ね、仲良くなろう。」
笑顔を向けたつもりだったけれど、悪意が隠せていなかったのか、無自覚で出してしまったのか。
彼女は俺の手を払い、冷めたような視線で言い放つ。
「行かないし、仲良くするつもりはないから。」
俺の理解できない、おかしなことを言うものだ。
「告白は保留だよね?」
彼女は俺の何に呆れたのか、表情が固まり一瞬の間。
そして視線を逸らし、ため息。
何だろう、この新鮮な反応。俺の好奇心を刺激する。
「……あなたが、OKしてくれるなんて思わなかった。告げるだけで、満足したかったのかもしれない。ごめんなさい。」
言い終えると、また俺に視線を真っ直ぐ向ける。
刺さるような胸の痛み。この気持ちは何だろうか。
彼女のセリフに、心が痛むなんて。まるで……
「ふふ。満足しちゃったの?残念だね、俺は足りないんだ。埋まらない。満たされない。もっと頂戴。……絶対に、逃がさないからね。」
留惟の腹部に腕を回し、抱えるようにして立ち上がる。
「え?ちょ、離して!怖い!」
抵抗する姿も見逃したくない。
連れ去りたい衝動と、立ち止まって観察したい欲求で葛藤。
一瞬、頭を過ったのは嫌われるかもしれないという考え。
冷静になる自分がいる。
今までは誰かからの好意が消えても、気にする事さえなかったのに。
俺は留惟を解放した。
「ごめん。」
自分の感情に動揺する。
急に降り懸かった恐怖。
「樋野くん?どうしたの、大丈夫?」
俺に何をされたのか、もう忘れたのかな。
こいつが俺を好きなのは本当なんだ。
告白は保留。
君が悪いんだ、俺に弱点を見せるから。
逃がさない方法を見つけてしまった。
「大丈夫じゃない。少し気分が悪いんだ。」
俺の沈んだ声に、彼女は心配そうな表情を向ける。
優しさが嬉しい。
それを利用したくて心が黒く染まっていく……




