『傷つけるのは俺:side松沢』
『傷つけるのは俺:side松沢』
夜、月のない星の瞬く空は物足りない。
自分の感情も欠けているようで、埋まらない心は痛む。
そんな日々を繰り返し、心が壊れたような無感覚で口は滑った。
「ごめんね、君の想いには応えられない。俺が好きなのは、伊東 暁乃だけだから。」
告白を受け、自分が振る女の子が味わう心の痛みを目の当たりに。
俺は自分の気持ちから逃げたんだ。
噂は広まり、君が避けたかった事も降り懸かるだろう。
護れないのに。安易に、自分の気持ちを公にした。
「松沢くん、少し時間を下さい。良いですよね?」
眼は真剣で、俺を責めるように真っ直ぐ向けられている。
視線を合わせるのを躊躇した。
「ごめん、迷惑を掛けた。皆の前で振ってよ。」
足を一歩、後退して方向を変える。
自分に対する苛立ちを、誰かに知って欲しくて清水に電話した。
いつもなら2コールで出て罵倒するか、着信拒否をするのに。
出ない。多分、篠崎と仲良くしているんだ。親が居ないと言っていたけど。
清水だけが幸せなんて。篠崎の気持ちも分からないくせに。優柔不断な自分だけが惨め。
二人の間に乱入し、正論を述べて邪魔して、かき回した。
醜い八つ当たりだ。
そんな俺に、理解を示す清水と篠崎。
自分が情けなくて、このまま消えてしまいたい。
「……ごめん、八つ当たりした。」
謝る俺に対して、清水の雰囲気が和らぐ。
「ふ。ドロ沼。」
いつもより遠慮気味な追い打ち。
許されたようで、心が少し軽くなった。
「好きなのにな。彼女を周りから守るつもりだった。護っているんだと自己満足して、結局は追い詰めたのが俺だよ。」
今の気持ちを吐露して、頭の整理が出来たように思える。
そんな俺に、ため息まじりで清水は呟く。
「仲直りだな。」
照れのような気恥ずかしさで、誤魔化すように答える。
「それは、俺と?それとも篠崎と?」
視線を合わせ、清水は真剣な眼を向ける。
「お前は、誰に許してもらいたいの?」
核心を突かれたようで、苦笑を返す。
許してもらう相手が違う。
「俺、帰るな。清水は、まだ知らないだろ。俺が好きなのは伊東 暁乃だ。まぁ、明日には振られるし……忘れてくれ。」
言葉を探しても見つからなかったのか、清水は沈黙で見送る。
自宅までの道程、歩きながら心は晴れていた。
家の前に、彼女を見つけるまでは。
足は止まり、心は凍りつくような寒さ。
それでも、巻き込んでしまった罪悪感に促される様に、足は歩を進める。
重たい。心音が響くのを感じ、同じ場所が痛みを伴って息苦しい。
覚悟は出来たと思ったけれど、未練。
想いは、すぐには消えない。
俺の姿を見つけ、彼女は走り寄って来た。
そんなに急いで来るなんて、余程の事があったのだろうか。
「逃げるなんて許しませんよ、松沢くん。あなたは、何か勘違いをしていますよね。……他の人に、私を好きだと言ってくれたのが嬉しいです。」
え?だって、遊んできた俺の周りの子たちが許すわけがないと思っていたから。
状況が呑み込めず、黙り込んだ俺に最高の笑顔を見せる。
「馬鹿ですね。女の子は、好きな人が何を考えているのか敏感ですよ。……あなたに本命がいると、周りの子たちは知っていたんです。」
嘘だ。そんな。上手く騙せていると思って、用心深いつもりだったのに。
それに俺の気持ちを、君が周りに知らせたかったなんて。
「マジか。」
顔に両手を当て、自分の恥辱に耐えられず座り込む。
俺の頭に手を置いて撫でながら。
「マジです。ね、松沢くん。私と付き合って頂けますか?」
単純に、真っ直ぐ進めば良かっただけが、何て遠回りをしたんだろうか。
悔しさに、負けてはいられないと顔を上げる。
「付き合ってあげる!俺は容赦しないからね。」
俺は清水とは違う。
だけど、誰だって相手の気持ちなんか全て理解できないのだから。
「ふふ、図書委員の彼に感謝してくださいね。」
君への想いを邪魔した俺に、あいつが動いてくれたのかな。
「嫉妬しかないよ、今は。」
大事にするね。周りにバレバレなら、尚の事。
「君を傷つけるのは、俺だけだ。」
立ち上がって抱き寄せる。
共有する温もり。気持ちが通じ、幸せに浸りながら、甘い一時。
「……ねぇ。上がって行かない?」
「ふふ、嫌です。」
親が居ないから、どうしてもチャンスを逃したくない。
「少しだけの時間だから。」
「さっき、チャイムを押したのですが不在ですよね?」
俺の考えを見通して、意地悪な微笑み。
余裕に苛立ち、俺は君の唇を奪う……




