2025バレンタイン短編:side和叶
2025バレンタイン短編:side和叶
今日はバレンタインだから、一緒に帰る約束をしていたのだけど。
待ち合わせの時間になっても来ないから、生徒会室に足を運ぶ。
しかし鍵がかかり、呼びかけに反応もなく人の気配すらなかった。
黙って帰ることはしないと思い、探しに向かう。
校舎の裏口、鍵が開いている。
ここは一颯が、何か失敗したり落ち込んだ時に来る場所。
夕暮れ。冷え込み、風邪をひかないか心配してしまう。
小さく丸まった背中。普段、誰にも見せない弱さ。
そっと近づいて横に座り、寄りかかる。
一颯は私に視線を向け、口元だけの笑み。
「ふっ……温かくて、和叶のいい匂いがする。」
触れても、拒否されないのはわかっていたけれど。
どれだけの時間、ここに居たのか。
一颯の服は冷えて、触れた部分が私の体温を奪っていく。
「そ?少しは癒されるかな。」
一颯も私に寄りかかり、腕を回して肩を抱き寄せた。
徐々に抱きしめる力が強くなっていく。
私から視線を逸らして、明らかに落ち込んだ姿。
「何があったの?」
顔を覗き込んで尋ねると、一颯は顔を上げて。視線を合わせ。
「好きだ。」
見つめたまま、私は戸惑ってしまう。
何があったのかを尋ねたはずなのに、返って来たのは思ってもいない言葉。
聞いては駄目なのかと言葉に詰まってしまう。
すると一颯から、ため息が漏れた。
頑なに何があったのか告げようとしない。
ただ私に甘えるように、重みをかけてくる。
「……このままでいて。」
弱々しい声に、胸が苦しくなって、自分に何ができるのだろうかと。
彼の頭を撫でようと手を伸ばす。
そんな油断した自分の背中に、触れる冷たい手。
体が跳ねた。
「あっ。あの、これ以上は……その。」
あまり強くは拒絶できないけれど、少しの抵抗。
それに対し、彼は抱きしめる力を少し加え、顔を私の胸元にうずめて呟く。
「嫌だ。逃げないで。」
片手で倒れないように自分を支え。
前に流された時の記憶が、今の現状に警鐘を鳴らす。
「そう思うなら、逃げたくなることをしないで。」
気づけば、一颯は私を覆うように上から体重をのせる。
「もう俺は、君のすべてを知っているんだよ?」
私を優しく見つめて、口もとを緩ませて笑う彼。
あぁ、流されてしまう。
「ふっ……ねぇ。キス、しようか?」
そう言いながら顔を近づけ、目を細めていく。
ずるい。彼は軽く唇を重ねるというより、かする様な曖昧なキスをした。
もどかしさに、自分からお願いするようなことも出来ず。素直になれない。
「……キス、していいなんて言っていないわ。」
無愛想に呟いて視線を逸らす私を、彼はどんな視線で見つめていたのか。
「和叶……もう一回、いいかな?」
甘えるような声。
落ち込んでいた彼が、機嫌の変化を見せているようで胸は高鳴る。
視線を戻し、目が合った彼は満足そうに微笑む。
罠にかかってしまったようだ。
ため息が出てしまう。
「……好きにして。」
一颯は顔を近づけて目を閉じていく。
キスは深くて優しく……
私が彼を癒しているのか、私が癒されているのか……わからなくなってしまう。
体温が上昇したのか、顔が熱い。
一颯は私の頬に手を当て、真っすぐ見つめ。
「家においでよ、何もしないから。」
嘘つきね。あなたの弱った姿さえ、私の誤解だったのかと思えてくる。
「してくれないなら、行かない。」
これぐらいの意地悪は許して欲しいものね。
流されてあげるから。
「ふふ…甘いチョコ、くれるんだよね?味わうよ、甘さを頂戴……」
結局、何があったのかはわからない。
本当は、私に落ち込んだ姿を見せたくなかったのかもしれない。
あなたが求めるのが甘さなら。
「あげるわ……あなたは私のすべてを知っているのよね?」
「ふふ……見せて、もっと……」
私からの甘さを受け取って……
end




