男のマナー:side清水
部屋に戻ると、和叶は服を整えて絨毯の上に正座していた。
視線は漂う様で、定まらない。
気恥ずかしい所に、松沢なんて入れるんじゃなかったかな。
「ごめんね、コイツも正座させるから。」
何故か松沢は俺の肩を力ずくで抑え込み、和叶の横に正座させる。
何の罰なんだ。
「和叶、君は足を崩していい。悪いのは全部、俺だから。」
視線を落とした和叶。
心配して覗き込むと、涙が滝のように流れ落ちてくる。
「松沢。お前も謝れ!」
腕で顔を隠し、手の甲や手首で涙を必死に拭う和叶。
どうしていいのか戸惑う。
「ごめん、和叶。」
そっと後頭部に手を回して抱き寄せた。
表情を見たくて、彼女の前髪をかき上げるように撫でる。
涙ぐんだ表情に同調しそうだ。
涙を堪えて、首を振り続ける和叶。唇を噛み締め、泣きそうなのを我慢する姿。
泣かないで欲しい。
額に口づけ、頬に流れた涙を指で優しく拭った。
「ごめんなさい、一颯くん。松沢くんも。私、帰るね。」
俺を弱い力で押し退け、和叶は視線を合わせずに立ち上がる。
「篠崎、ごめんな。だけど。」
「うぅん、私の覚悟もなかったの。」
覚悟も無い彼女に、俺は自分の欲求を押し付けたのだろうか。
和叶が荷物を持って、部屋から出て行くのに見送りもせず、その場から動けなかった。
「松沢、俺は……お前に感謝すべきなのかもしれない。」
やっと出た言葉。
「清水さぁ、コレって持ってる?」
落ち込んだ俺には目に入らない。
動きの鈍い俺の前に、小袋が転がる。
コレって保健体育で見た。
機敏に顔を上げ、松沢の方に視線を向ける。
「ちなみに、使い方とか分かる?タイミングとか。」
つまり、自分が和叶としようとした行為は。
「いや、違う。そこまで……」
本当に?和叶の香りや温もり、柔らかさに酔いしれるように流されていた。
どこか意識はさ迷う様で、欲求を満たすような本能。触れたい。もっと。
彼女も触れて欲しいと言ったけれど。俺と感情は同じだっただろうか。
「彼女は、そんな覚悟をしてない。俺は自重すべきだろ。必要ない。」
「馬鹿か!好き合った二人が、イチャイチャして当然だろ。邪魔した俺が言うのも、おかしいけどな。1箱置いて行くから、自分で勉強しろ。……ごめん、八つ当たりした。」
心配してくれたのは本当なんだろうな。
松沢は相手と上手くいくより、関係が悪化しているんだろう。
「ふ。ドロ沼。」
これぐらいは許してもらおうか。
「好きなのにな。彼女を周りから守るつもりだった。護っているんだと自己満足して、結局は追い詰めたのが俺だよ。」
ヤサグレて落ち込んだ松沢に、これ以上は酷か。
「仲直りだな。」
「それは、俺と?それとも篠崎と?」
和叶とは、喧嘩した覚えがないんだけど。謝ったし。
「お前は、誰に許してもらいたいの?」
質問で返した俺に、松沢は苦笑を見せた。
「くく。コレ、実践で見せてやろうか?」
「断る。」
機嫌が直ったのか少しの余裕なのか、いつもの松沢に戻った気がする。
「コレは保留かな。」
まずは勉強だ。




