『触れて:side和叶』
頭痛が酷くて休んだ次の日。
家まで一颯くんが迎えに来た。
「おはよう。体調は、どう?」
「おはよう。なんとか頭痛は治まったかな。熱も出たのか、少し怠いのが残っているかも。」
彼の心配そうな表情に、嬉しくなってしまう。
「あまり無理しないようにね。」
「ありがとう。」
隣を歩きながら、いつもと違う空気を感じ取る。
気遣っているのかな。
付き合い始めて、距離が近づいたはずなのに。
心は寂しくなるなんて、私は何かおかしいのかな。
一颯くんは私が休んだ昨日の事を話しているけれど、いつもの松沢くんへの不満は含まれていない。
奇妙な不安。いつもと違う何かに、心がざわつく。
視線は下がり、目に入ったのは揺れている彼の手。つないだら駄目かな。
「ね、やっぱり体調が悪いの?」
私の前に来て覗き込むように少し屈んで、見上げる眼が幼く見える。
自分を心配してくれているのに。胸が苦しい。
愛しさが増していく。息苦しいようなもどかしさ。
「大丈夫。あの、一颯くん。手をつないでも良いかな?」
手を差し伸べ、ぎゅっと目を閉じた。
私の手に触れる温もり。手は優しく握られて。
目を開けると、頬を染めた幸せそうな笑顔が目に入る。
足りない。もっと触れたい。触れて欲しい。
こんな通学路で何を求める気なんだろうか、私は。
「ふふ。嬉しいな。」
満足しよう。私の我儘に付き合ってくれるのだから。
また隣を歩きながら、会話を始めた一颯くんは度々、私の視線を確認して微笑む。
贅沢だ。彼の好意を何度も断り続け、周りを気にする自分勝手に嫌気がしていたのに。
握る手は、少し汗ばんでいるような。
「あ、そろそろ学校が近いし。離した方が。」
私は焦って、手を離そうと引いた。
それを止めるような力で、彼は引き戻す。
「いや、このまま。俺は。」
眼は私の心を突き通すように真っ直ぐ。
「お・は・よ・おぉ~!」
大きな声と同時の衝撃。
正確には、一颯くんに圧し掛かった力が手を伝わって来ただけ。
「松沢、重い。」
「松沢くん、おはよう。」
私たちの反応に、彼は口もとだけの笑み。
「あはは。イチャついてんじゃねぇ。」
あれ、ご機嫌斜めですか?
負のオーラが明らかににじみ出ている。
圧し掛かる松沢くんを押し退けながら、一颯くんは不機嫌を返した。
「松沢、それをお前が言うのかよ。」
本命の、あの子と何かあったのかな。
あれ?一颯くんも知っているみたい?友達だから知っていて当然なのかな。
何というか。一颯くんは知らないのかと思っていた。
『不誠実』だと言っていたから。
「くくっ。篠崎さぁ、俺がいらないことを清水に吹き込んだから。覚悟しておけよ。」
「あ、それを言うなよ。」
二人の様子はいつも通り。
何だか話している内容など気にもならなくて、ただ安心した。
今思えば、そこが重要だったのに。




