『まだ』
『まだ、そんな関係じゃない』
周りに言ったのは、本当の事。
学校からの帰り道、ゆっくり歩きながら今日の出来事を話している一颯くん。
主に松沢くんの不満だろうか。結局、仲が良いんだね。
「俺は怒っているのに。和叶は何で、笑っているの?」
しまった。機嫌を損ねてしまったかな。
「あ、家に着いた。ありがとう。」
癖になったのか、つい逃げ腰。
そんな私に彼は無言で圧力をかける。
「あの、寄って行く?」
彼は意外だったのか、表情が固まり一瞬の間。
少し視線を逸らして答える。
「うん。」
平静を装っているけど、口もとが少し緩んでいるような気がする。
可愛いな。笑みがもれてしまう。
「上がって。両親はいないから、気兼ねしないで大丈夫だよ。」
自分の部屋に案内して入るように促したけれど、入り口に立ち尽くす一颯くん。
表情が読めない。
「入って。私、飲み物取って来るから。」
半ば強引に押し込め、台所へと向かった。
どうしたのだろうか。嬉しそうに見えたのは気のせいで、迷惑だったのかな。
少し話をすれば、松沢くんの件も誤解は解けるだろうし。
まさか緊張しているのかな。
あれ?自分の部屋、綺麗にはしてあるけど。
彼に見られているのだと思うと段々、恥ずかしくなってきた。
部屋に戻ると、小さな机の前での正座姿。
少し顔が赤いような気がするけど、暑くはないよね。
彼の前に座って、飲み物を並べる。
何か、会話しないと。
「あの、さっきの事なんだけど。」
「え、何?」
お互いに見つめて、沈黙。気まずい雰囲気。
「あの、松沢くんに対して一颯くんが怒っていたのに、私が。」
笑っていたのは何故かと、不機嫌になったよね?
首を傾げ、反応を見ていると。
彼は口元だけの笑みを返す。
「キス、してくれたら許すけど?」
そんなに怒るような事じゃないと思うけど。
どこか拗ねている様に見えるのが愛しくて。
「わかった。」
私は彼に近づき、顔を近づける。
すると、機嫌は良くなるどころか悪化。鋭い眼。
どう対処していいのか不安なドキドキ。
「目、閉じてくれない?」
「嫌だ。見てみたいな、キスする表情。」
ムカつく!
彼の余裕な態度に、自分は未熟で稚拙なのだと痛感するようで悔しい。
「見せるわけないでしょ!」
一颯くんの目を手のひらで塞いで、軽く唇を重ねた。
「ふふ。可愛いね。」
「知らない。」




