『鬼畜?』
『鬼畜?』
視点:清水 一颯
登場人物:松沢 燎
「お前ら、恋に溺れて周りが見えなくなってんぞ。」
偉そうに俺の前に立ちふさがり、幸せを邪魔するかのような言葉を吐き捨てるのは、最近調子に乗っている松沢だ。
「ふん。お前こそ、どこで何をしているんだ?」
「な、んでっ……」
松沢は思い当たることがあるのか言葉を留め、視線を逸らした。
図星の様だ。
「学校の風紀を乱されるのは、生徒会長として困るんだけどな。」
全く、放課後にフラフラしていたのは知っていたけど。
いや。例の好きな子と上手くいっているんだな。少し安心したか。
「公で風紀を乱してんのは、お前の方だぞ!俺たちは目立たない室内だし……って、俺の事は良いんだよ。」
惚気たいのだろうか。少しイラついてきたかな。
しかし、俺と和叶が公に風紀を乱した覚えなど……
記憶を遡るけれど、思い当たることが無い。
「自覚がないのは、さすがに俺もビックリだけど。生徒会室の私用に留まらず、教室でのキスは控えた方が良いぞ。篠崎が後々、困ることになるんだからな。」
松沢は呆れたようなため息を吐き、バカにしたような笑いを浮かべる。
教室でのキス。どれの事だろうか。
「まさか常習なのか?そんなに篠崎の優しさに付け込んで、お前、どんだけ鬼畜なの?」
鬼畜?失礼な。それを言うなら、キスどころじゃないぞ……あんな事まで……
さすがに、あれは教室では不味いか。
見られたのがキスで良かったのか?
松沢に対する怒りが一瞬で通り過ぎ、自分のやらかした不埒な行為に動揺が生じる。
「……で、どんな噂が流れているんだ。教師からの呼び出しとか、あるだろうか。」
俺は生徒の代表でありながら。
同じ事をしているとはいえ、今回は松沢の言う通りだ。
「今は数人の間での噂も、一気に広がるだろうな。だけど内容は可愛いもんだ。教師の呼び出しとまではいかにしても、注意位はあるかもね。」
注意か。噂に和叶が戸惑うかもしれない。
学校では控えないといけないな。
「はぁ、生徒会長になるんじゃなかった。」
思わず弱音を吐いてしまう。
「それ、先生に言うなよ。今以上の大騒ぎになるからな。」
分かっていることを次々と。
「松沢。お前の彼女は、どこまで許してくれるの?」
黙らせてやろうと、意地悪な質問をしてみる。
「ホント、清水は鬼畜だね。……どこまでって、柔らかい肌に触れた程度だよ。」
余裕なのか、俺に自慢するつもりだったかな。
嬉しさ全開の笑顔で、手が卑猥な動きを見せる。
「相手の承諾はあるんだろうな、それ。犯罪とか、俺は関知しないぞ。」
俺の冷たい視線に、口を尖らせて怒りを露わにする。
「あるに決まってんだろ、誘ったのは向こう……っ。」
慌てて口を塞いだけれど、怒りに我を忘れて、言ってはいけない言葉が滑って出てしまったんだな。
「ばぁ~か。」
そう言いつつ思わず笑ってしまう。
「はは。本当に恋って、人を馬鹿にしてしまうね。くくっ……以後、気を付けるよ。ありがとうな、松沢。」
納得いかないような拗ねた表情で、松沢は俺を睨んで無言。
「ふ。珍しく俺が感謝してるんだから、素直に受け取ってくれよ。」
「ふん。恋愛音痴のくせに。……はぁ~、俺の親切心をいつも無下にするんだからな。」
少し機嫌が直ったのか、苦笑を見せた。
「篠崎の愛情につけこんで、せいぜい嫌われないようにな。」
あ、思い出した。
「甘いキスに溺れたのは、俺だけじゃないと言ったのはお前だろ?」
そう、和叶も望んだんだ。
kiss…………
タイトル『Kiss*kiss』
視点:篠崎 和叶
登場人物:清水 一颯
最近、一颯くんは生徒会が忙しくて、なかなか一緒に居られない。
そんな日々を繰り返し、物足りなさを感じる自分の我儘に自己嫌悪。
今日は他の生徒会メンバーが帰ったから、少しだけ教室で待っていて欲しいと言われて待機。
待ち時間20分を過ぎたけれど戻ってこない。片付けが長引いているなら、手伝おうかな。
彼の荷物も持って生徒会室に向かおうとした。
「和叶、ごめん。遅くなった!」
走って来てくれたのかな。
息を切らして、額から汗がにじんでいる。
「私は急いでないから、とにかく座って。」
すすめたイスに座って、息を整えようと目を閉じている一颯くん。
男の子に色気があるなんて言っていいのか分からないけれど、ドキドキしてしまう。
ポケットからハンドタオルを取り出し、彼の額を拭う。
「ごめん、汚れるから。」
彼が私の行動を制するために掴んだ手首に、熱が伝わる。
それが体を、思いもよらない行動へと誘う。
私はそっと顔を近づけ、彼の目元に軽いキスを落とした。
私に視線を向けたままで一時、見開いた目。
何が起こったのか理解できていないようだ。
手首に加わる力が強くなる。一瞬で焦りが生じた。
自分が何をしたのか私自身が理解して、彼も理解したんだろう。
「和叶。」
彼に名前を呼ばれ、私は気恥ずかしさで視線を逸らす。
手首を掴んだまま、彼は身を寄せるようにして立ち上がった。
近い距離。視線を逸らした私には、彼の表情や感情は読み取れない。
目をぎゅっと閉じ、体を逸らして身構える。
「和叶、こっちを見て。俺の方に向いて。」
優しい声に安堵して、体の緊張が緩む。
ゆっくり視線を向けると、彼は真剣な眼差しで私を見ていた。
心臓が跳ねるように、速さを増していく音。
息苦しい。どんな表情をしていいのか分からない。
視線がさ迷う私の戸惑いを知ってか知らずか。彼は私の額に口づける。
そして目元や頬をなぞるように、微かに触れる愛撫。
息遣いが伝わる。もう時間が経って、落ち着いた後だから走ったからではない。
少し乱れた吐息。私への欲情。
煽ったつもりなんかない。だけど。望んでしまう。
目を真っ直ぐ向けて、そっと閉じていく。
顔を上げて彼の唇を誘った。
優しく重なるキス。
目を開けると、切れ長の目が私を捕らえ、深く沈むような強い口づけ。
息苦しさに甘さが入り交じり、熱と言い表せない感覚が思考を乱す。
恋い焦がれて、彼の愛情が足りない。
私の身を滅ぼすような想いは貪欲に染まる……
kiss*kiss




