可愛い?
石代 真歩。
朝は早く起きて、予習を行う日課。
時間が来れば、着替えて台所に立つ。朝食の支度と、お弁当の準備。
それが終わると、両親を起こす。
朝食を家族で食べ、片付けを済ませて身支度。
「行ってきます!」
申し分のない子供。それを演じ続けた人生。
幼き日に現れた彼の存在が、私を変えたの――
「まぁ、可愛い!息子さん?こんな可愛い子は、見たことがないわ!」
ずっと、私を見つめ続けてきた母の表情とは違う。目の輝きと歓喜。
それでも、現れた彼と友達になった。
一緒に遊んで楽しかったから。
その夜トイレに起きた私は、リビングの明かりに近づいた。
母が嬉しそうに、仕事から帰った父に語る。
「本当に、可愛いわぁ~~。まだ、小学生にもなっていないのに、勉強も出来るって♪将来……」
ウソツキ。お母さんが私に言った言葉は、ウソだった。
「可愛い。世界で一番、可愛い私たちの娘。勉強なんか出来なくていい。優しい子になって。」
そうね。優しい子になるわ。嫌いな彼と、仲良く出来るぐらいに。
外国人の血が入った彼の肌は、白い。まつ毛も長く、切れ長の目。
瞳の色は薄く。髪は、ふわふわの茶色。私が成れないモノ。
せめて自分を磨こう。彼に一歩でも近く、すべての事を。
心に巣食った感情は、消えずに何をエサにしたのかヒッソリと成長を続けていた。
在原 涼への敵対心。
中学になり、周りが色めきだす。
小学生の時の色めきに、無関心だった私。
それは被害が少なかったからだと知る。
「石代さん。在原くんと、付き合っているの?」
この質問に、うんざりしつつ。笑顔で答える。
「幼馴染だと言って、特別な感情を持たない。私が、彼を特別視していると?」
「うっ。違うなら良いの!」
言葉に詰まり、走り去る女の子の背中を見つめる。
「ふふ。敵対心は、十分特別視だと思うけど?」
くすくすと、意地悪な笑いで近づいてくる友達。
更月 サユ(さらつき さゆ)。
「サユ、何の事?さ、授業に遅れちゃう。戻りましょうね♪」
「くくっ。類友って知ってる?真歩は、私と同じ匂いがする。崩れるのが楽しみだな。」
知ってる。きっと、彼が現れなければサユのように成長していただろう。
心地よい。本当の自分を見ている気がするから。
だから彼が嫌いなの。
「真歩、帰りに図書館へ寄らないか?」
涼の爽やかな笑顔に憎しみしか感じない。
それでも私は笑顔で答える。
「いいわよ。テストも近いし。」
敵情視察のための時間。
図書館は静か。
チラリと、彼の教科書を見る。教科は、現国。
それは私が唯一、彼に勝てる教科。
「ね、真歩。告白されたって?」
【ドキッ】会話の内容じゃなく、視察を勘ぐられたのかと焦った。
「勉強に関係ないでしょう?」
内心の焦りを誤魔化すように、ノートを閉じる。
「俺には、関係あるよ。」
何、言ってんの?
思わず、眉間にシワ。それを指で押さえて直す。
私の言葉は、どれが正解なのか考える。
答えが見つからない。涼が何を考えているのか分からずに、悔しい気持ちになる。
「真歩、俺たち付き合ってないの?」
ないでしょう?
今日の涼は、オカシイ。このまま続けばテストで勝てる?
頭の中は、それだけだ。
「付き合いって言うのは、『好きだ』と告白されて『私も』ってなれば成立するものでしょう?私たちにあるのは、幼いころからの友人関係。種類が違うのよ。」
これだから、外国育ちは感覚が違うのよねって。
優しい子は、そんな事を思わないわ。きっと。反省!
「じゃあ、その改めて。」
何を改めるのかな?
「俺、真歩が好きだ。ずっと好きだった。小さい頃、俺が好きだと言ったら、好きだと答えてくれたよね?」
それと、これは話が違いますよ?
友達!幼馴染!お母さんの印象のため!それ以上の感覚なんて、ない。
「私に、涼への恋愛感情はないわ。幼馴染だから、一緒にいたの。どうする?」
彼の悲しそうな表情。
【チクリ】小さな胸の痛み。
あぁ、優しい子に育ったんだ。
敵の彼を傷つけた事に、良心が痛むなんて。成長したんだ。
「友達のままでいい。一緒にいられるなら。」
胸に感じた重みを、一瞬の内に。
心に巣食った何かが喰い尽くした。
「うわぁ~可愛い――」
遠くで聞こえた、彼への言葉。




