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不本意なる両親との別れ

「わたしたちが不甲斐ないばかりに……君を守ってあげられない。あああ……許しておくれ、マリア……」


 養父が泣き出し、後ろで彼に寄りかかっていた養母までこれでもかというほど大声を上げて泣き出した。


 彼らが、握りしめる大きなタオルケットは今やびしょ濡れである。


 彼らにはあらかじめ、ここを去る本当の理由を告げてあったため、あたしの今後の処遇に対してひどく落胆してしまったのだった。


「ああ、父様、母様……泣かないでください」


 あちらでもこちらでも涙の嵐である。


 どうしても見送りたいのだと会いに来てくれた彼らは、どうしようもなく取り乱していた。……本当に、有り難い限りである。


「あたしなら大丈夫です。ごく普通の生活は約束されております」


 この国の王族にとっての普通というのは、ちょっとよくわからないのは正直なところではあるが。


「それに、たまにはこの地に戻ってきてもいいとも伺っております。その際はおふたりに変わらず元気な姿をお見せしますから」


「あなたに想いを寄せる相手と結ばれない未来を選ばせてしまったこと……本当に本当に……なんと言っていいやら……」


「あいにく想いを寄せる相手などおりませんから、気に病むことはありませんよ」


 何度も何度もそう説明しているのだけど、なかなか理解してもらえないため、根気強く説得を繰り返す。


「アンネのために……ごめんなさい……」


「父様、母様……」


 なおも声を上げて泣く夫妻に、ゆっくりと首を振る。


「あなたがたには感謝をしてもしきれません。行き倒れていた見ず知らずの人間を、ここまで大切に育ててくれました。言葉には表せないほど、感謝をしていることを忘れないでくださいませ」


 十四のときから四年と少し。


 彼らは本当の娘のように大切に大切に接してくれた。


「それに、あんなクソ野郎……いえ、慣れない人間のもとへ可愛い可愛いアンネを差し出すだなんて、考えただけでもぞっとしますもの」


 不気味なほど暗い夜のこと、夜道で妹のアンネが何者かに襲われかけた。


 アンネの話では、影が異様に長く大きく、人間のものに感じられなかったのだとか。


 近くまで迎えに向かっていたあたしは、アンネの悲鳴に急いでそこに足を進めたが、間に合わず、ひとりの男が肩から血を流してアンネを庇っている姿が見えた。


 それが、いついかなるときも共に戦った相手、ルイの姿であった。


 ルイが怪我を負うなんて……と驚きつつも共闘することを選び、彼らのもとへ急いだ。


 あたしの到着と同時に怪しい影は姿を消したため、違和感はあったもののすぐにルイのもとへ駆け寄り、止血を行おうとした際、一国の王子に傷を負わせたという理由でルイ……いや、ルイス・ネイデルマーク殿下の護衛たちに捕らえられ、そのまま見たこともない地下道に引きずり込まれ、いつの間にか全開に回復した第二王子と対面させられたのだった。


 大人しく捕まってやったのは、育ててくれた義理の家族に迷惑がかかることを恐れたからだ。


 でなかったらあんなむさ苦しくて汚らわしいやつらにやすやすと触れさせる気なんてなかった。


「マリアの美貌にとらわれてしまったとは言え、一国の王子が何も持たない我々を脅すだなんて、ひどすぎる……」


「と、父様……だから……」


 なんてひどい時代なのだ、とますます大袈裟に養父は声を上げる。


「君が夜な夜な好いた男と逢引をしていたのを知っていたよ」


「えっ、そうなのですか?」


 別に好きな相手というわけではなかったのだけど。


 街の治安を守るため、夜な夜な抜け出していた事を彼に知られていたなんて。


 ぼんやりしていてちょっと……いや、結構抜けていると思っていたこの養父の言葉に驚かされる。


「好いた相手などではございません。気にしないでくださいませ」


 だけど、野盗相手に大暴れしていたなんてことは口が裂けても言えそうになかったため、不本意ではあるが濁すしかない。


「あたしの幸せは、自分で掴み取ります」


 安心してくださいと付け加えると、彼らはがっくり肩を落とした。


「お話し中、失礼します」


「えっ……」


 後ろの方で声がして、振り返るとルイとその護衛たちが並んで立っていた。


 その衣装のまばゆいことまばゆいこと。


 いや、ルイ自体が光を放っているのかもしれないけど、似合っていなかったとはいえ、先程までの街の装いが嘘のようだ。


 圧倒的な存在感でその場に立った男が一歩前に出て、それはそれは優雅な素振りで一礼した。


「ネイデルマーク国第二王子、ルイスと申します。この度は理不尽な行いを大変申し訳なく思っています。マリアにとって、苦労のない生活を約束します」


「あっ……あああ……」


 娘を奪おうとしている人間とは言え、なんと言おうと彼らは王族。


 両親たちは跪き、頭を下げるしかない。


 そもそもこんな小さな街に一国の王子様が現れること自体おかしいのだけど。


「なにがあっても、わたしがマリアを守りますから」


 守ってもらわなくて結構!と言ってやりたかったが、両親の手前、同じく頭を下げる。


「お願いします……どうか、どうか娘を……娘を悪いようには……大切な娘なんです……」


「お借りするだけです。必ず、貴方がたのもとへお返ししますから」


 ペテン師ならぬ第二王子は彼らの前で跪き、優しい声をかける。


 もちろん、お返しをされるのは魔王討伐に参戦したあとである。


 無事に帰れるかどうかはわからなかったが、彼の言葉にまた泣き出す両親に最後まで大丈夫だと繰り返すこととなった。

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