真紅の歌姫の特技
「やぁ、むさ苦しい近衛団の諸君! 遠慮せずに食べてくれ!」
「う、うわっ! な、何なんだこれは!」
「……て、てめぇ、俺たちを殺す気か……」
朝いちでむさ苦しい男たちに差し入れを準備したあたしは、褒められるどころかいっせいに非難を浴びることになる。
「なぜそう悪意でしか捉えられないのだろうか」
たしかに、昨日はルイからもお叱りがあった通り、あたしに非があったことも認めよう。それでもせっかく差し入れを準備してきた者に対して、あんまりな態度ではないか。
「君たちはお礼すらも言えないのか」
「こ、こんな悪臭と危険な色をしたものを持ってこられて、だ、黙っていられるか!」
「そうだそうだ! 誰か、換気をしろ!」
「栄養素の高いものをすべて詰め込んだクッキーだ。君たちの思うほど変なものではない」
「一年以上放置していたような匂いとこのカビ臭い色を見て、変なものではないと言えるおまえが逆にすごい!」
「……失礼極まりないね」
さすがのあたしも絶句する。
昨晩、どう頑張っても脳内がぐるぐる回って寝付くことができず、明け方諦めて厨房をお借りしたのだった。
「ま、まさかおまえ、そ、そんなものをルイス殿下にも……」
「安心してくれ。彼の分は別でとっておいてあるから」
「あ、安心できるはずがねぇ! お、おい誰か、怪しい物体はすべて排除させろと城内に伝えろ」
「怪しい物体ではなく、それはクッ……」
「おまえ、殿下を殺す気か!」
「殺すだなんて穏やかじゃないね。そんなことするわけないじゃないか」
まだ、ね……などと言えるはずもなく。
昨晩のルイとの会話を思い出し、再び頭を抱えたくなった。
(ダ、ダメだダメだ……)
思いだすたびに思考回路が停止する。
自身がここまで繊細だったとは初めて知ったが、なかなかの衝撃を受けているのは確かだった。
「……ああ、どれだけむさ苦しくても美しさの欠片もなくても、ここでは君たちといるのが一番落ち着くよ!」
「はぁ? バカにしてんのか!」
わけのわからない曰くしかない王子たちとこの違和感だらけ城内での生活に早くも疲弊し始めていた。
「騒ぐな、大丈夫だ」
後ろから落ち着いた声で現れたのは……たしか、そう!
「ゾイル!」
「ゲイルだ」
「……ああ、そうか。悪い」
ここへきて初めて、むさ苦しい近衛団の中で唯一手を差し伸べてきた男だ。
「エクテスといったな。有り難くこれはいただいておく」
「……ああ」
まわりから、正気ですか、団長、などという声が聞こえるが、あたしの手からクッキーの入ったボックスを受け取りながら彼はこちらをしっかり見て、再び口を開いた。
「あえてこんな食欲を低下させる見た目にしたのはわけがあるんだろう」
「……君もなかなか失礼だね」
「魔物が現れようものなら投げつけてやればいい。いい撃退法のひとつになるかもしれないからな」
「……君に投げつけてやりたいね」
言うなり彼はにやりと口角を上げたため、あたしもつられて笑う。
「エクテス、今日もあの超音波を頼めるか。こちらも君には武器を教えよう」
「ああ、任せろ」
あれは超音波ではないけどな、などと言う言葉をぐっとこらえ、あたしは深く頷いたのだった。




