穏やかな朝食は第二王子と
「疲れはない?」
品格あって美しい所作で朝食を口に運びながらルイが聞いてくる。
「体力的には問題ないが、心はそこそこ疲弊している」
次から次へと予期せぬことが起こり、状況についていけないことが多く、戸惑いが隠せない。
「すでに君の兄弟王子だけでもお腹がいっぱいだ。何なんだ彼らは」
「そうだね。それは俺も理解している」
一言では表せない。
彼らはあまりにも情報量が多すぎるのだ。
「昨日はなんだかんだで肝心のところが聞けなかったからね。今日はよろしく頼むよ」
ここに連れてこられた理由も含め、今後のことも聞いておきたい。
昨日はまんまと第一王子の美貌に魅了されて、あのあと脳内が正常に働かなくなってしまい、まったくもって使い物にならなかったため、今日は改めて仕切り直しである。
「もちろんだよ。今日は俺の近衛団を紹介するよ」
「……ああ、乗り気ではないが、心しておく」
ここへ来てからの経験上、人と会うことのほうが心労ではあるが、致し方ない。
「ルイ」
「おおっ!」
ふと思いだしたことがあり、声をかけると、彼は嬉しそうな顔をこちらに向けた。
「なんでそんなににやついて……」
「だって、名前で呼んでくれたのは久しぶりじゃないか」
「ああ、そうだね」
ペテン師王子が。
「すっかり忘れていたんだが、君、怪我は大丈夫なのかい?」
「怪我?」
「あたしをここへこさせた経緯は感心できるものじゃないけど、君がアンネを庇って負傷したことは事実だ」
改めて背筋を伸ばし、頭を下げる。
「妹を守ってくれて、心から感謝している。ルイ、ありがとう」
あたしが注意を怠ったのは事実で、人ならざるものに立ち向かったルイが血を流したというのはたくさんの人間が目にしていた。
彼がかなわなかった相手というのだから、相当のツワモノだったのだろう。
「間に合わなかった自身を不甲斐なく思うよ」
「……驚いた。マリアにそこまで言ってもらえるなんて、怪我をしたかいがあったよ」
「おいおい、冗談はよしてくれ」
「俺は王子だ。万全の状態で治療に当たってもらっているよ。もう平気さ」
「それならよかった」
めくれるだけめくって腕を見せてくれる。
見える部分は確かに彼が言う通り、特に傷がある様子もないため、ほっとした。
「次は必ず君には傷をつけないと約束する。あたしも加勢するから」
「頼もしいよ」
ルイが拳を伸ばすため、同じく拳を合わせる。
あたしたちはもとより戦友だったのだ。
彼が敵わないのなら、あたしがいる。
「ヘイデンの部下たち相手にあそこまで可憐に対応したマリアのことは鼻高々だったよ」
「わかっていて見て見ぬふりをするなんて、君たちも人が悪いよ」
「でも、君はちゃんとひとりで対処した。俺も本当は加勢したかったんだけどね。マリアはそれを許さないだろうからね」
「あの手合せであたしも考えさせられたよ。体術だけでは限界があるね」
腹黒極悪王子の目つきの悪い部下は腰元に剣を所持していた。
あたしが体術で応戦したからだろう、あの男は剣を抜くことはなかった。
でも、剣を抜いていたら勝敗もまた変わってきただろう。それに、妖精が近くをうろついていたことも大きい。加えてあの術師の天使も相当な力を持ち合わせているのは相手をせずとも感じ取ることができた。
「あたしは近距離戦しか対応できない。近いうちに長距離戦で対応できるよう何とかしたいと思っているんだ」
「マリアは本当にいつでも前向きだね」
「負けることは何よりも嫌いだ」
顔のいい男と同じくらいに。
「そうだね」
深く頷き、ルイはナフキンを口もとに添える。
「行けるかい?」
「ああ、もちろんだ」
ルイが立ち上がり、あたしも意気込んで立ち上がる。
今日も新しい一日が始まる。




